ピアノゲート事件が教えるもの(1) | 方丈随想録

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1月中旬のこと、ロンドンのパンクラス国際駅内の通路でイギリスのピアニストと中国人グループとの間でもめ事があった。警察官が介入し、その場の紛糾は収まったが、その状況がYoutubeで世界に拡散した。少なくともイギリス国内では国民の関心を強く引き付ける問題になっている。この紛糾に対して「ピアノゲート」(Pianogate)という名称が与えられていることは、「ウォーターゲイト」をもじったもので、中国共産党によるスパイ行為を暗示している。

事件の詳細はYoutubeの動画でアップされているし、日本人による解説動画もアップされているので、事件を知らない人はそちらを検索されたい。ここでは概略を小生の視点から記述したい。

イギリス人の通称Dr.K(Brendan Kavanagh)が通路に設置しているピアノを演奏していた。そのピアノ演奏はライブ中継されていた。ピアノの背後(十数メートル程度か)に中国人の若者中心のグループが数名立っていた。彼らは一様に赤いマフラーを首に巻き、手には中国国旗の小旗を持っていた。うち一人は大きなマイクを備えたカメラを手にしており、中年の女性はChristine Lee という在英弁護士で、イギリス諜報機関MI5から中国スパイの嫌疑をかけられている。イギリス国会に出入りして情報を集めていたという。

ピアノゲート事件が大きく取り上げられたのは、ピアニストを撮影していたカメラが後方に居並ぶ中国人を映していることに気づいた中国人グループがDr.Kに撮影の中止を要請したことである。中国人グループは「プライバシーの権利」、とりわけ「肖像権」の保護の観点から撮影の中止を求めた。それに対して、Mr.Kは演奏場所、同時に撮影場所は「公共の空間」(public space)だから演奏も撮影も「表現の自由」だから中止できないと断った。「プライバシーの権利」と「表現の自由」の対決となると、わが国でも三島由紀夫の『宴の後』事件を思い出すが、ことは権利間の対立にはとどまらないのが今回の事件だ。

当初、Mr.Kはグループを中国人ではなく日本人と誤解していた。ところが、Mr.Kのところにやってきた複数の女性がいづれも中国の国旗を手にしていたので、そこで日本人ではなく中国人であることに気づいた。その際に、女性が持っている旗に触れたところ、その隣にいた中国人男性が大声で"Don't touch her"と連呼した。Dr.Kが驚いたのは当然だ。中国人グループはDr.Kを「痴漢」扱いにして不当に道徳的非難でDr.Kを服従させようとしたのだ。しかし、中国人側の狙いはうまくいかなかった。なぜなら、その場にはDr.K以外のイギリス人が一部始終を目撃していたからだ。中国人側は作戦を変更して、Dr.Kが口にした「ここはイギリスなのだから中国の法に従う必要はない」という主張を「人種差別」(racism,discrimination)だと非難し始めた。そこに警察官2名が到着し、中国人グループを引き離した。