夏は鱧。冬は河豚。 | 錦鯉春助の冒険

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日常の恐ろしき風景

 関西人は夏は鱧、冬は河豚を食べるのが普通だ。


 天神祭や祇園祭の骨に絡み付く暑さの真夏。骨切りした鱧を茹で、氷水で締めたのを酢味噌か梅酢でいただく。キリキリ冷やした日本酒をキュッとやる。たまらん。


 子供達が小学生までは正月の2日は近くの神社に初詣へ出掛け、それからミナミや通天閣の近くでテッチリ(河豚鍋)を食べた。


 大阪では、づぼら屋を初めとして大学生が気楽に入れるチェーン店が幾らでもあるので若い頃から食べ慣れた文化がある。


 東京では安い店などまったくないので唖然とした。東京の冬の温かい食べ物は何か?


 まさか黒い出汁と醤油臭いうどんやおでんではあるまいな。


 最も関東の人に云わせると関西の出汁は薄くて頼りないらしい。それもなんとなく分かる。


 地域には風土や気候から独特な料理が出てくる。それが文化だ。言わば方言であり標準語からは何もうまれない。


 僕は突き詰めると河豚雑炊が喰いたいのであり蟹鍋、牡蠣鍋、鯛鍋では駄目。絶対に河豚鍋でなければならない。


 テッチリ(河豚鍋)を食べた後の残った葉物など全てすくい上げる。スープに白飯と溶き卵を入れ、卵が半熟になるまでグッグッ煮込む。


 しばらく蒸らすと蓋を開けモミ海苔と三つ葉を散らす。自分の碗につぎ少しポン酢を垂らし、むはむはむは。魔味である。


 甘味、辛味、酸味、苦味、塩味、あらゆる味から開放された絶対無味が河豚雑炊だ。


 碗の中に銀河が見える。