僕は痴漢じゃない! | 錦鯉春助の冒険

錦鯉春助の冒険

日常の恐ろしき風景

 20代の中頃はお金もないから車もなかった


 短い期間だが谷町の清水谷のデザイン事務所でバイトした。大坂城の出城である【真田丸】があった直ぐ傍だ


 一番近い交通機関は地下鉄谷町線の谷町六丁目だ。しかし朝のラッシュは異常に混む。電車の窓ガラスが割れたくらいだ


 谷町線はNHKや府庁、大阪府警のある官庁街を通り東梅田へ行ってから京阪沿線の郊外に抜けるからラッシュ時は混む


 その朝も混みすぎて車内の吊輪も掴めぬ中央で女の子と向き合うはめになった。前後左右から押されどうにもならない


 電車は揺れるから女の子(僕より少し歳上か)と抱き合う形になり身動き取れない。相手の胸の膨らみはぴったり押し付けられるし下半身も密着している


 電車が揺れるたびに密着した下半身がズリズリ擦れ合う。スカートの中の太腿の形もこちらの下半身に伝わって来る。これはまずいと思ったから彼女の耳元で謝った


「ごめんね」

「いえ、私の方こそすいません」

 彼女の顔が赤くなった


「谷六でだいぶん下車するからもう少し我慢してね」


「貴方のせいじゃないから気にしないで下さい」


 女の子から良い匂いがしたとか、むらむらしたとかはまったくない。


 しかし女の子が「この人、痴漢です!」と叫ぶと痴漢になる。


 実際に不可抗力だが股間をズリズリ押し付けたのは事実だし、それをどう取るかは彼女の主観なのだ


 もし僕がその時に40歳以上だったら痴漢とは呼ばれなくても厭な顔をされたのは確かだ


 次の朝から僕はJR(多分まだ国鉄)環状線の玉造で下りた。まだ環状線の方が空いている


 玉造から職場まで15〜20分歩かねばならないが痴漢に間違われ逮捕されるよりましだ