ピピッ!ピピッ!ピピッ!・・・・・。
心地よい眠りを切り裂くように午前6時15分にセットした目覚まし時計が鳴り響いた。
「うぅ・・・・眠い。。。。」
そんな思いを必死に振り払い、目をこすりながら、私はゆっくりと起きあがった。
ジョギングパンツとTシャツ、靴下をもって私はリビングにおりた。
「おはよう。」
妻と長男が、私の挨拶に応えてくれた。10分ほど前に起きたらしい。
私はゆっくりとパジャマから運動ができる服装に着替え、玄関へと向かった。
ジョギングシューズを履き、1kgの鉄アレイを両手にもち、耳にi-podを付け、スイッチを入れながら玄関扉を開ける。
午前6時30分。何とも言えないすがすがしい風と、私と同じような寝ぼけ眼の日差しが温かく包んでくれた。
あの東京の奇跡から約2ヶ月が経っていた。季節はもう秋である。ただ、季節は変わったけれど私は何も変わることなく同じように走っている。
大通りまで歩き、信号が変わるのを待ちながらストレッチを行う。青色に変わり、反対側にわたって、今から走る道をじっと見つめた。
大きく息を吸い込み、ゆっくりと足を進めた。
早朝にもかかわらず人通りは結構多い。大通りを進み、コンビニのある三叉路を左に曲がる。そのままゆったりとした上り坂を、これまたゆったりと走って行く。
登り切ったところでさらに左に折れ、いつもの公園に入った。
シンと静まりかえった公園内を走る。少し走ると野球場にさしかかる。今日はあまりに天気が良く、気分が良かったので、その野球場のベンチで少し休むことにした。
ベンチから空を見る。透き通ったような青い空が、私を包み込むように広がっていた。そっと目を閉じ、東京の日々を思い浮かべた。
いろんな想い出が、昨日のことのようによみがえる。まるで宝箱を開け、ワクワクしながら次々と宝物を取り出すように、その一つひとつが輝いていた。
一年前の悪夢、その悪夢を振り払うかのように始めた走り込み、自分の力を試すためのマラソン大会、仕事が終わってからの投げ込み、暑さに負けず必死で取り組んだ全体練習、監督の選手起用法への反感、1年ぶりの東京、東京で初めてのゴリとのバッテリー、ノリの力投、チームが一つになった瞬間、堂々3位への入賞、涙の打ち上げ、ともに語り、笑い、泣いた奇跡の3日間、そして、得難い経験と仲間達。
そっと目を開けた。空を眺め、去年も同じような青い空を私は見ていたのかもしれないと思った。ただ、気づくことすらできない自分だったのだろう。そんなことを静かな早朝のグラウンドで1人考えていた。
そして、自問自答した。
「おい、いつまで主将やり続ける気?もう、ええ歳やろ。それなりに結果でたし。ぼちぼち引き際ちゃうか?」
私は少し考え、
「そうやなぁ。そろそろ引き際やろなぁ。でも、まだまだ若いやつに負けられへんって言う気持ちと若手に任せなあかんって言う気持ちが交錯してるわ。」
と、そう答えた。すると、
「そうか・・・・、でも、すぐにとは言わんけど、近いうちに世代交代せなあかんのちゃうか?結構、うっとおしがられてたりしてなぁ。みんなはよやめてほしいって思うとるかもよ。おっさんの戯言は聞きたないやろし・・・・。」
確かにそうかもしれない。今年で38歳だ。いい加減、若手に任せた方がよいかもしれない。
でもせっかく軌道に乗ってきたところだ、ここで身をひくのも無責任ではないかと思う。
正直、そんな気持ちが大きく交錯している。何度も言うが今年で38歳だ。若い奴にバトンを渡したい気持ちは大いにあるが、同時にもうじき野球がしたくてもできない、若い奴らを引っ張っていきたくてもいけない年齢がやってくるという現実も見えていた。
もう、40歳だよ。。。ほんと、おっさんだよ。。。筋肉は衰えるし、体臭きつくなるし・・・・。
そう考えると、できる「今」を大切にしたいと思った。
「確かにおっさんやなぁ。もうじき40歳やもんなぁ。でも、もうちょっと自分が納得いくまでがんばってみよかなって思うわ。それであかんかったらきっぱり引くわ・・・・。ただ・・・・。」
「ただ・・・?」
「加齢臭を気にしながらな。」
そういうと、もう1人の自分は大きな声で笑いながら、あきらめた様に私の心の奥底に消えていった。
遠くの山々は、頬を赤らめるように徐々に紅葉を始め、本格的な秋の訪れを知らせていた。
涼しい秋が終わり、寒い冬になり、温かい春が来て、そしてまた・・・・。
次、東京で会う自分はどんな自分だろう・・・・・ただ、どんな自分であれ「熱い夏」にはしたい。
私はゆっくりとベンチから立ち上がり、「よしっ!」と、小さく声をかけ、また走り出した。
眼前に広がる道は、まっすぐ、そして永遠に続いているように感じた。
~ 加齢臭を気にしながら ~ = 完 =