猫と女と僕 | 錦鯉春助の冒険

錦鯉春助の冒険

日常の恐ろしき風景

 当たり前だが若い頃は若さの良さなど分からない。若さの素晴らしさに気づくのは歳を取ってからだ。


 若い頃の不安は将来に対する恐怖と骨が凍るような孤独感であった。


 逆に歳を取った今は、人間は元々独りだと悟ったから孤独感はない。それに社会的役目は果たしたつもりだし、個人的にもやりたい事はやった。


 これからは死ぬまでの時間潰しである。死は怖いが忌み嫌うものではない。人は必ず死ぬ。


 女の子とセックスする前の情熱的言葉やセックスの後の睦言など太古の昔。女の子の顔も名前も忘れたが猫と抱き合い孤独を癒したのは昨日の事のように覚えてる。


 摺りガラスの窓は真冬でも少し開けある。窓の外は二階の屋根瓦が続き洗濯干場から下に出られる。うちの猫のテリトリーだ。


 だから彼は扉を開れば廊下に出られる正式の出口を利用しない。彼のテリトリーではないからだ。


 ベッドはリンゴ箱を2列☓6列に並べ、ベニア板とマットレスを敷き布団を乗せた原始的なものだ。狭いが四畳半の部屋の三分の1を占める。


 真冬の夜中に猫が帰り。必死で僕がかぶる布団の中に潜り込もうとする。猫を布団に入れ頭をなでるとゴロゴロ喉を鳴らし肉球と爪を僕の肩に掛ける。


 丸で抱き合う形になる。いや、抱き合っているのだ。明日は日曜の朝だ。日曜しか会えぬから彼女が朝から来る。


 高校を卒業した彼女は大学受験をせずに公務員試験を受けて合格した

 現在は万博公園近くの実家に住み職場に通う。


 

 早朝、扉が開くと猫は飛び起き鳴いた。彼女が言った。「朝ご飯にしょうね」


 そして買ってきた猫の大好きな(鯖の水煮缶)を開けた。猫はグハグハと鳴いた。


 猫がブレックファーストを食べてる間に彼女はジャケットを脱いでベッドに入って来る。


 僕達はしっかり抱き合う。もう恋人同士だから慌ててSEX する必要がない。抱き合うだけで満足だ。


 だが二人だけの幸せは何時までも続かない。朝飯を食べ終えた猫が邪魔するように僕と彼女の間に力ずくで割り込み喉をゴロゴロ鳴らす。


「わ!こいつ、めっちゃ鯖臭い!齒を磨いて来い。わ!俺の彼女の胸に顔埋めるな。助平猫!」


「ふふふ、馬鹿ねぇ」


 僕は24歳で彼女は19歳で猫は2歳半だった。