変身−下 | 錦鯉春助の冒険

錦鯉春助の冒険

日常の恐ろしき風景

 酒の弱いTは鼾をかいて寝てる。約束の時間に僕は庭に出た。


 満天の星と満月で地上は幻想的に明るかった。農家の庭は広い。離れを過ぎると小さな小屋がある。


 建付けの悪い扉を開けると中に入る。右手にはスコッブや鍬や一輪車が壁にならぶ。左手は肥料に使うのか藁が積み上げられている。


 藁の上に寝てると、浴衣姿の奥さんが来た。表情が硬い。僕の傍らに寝ると唇を合わせた。奥さんの息が乱れる。


 僕は浴衣の裾を捲り、初めて太腿を目にした。それは鋭角な直線と柔らかな曲線で織り込まれた圧巻のラインだ。


 窓から射し込む月光がレンブラント光線となり、刷毛で薄く油を引いた如く太腿はぬめっていて男を狂わせる。


 最後にまとった肌色の小さな布を剥ぎ取ると開かせる。


 そこは真っ黒のジャングルの下に既に楕円形に開いた赤褐色の池があり池の水はふっふっ沸騰していた。


 僕はサハラ砂漠を彷徨う喉の乾きを覚えた奴隷商人だ。オアシスの池に唇を付け舌で吸い上げる。


 ペルシャ猫が皿のミルクを舐めるぺちゃぺちゃした湿り音と、奥さんの絹のような細い声が交差する。喉の乾きを癒やしてから身体を繫ぐ。


 たいして時間は掛らなかった。奥さんは血走った瞳を開き僕を観た。


「もう、もう、もう、もう、もう無理!」


 激しく硬直し、凄まじく痙攣し、捻じれ、次々に爆発し、やがて弛緩して行った。


「東京で働くお父さんに悪いと思う」

僕は奥さんの胸に顔を埋めて聴いた


「でも今夜は神様がくれた夜だと思う。都会の若い男とこんなになる人生など考えたこともなかった。辛い時に今夜を思い出せば生きて行ける」


「ああ、人生は何でも起きる。良い事も悪いこともね」


「例えば?」


「良い事の方は素敵な人妻と日活ロマンボルノができる。悪い方はグレゴ−ル・ザムザ氏のように或る朝、目が覚めたら自分が毒虫に変身したのを知る」


 僕は硬くなった奥さんの乳首に吸い付いた。