癌検査 | 錦鯉春助の冒険

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日常の恐ろしき風景

 20数年前の事故で首の神経を痛めた。その時に医師から云われた。

 

「これからは季節の変り目には身体が痛むかも知れません。それに歳を取るたびに泌尿器科と精神科とが必要になります」

 

 それからずっと抗鬱剤や安定剤のお世話になっている。

 

 医師に云われた通りに大小便は流す前に必ず見た。毎日ずっと見てると普通と違う時は必ず気づく。人間の脳は優秀だと医師は言った。

 

 どんな髭剃りにも哲学があると言ったのはサマセット・モームである

 

 つまり日常の些細な行為も継続すれば不可思議な奥底が見える場合があると。

 

 7年前だった。僕は便器の小便を見て奇妙な違和感を覚えた。尿はいつもと同じだが脳は異質を感じ続けている。

 

 このときばかりは自分から病院へ行った。自分の直感を信じて。

 

 膀胱癌だった。早期発見だから癌細胞は筋肉の中までは入すらず(筋肉の中に入ると膀胱を取らねばならない)30分ほどの内視鏡手術で終わった。

 

 結局この7年間で3度の手術をするはめになる。5年再発しなければ一応完治と呼ばれる。僕は4年8ヶ月まで来たが最後の5年目の検査で再発した。

 

 3ヶ月に一度検査を受けるが1週間前からストレスが溜まる。悪い結果しか考えないからだ。転移してたら人生終わりだ。検査の朝は吐き気が収まらない。

 

 泌尿器科の待合室で待っていると何時もの看護婦さんに呼ばれた。


「錦鯉さん。久しぶり」


マスクをしているが目元が涼しい。白衣の胸の曲線が柔らかい。好みのタイプだ。

 

 しかしずっと二十代と思っていたが、良く見たら三十五歳くらいかも知れない。最近は男も女も髪型や服装、栄養がいきたわってるからみんな若く見える。

 

 80を過ぎないと爺さん婆さんと云えなくなってきている。

 

 看護婦さんからズボンとパンツを降ろされてチンチンを剝き出しにされ尿道に麻酔液を流される。勿論看護婦さんは手袋をしているが。

 

 これが20代なら手袋をしていても巨砲はムクムクと起き上がり看護婦さんを驚かせただろうが。すっかり歳を取ったものだ。


 麻酔が効いてくる10分が経つと医師がやってくる。内視鏡をいれますから深呼吸して下さいね。


 麻酔は効かないから痛いし違和感が凄い。はい。OKです。異常ありません。

 

 検査が終わった夜は死んだように爆睡する。