夜の10時過ぎ。
「考えたいことがある」って言い残して、ふらっと出て行ったケイトさん。

 

なんとなく胸騒ぎはしてたけど……
案の定、帰ってきたのは深夜3時すぎ。

 

寝てた私を容赦なく叩き起こして、

「タクシー代ないから、払っといて」

って、当たり前みたいに言い放ち、そのまま布団にダイブ。


えっ、えっ……と混乱しながらも、外に出てタクシー代を払うハメに。

もう、ほんと……何なの。

 

 

次の日。
お昼休みに部屋に戻ったら、開口一番。

「磁気ネックレスと綿棒買いたいから、2,000円ちょーだい」

 

あのね、私、今お昼ごはんもカップスープで済ませてるのに。

夜、仕事を終えて帰ってる途中。


「たぶんまた出かけてるな」って思ってたら、やっぱり。

「部屋にいないから。先輩と会うんで遅くなる」

って電話一本。

 

……はぁ。
で、その“活動資金”はどこから?と思って部屋に戻ると、

生活費を仕分けしてた封筒の中の、最後の一万円札が……なくなってた。

毎日毎日、よくもまぁ飽きずにお金が出ていくものだと、空っぽの封筒を前に、ため息。

 

私はマフラーも手袋も買えずに、寒さに耐えてるのに。
そんなこと、きっと思いもしないんだろうな。

 

何より辛かったのは、
仕事でクタクタになって帰ってきた私に、「おかえり」の一言すらないこと。

 

ほんの一言で、私、空も飛べるくらい嬉しくなるのに。

 

「もうこれ以上お金は出さない」って、
何度決めたか分からない。

 

でも、結局またケイトさんに渡してしまう自分が情けなくて、泣けてくる。

 

その夜も、
一度帰ってきたと思ったら「すぐ戻る」ってまた飛び出していって。

 

「パチンコ?」って聞いたら、「初めて負けた!チクショー」って。

 

いや、負けてばっかじゃん。
ていうか、もう何ヶ月分の給料がパチンコに消えてると思ってるの……?

 

そんなこと思いながら、
土砂降りの中、傘も持たずに出て行った背中を、私は黙って見送った。

 

「すぐ戻る」って言ったのに、帰ってこない。

私のいる部屋って、そんなに居心地悪いの?

 

寂しさに潰されそうになりながら、
布団に入っても眠れないまま、時間だけが過ぎていった。

 

やっと、深夜2時前。
ケイトさんが帰宅。

 

「仕事以上に楽しいことなんてないな〜」って、
ふらふらしながら布団に倒れ込む。

 

部屋中に、お酒の匂いが充満してる。

 

……なんで闘わないの。
あなたの大事な仕事を奪ったのは、お酒なのに。

 

こんな風に、少しずつ少しずつ、
心が削られていくんだよ。

帰宅すると、やっぱりケイトさんの姿はありませんでした。

 

最近はというと、ゲームセンターやパチンコに出かけて、なかなか帰ってこない日が続いていて…


「またパチンコかなぁ」と思いながら、
「ご飯食べて帰ってくる?」とLINEしてみたけど、既読にならず。

 

前だったら不安でいっぱいになっていたけど、
共依存に気づき始めた私は、「気にしない練習中」です🍃

 

夜の7時半ごろ、
ほろ酔いで帰ってきたケイトさんの手には、コンビニのおでんとチャーハン。

 

「ぶらうすが居る間は、俺が食事の用意するから」

そう言ってくれたけど…


食事が始まると、急に上司への恨みごとが止まらなくなって。

「あ、結構飲んできたんだな」って感じた私は、
波風立てないように、相づちを打ちながらただ聞いていました。

食べ終えると、彼はそのままぐっすり。


…ゲームとパチンコで疲れちゃったのかもしれないね。

 

 

しばらくして目覚めた彼が、ぽつりと言ったひと言。

「休職中に仕事しちゃダメかなぁ。遊んでも飲んでも、つまんないんだよなぁ」

 

その言葉を聞いた瞬間、
「この人が本当に求めてるのは“居場所”なんだ」って、心にストンと落ちた。

 

そして夜10時を過ぎた頃、私がお風呂に入っていたら、
「考えたいことがあるから出かけてくる。先に寝てていいよ」って声が。

 

努めて明るく「はぁい」と返したけど、
玄関のドアが閉まる音が、なんだか胸に響いて…

 

「誰と飲むのも、どこに行くのも、ケイトさんの自由」
—そう自分に言い聞かせる私がいました。

 

 

『楽しく仕事がしたい。』
それがケイトさんの本音なのは、わかってる。

 

