太極拳推手における一つの意識として、相手を包み込む事を挙げたい。一般的に推手をされている様子を見ると、力のぶつかり合いになっているケースが多い。もしくは、全く相手に脅威を与えない、形だけの推手も見られる。これらを避けるためには、相手を感じつつ、より小さな力で相手を不利な状態に誘導していく事が肝要となる。しかし、攻撃心があると力を入れていないつもりでも、力に頼る推手になりがちである。むしろ攻撃心を捨て、相手を優しく包み込むぐらいの心理状態で推手を行うと、不思議と相手を不利な状態に誘導しやすくなる。常に相手を包む気持ちがあれば、急に相手に推されても、容易に対処出来る。結局相手がどうこうではなく、自身が常にリラックス出来ているかが、推手の力量に繋がると捉えて欲しい。

太極拳は腰から動くとくどいぐらい言われているかと思う。しかし、手足の動きから太極拳の動作を覚える事もあり、レベルが上っても腰から動く事をマスターするのは結構難しい。一つのやり方として逆腹式呼吸を腰から動くきっかけとされる事をお薦めした。先ず逆腹式呼吸とは、通常の腹式呼吸がお腹を膨らませて息を吸い、凹ませることで息を吐くのに対し、背中の腎臓辺りを少し膨らませて息を吸い、緩める事で吐くやり方を指す。最初は奇妙な感じがしたり、そもそも呼吸が出来なかったりするが、お腹が膨らむのを少し我慢して、腎臓あたりを膨らませていくと、肺の奥まで息が届いている感覚が出てくる。これに慣れてくると、腎臓辺りが手足の動きを主宰する事が出来るようになる。捻じる動きだけでなく、足を前後に動かしたり、手を打つ動作も腰や足元から伝えていく感じで制御可能出来る様になる。逆腹式呼吸が完全でなくとも、腰への意念は確実に高まるので、トライしてみて頂きたい。

太極拳推手では円弧を描くモーメントを多用するが、円弧の中心となる支点と円弧を描く力点を何処に設けるかが重要となってくる。自身は相手から推された時、両足の間に支点を置き、相手が推してくる方向に併せて腕で力点をセットするよう心がけている。さらに推された処を瞬間的に虚にして、反対側の腕を実にすることで、推してきた相手を容易に崩すことが可能となる。いわば立体的な円弧力で相手をコントロールするとも言える。色んな処を推してもらって、何処に支点と力点を置くのが効率的か試しながら練習してみて欲しい。