太極拳やタイマッサージをやっている人が
モデルとしてやって来た。

太極拳をやっている人は、気功法にも長け
指導もしているキリッとした女性だった。
彼女は最初から、
私がどんなワークをするのか
観察するのが目的だったようだ。
言われたことはあまりよく覚えていないが
かなり手厳しいことを言われた記憶がある。
そこはツボではない。
もう少しメリハリをつけた方が。
と意見を言われた。
私はワークの内容そのものが違う
と思ったものの
ボディワークの先輩。
有り難く、アドバイスとして
受け止めることにした。
唯一、このようなユニークなワークを
体験したのは初めてと言われたのが 
せめての救いだった。

タイマッサージ店を営む店主との出会いは
後学のためと、
私がマッサージを受けたことに発する。
トレガーのソフトでデリケートなワークと違い
少々強く感じたが、他のワークより
圧力を感じなく、それなりに気持ちがよかった。
施術が終わり、談笑している時に
店主の手を触らせてもらい、
重さをはかる感じで、
彼の体を感じさせてもらった。
さすが彼はプロのボディワーカー。
力の抜くことを瞬時のうちに心得ていた。
私も触って、感触が変わっていくのが
顕著にわかった。
感度のいい人だなと感心した。 

その後家に帰った後、
店主から電話がかかってきた。
「あれから、何人かを施術して、仕事を終了したのだけど、いつもだったら疲れきって、手足が冷たくなるのだけど、今日は温かい。じんじんもする。きっとあなたが触ってくれたお陰だ。今度あなたのワークを受けたいがいいだろうか?友達を連れてきてもいいでしょうか?」と。
これには、私自身もビックリした❗
改めてトレガーの素晴らしさを再認識した。

数日後に、彼は友達を伴って、
我が家にやって来た。
施術後、「こんなワークは初めて❗」と
言っていただいた。

私は、モデルになっていただいた方のレポート50枚を整理し、レベル2の制覇とオプションである解剖学の研修を受けることにした。

次回につづく。

レベル2の審査を終え
私はすぐに、ボディになってくれるモデルを募った。
これまで、延べ30の人にモデルになってもらっているので、その方々に、再びモデルになってもらうことができた。
しかし、私としては、さらに練習をしたかったので、新たな人を探した。
幸い、私は仕事などで、人脈を広げてきたので
思ったより容易にモデルを見つけることができた。
この時は、延べ50人の人から、練習をさせてもらったように思う。

そして、私は、その頃から、プロになることを意識していた。
ライター業をすっぱり捨て、この道に賭けようとも思った。
私は、猫ましっぐら。
思い込みの強い人間である。
加えて、ひとつのことしかできない
不器用な人間である。
また決めたら、瞬時に走り出し、突っ走る。

たくさんのモデルを相手にするようになって
それぞれに、体のリズムがあることを発見した。
トレガーアプローチの基本手技は
なでる、伸ばす、揺らすの
ソフトなワークに加え
モデルの重さを感じることである。
前にも言ったかもしれないけれど
モデルの部位の重さを感じるには
手技する方は、手の力を抜いて
相手の部位の状態を
きちんと把握しなくてはならない。
これが結構難しい。
なぜなら、手の力を抜くのは
まず自分をリラックスさせて
自分を0(ニュートラル)にする
必要があるからだ。
この0のリラックスが自分を試させられるのだ。
瞑想状態を作ることに似ているのかもしれない。

練習室は、玄関先にある和室に当てた。
南向きの和室は2方から陽が射し込み
障子を通した光が柔らかい。
モデルをお願いする人には
まずエッセンシャルオイルを入れた足湯に
浸かってもらう。
その時に、よもやま話など
少し雑談をさせてもらって
私なりに少しでもリラックスして
ほしいと思うからだ。

テーブルに乗ってもらい
私は、モデルから少し離れ
目を閉じ、頭を空っぽにし
意識を丹田に集める。
そしておもむろに首を伸ばし、
頭を揺らし、体のアウトラインをなぞる。
トレガー(以降トレガーアプローチをトレガーと略する)では、それを彫刻するとも言う。
その後、うつ伏せになってもらい
背中のワークを行う。
話は前後するが、ワークを行う前に
必ず、相手にいまの体の状態を聞く。
そして、一緒に、手足を動かしたり
歩いたりして、動きの確認も行う。
ワークが終わると、
しばらくそのままの状態でいてもらい
静かにゆっくりテーブルから降りてもらう。
テーブルから降りたモデルに
いまの感じを伝えてもらう。
ワークをする前と行った後の違いなども聞く。
その後、モデル自身に、
体の部位と対話するようにイメージしてもらい
体を感じる作業をしてもらう。
トレガーでは、それをメンタステックスといい
自分自身で、セルフケアを行うことも指導する。
これで、ワークが終了。
その後に、ハーブティを出し、
本日のワーク体験をアンケート用紙に
書いてもらう。
ついでに、次のワークの予約を入れてもらう。
これが、私の練習の流儀だった。

練習はとても楽しかった。
トレガーは、ワークを行うことで
相手を気持ちよくさせることもさることながら
行う方も気持ちよい。
それが、トレガーの大きな特徴かもしれない。
トレガーは、やってあげる、してもらうという
関係性ではない。
基本的には、双方の関係は対等で
体と体の対話。
お互いの状態を確かめながら進める
ライヴジャズセッションのようなもので
実際、ワークはセッションと呼ばれている。
モデルと行う方の体のリズムがピッタリ合うと
ふたつの体がひとつになったように感じ
共鳴感を覚え、至福な気持ちになる。
たぶん、こんな感じは他のボディワークでは
味わえないのではないかと思う。

やがてモデルになってくれた人の口コミで
プロのボディワーカーの人まで
練習モデルとして訪れるようになった。

次回につづく。




私の祖母は、私が17歳の時に死んだ。
祖父は、私が20歳の時に死んだ。
祖母の時は、私はばーちゃん子だったので
とても悲しかった。
だけど祖父の時は、涙の一滴も出なかった。
私は、祖父が嫌いだった。
いつも威張り、怒ってばかり。
母をなじり、罵倒していた。
孫の私にも優しくすることもなかった。

でも、父は違っていた。
父はひとりっ子だったが
祖父母に厳しく育てられた。
幼少の頃から、学校に行く前に
家の拭き掃除を済ませてからでないと
学校に行くことができなかった。
高校を卒業後、祖父が始めた売薬業を
受け継いだ。

祖父は仕事の面では、長けていた。
野心家で精力的な祖父は
販売網を拡げ、売上を伸ばしていた。
父は、そんな祖父を尊敬していたのだ。
いま、自分がその仕事を引き継ぎ
それを守れるのも祖父のおかげと信じ
最後まで祖父に畏怖の念を抱いていた。
祖父が死んで、人前では毅然としていたが
時折、席をはずし、涙を流していた。
私はその姿をみて、とても複雑な気持ちになったのをいまでも覚えている。
正直、いまでも祖父のことは好きではない。
だが、私の大好きな父が祖父が好きだったのは間違いない。
私の血の中に、祖父の血が混ざっているのも
間違いない。
いつの日か、寛大な大人の人間になって
祖父を好きになることができるようになるのだろうか?