でも、気に入らない人がいるとすぐに職場を飛び出してしまう。


それって、自分で居場所を手放してることなんじゃないかな。

 

私が何か言っても、きっと変わらない。
本人が自分で気づかない限り、同じことの繰り返しなんだと思う。

 

私は待つしかない。

だけど、もう巻き込まれたくない。


彼の仕事のことも、お酒のことも、私が背負うものじゃない。

 

私は私。
もう、後始末はしない。

 

そう決めました。

 

なぜなら、私自身をこれ以上傷つけたくないから。
そして、経済的にもしっかり自立したいって心から思ったから。


「経済的自立」—私の新しい一歩。まずはそこから。

 

この頃の私は、ようやく“共依存”という言葉の輪郭が見え始めた時期でした。
もしあのとき、誰かに相談できていたら、何か変わっていたのかもしれません。

 

でも当時は心も生活もボロボロで、
冷静な判断なんてできる余裕、どこにもなかった。

 

助けの求め方もわからず、
「このまま共倒れになるんじゃないか」って、毎日不安に押しつぶされそうだった私。

 

そんな中で、かすかに見つけた希望が「自分で立つこと」でした。

 

それだけが、あの頃の私にできた、小さな一歩だったんです🌱

この日、ケイトさんは約束通り病院に来てくれました。
でも…診察時間には間に合わず、受診できずじまい。


来週の金曜日に、改めて予約を取り直すことになりました。

そのあと、病院の近くのファミレスで一緒にランチ。
 

ケイトさんは、ノンアルコールをオーダー。
「私に気を遣ってくれたのかな?本当は飲みたかったんじゃないかな…」
そんなことを、つい考えてしまう私。

 

ケイトさんは笑いながら、
「今日は診察があるから(新幹線で)ワイン飲むの我慢してきたんだけどな~。診察できないなら飲んでくればよかった」
なんて、ジョークとも本気とも取れる口調で話していました。

 

久しぶりに、笑いながらの食事。
アルコール依存症のことも忘れてしまいそうな、穏やかな時間でした。

 

 

翌日、私の体調がちょっと良くなかったので、ケイトさんにお願いして、お弁当を買ってきてもらうことに。
 

夜になってもお酒を飲まず、炭酸飲料で過ごしてくれていて、
昨日からずっと穏やかな時間が流れていました。

 

そして私は、思い切って話しかけました。

「私の心について、聞いてもらいたいことがあるんだけど…」

実は、自分が「共依存」であることを、ケイトさんに伝えたかったのです。

 

ケイトさんは姿勢を正して、「いいよ」と言ってくれました。

 

私はできるだけ「私」を主語にして、話しました。

・自分が共依存症であること
・認知の歪みが起きてしまっていること
・過剰に世話を焼くことで、ケイトさんのアルコール依存を悪化させてしまったこと(本当に後悔していること)
・これからは、ケイトさんに依存せず、自分の軸で生きていきたいこと

最近学んだ「アイメッセージ」を意識して、
拙いながらも一生懸命、言葉を紡ぎました。

 

ケイトさんは、最後まで私の話をちゃんと聞いてくれました。

話し終えたとき、胸の中にあった重たいものが、少しだけ軽くなった気がしました。


そして、ケイトさんにちゃんと謝ることができたことに、ホッとしました。

 

そんな私に、ケイトさんはこう言いました。

「夫婦なんだから、一緒に治療すればいいんじゃないの?」

心が、ぐらりと揺れました。

 

でも私は、決心していたのです。

 

今ここで、ちゃんとチャレンジしなければ。
10年後、笑って過ごせる未来なんてきっと来ない。

 

だから私は、もう一度しっかり伝えました。

「別居しよう。私は、自分を変えたい。そして、トラウマもちゃんと治したい」

するとケイトさんは、「わかった」と理解を示してくれて、
さらに驚くことを言ってくれたのです。

「俺も入院して、アルコール依存症の治療をするよ」

 

続けて、こんなふうに話してくれました。

「俺、もう一生分飲んだって自慢げに言ってたけどさ。
一人息子を(義父母に)取られて、恨みと怒りで酒を浴びるように飲んでたんだと思う。
楽しい酒だったら、こんなふうにならなかったんだろうな。
だから環境を変えなきゃいけないと思って、看護師してる従姉妹に相談したんだ。」

その言葉を聞いて、涙が出そうでした。

 

こんな日を、どれだけ待ち望んだことか。

こんなふうに、前向きな話し合いができたのは、結婚してから初めてかもしれません。

 

「私たちは変われる。きっとできる!」

 

