測量のバイト代は日給2000円だった。当時としては考えられぬ高給である。現在の中国の農民工の日給が日本円にして2000円と云われる
測量士のオジさんは良いも悪くも昭和そのモノだった。仕事をしていると昼から雨になりオジさんは云った。
勿論日給は払うが今日の仕事は止めや。映画見に行こ。映画はヤクザ映画だった。高倉健と鶴田浩二の様式美にオジサンは傾倒してたが僕は好きでなかった。
それよりもハッタャケタた菅原文太や松方弘樹が好きだった。 後に深作欣二が作る「仁義なき戦い」の主役に二人はなる。
映画が終わると二人で酒を飲んだ
「君は相変わらず女子高生や女子大生を騙してやりまくってるのか?」
「人聞きの悪い。真面目に付き合ってますよ」
「真面目に泣かしてる分けだ。」
まぁ、それなりに嘘ではないから何も云わなかった。
「今夜は遊廓に遊びに行く。付き合え。勿論金は俺が出す」
僕は真っ先に尋ねた。「病気は大丈夫でしょうね」
「遊廓が一番安全な所や。商売でやると信用が一番大事や。但し飛行機も落ちる事はある。世の中100%はない。それとも君はどんな相手でも最初からゴムを着けるのか?」
いや、初めての相手だと最初の2、3擦りは生を味合いたい。本当はそれが危ないのだが。
夜の遊廓がこれほど賑やかで華やかとは思わなかった。通りではオバサン達が客を引く。店の入口には緋毛氈が引かれ店のエースが座っている。昔なら着物姿の花魁だろうが現在はミニスカートの若い女だ。
測量士の馴染みの店に入ると僕は2階に案内された。30代半ばのワンピースをだらしなくきた女がビールと枝豆を運んできた。枝豆は色が褪せていた。
「お兄さん、遊廓は初めてか?」
「始めてや」
「まさか女が初めてやないわな」
「初めてや」
女がニヤニヤ笑った。
「うちはブロや。人を見る目はあるがな。けどうちのエースはオジさんに取られたな」
「下のミニスカートの女か?あんな女は何処にもいる。興味あらへん」
「うちの相手は中年の腹が出たのばかりや。兄ちゃんみたいな若い男は初めてや。ドキドキするし嬉しい」
ビールを飲み終ると女が始めようかといい、なんの躊躇もなく服を脱ぐと座布団を二つ折りにして枕にすると足を開いた。女の乳も腰も太腿も貧相だった。色褪せた枝豆と同じだ。
貧弱な左内腿の付け根に入墨の赤い花が咲いていた。
「それは?」
「若い頃の悪戯や。歳を取ると花も枯れる」
カチンと何かが変化した。僕の名刀は下腹に突き当たるほど反り変えった。
女と身体を繋いでも僕は難攻不落の浮沈戦艦だった。何時までも続けられた。釣りたての鮎のように跳ねた。
気付いたら女の息が荒くなっていた。女が戸惑う。「まさか!まさか!客に!」
僕は女を抉り続けた。女の両太腿が僕の腰に強く巻いた。
「あかん!あかん!兄ちゃん!まだやで!一緒に終わって!一緒やで!もうあかん!キスして!」
娼婦は客に決してキスさせなと聞いた。身体は打っても心は売らぬプロの矜持だと。
僕達はキスしたまま同時に終わった。
僕は見様見真似でコンバスとディバイダと定規と分度器と計算尺で(PCのない時代は何と原始的か!)測量の作図を書けるようになり、オジさんに代わバイトを連れて測量技師の代わりを務めた。
「錦鯉君、測量会社を二人で作り副社長をやってくれないか。そして行く行くは社長を任せたい」
当時の僕は何をやるかは決めてなかった。
しかし測量屋の雇われ社長になる気はなかった。断るとバイトも辞めた。サラリーマンなどまっぴら!