依存症の克服は、簡単なことじゃない。
きっとスリップもあるだろうし、また振り出しに戻ることだってあるかもしれない。

 

でも、行動することが大事だと私は信じている。

1cmでも、2cmでも、少しずつ前へ。

 

この日、私は心から、
「私たちの未来に光が差し込んだ」
そんなふうに感じていました。

12月6日。

しばらく戻ってこないと思っていたケイトさん。 「一旦アパートに戻ろうかな…」と考えはじめた、その矢先。

まるで私の気持ちを読んだかのようなタイミングで、電話が鳴りました。

 

「やっぱ、明日病院に行く。受診に間に合うように帰るから」
「保険証をアパートに送ったから、届いたら直接病院へ持って来てくんない?」

 

正直、
“また都合のいいときだけ頼ってくるな…”
そんな思いがよぎりました。

 

でも、ずっと願っていたアルコール専門外来の受診。
そのチャンスを逃したくない気持ちが勝ち、私は急いでホテルをチェックアウトしてアパートへ。

 

いつもより穏やかで明るい声。
「もしかしたら…今度こそ本気かもしれない」
淡い期待が胸に灯りました。

 

部屋に入ると、空き瓶と出かけた形跡。
「あぁ…やっぱりな」と落胆しつつも、「それでも、明日受診するって言ってたし」と自分に言い聞かせて待つことに。

…ところが、夜。

「気が済んだら帰る。やっぱり明日の病院キャンセルしといて」

心の中で、何かがぷつんと切れました。

でも。

ここで私は、初めて“学び”を実践できたのです。

「それは自分でしてください」

…言えた。

初めて、ケイトさんに“No”と言えた瞬間でした。

 

その後もやりとりは二転三転しましたが、
最終的に「予定通り受診する」とのことで、ケイトさんは東北の実家から朝一番の新幹線で帰ってくることに。

 

声のトーンもどこかスッキリしていて、
「今回は本当に違うかもしれない」と、私の警戒心はだいぶ緩んでいました。

私は待ち合わせた病院へ、予定よりかなり早く到着。

信じて、ただただ待ちました。

 

病院近くのカフェで、ノートを取り出して少しだけ自分と向き合う時間。

 

昨夜、改めて共依存の論文を読んで、
自分が重度の共依存症者だと自覚した。
アダルトチルドレンで、トラウマの治療も必要だと感じた。

ケイトさん、ずっと苦しかったよね…
私が管理や束縛をして、息苦しくなって、お酒に逃げたんだと思う。
帰るコールやカードを預けさせたのも、信頼されていないと感じさせたよね…。

本当にごめんなさい。

自分のこと、ちゃんと見つめ直そう。
苦しくても、不安でも、寂しくても、自分の気持ちを素直に伝えられる人になりたい。

誰かに“幸せにしてもらう”んじゃなくて、
“自分で幸せを感じられる私”になろう。

気づいた今日が、はじまりの日。

 

さて。

病院に着いたのに、肝心のケイトさんとはまだ連絡がつかない。

 

新幹線に乗ったって言ってたけど…どこ行ったのかな。

診察は14時まで。


受付もそろそろしないと間に合わないけど、本人がいないんじゃ、どうしようもない。

 

まぁ、もう少し待ってみよう。

焦らず、気長にね。

保健所で相談を終えた帰り道、
ふと頭の中に浮かんできたのは、相談員さんのあの言葉でした。

 

「ケイトさんは元々、DVの気質を持っていて、
それを自分でコントロールできていたけれど、
お酒と一緒に、それが効かなくなってきたのかもしれませんね」

 

たしかに…
あの人の粗暴な一面、思い返せば最初から少しあったな、って。
 

そんなことをぼんやり考えていたときです。

スマホをふと見ると、ケイトさんからの着信履歴。
 

出るべきか、無視するべきか迷ったけど、
「もし酔ってたらすぐ切ればいいか」と思い直し、
直接は怖かったからLINEでメッセージを送ってみました。

 

内容は、この前妹さんに頼まれて送った健康保険証のこと。
「保険証、届いた?」とだけ。

でも、やっぱり返信はありませんでした。

 

 

頭の中はまだグチャグチャ。
支払い、次の宿の手配、お金の記録、荷物の整理…


やることが桜の花びらみたいに、ふわっと舞い上がってきます。

それでも不思議と「やらなきゃ」っていう最低限のエネルギーは、
ほんの少しだけ、戻ってきていたような気がしました。

 

そしてなぜか、
「ケイトさんと別れて暮らす」未来を想像して、
物件を探し始めている自分がいました。

 

酔って突然帰ってくる恐怖に耐えられなくてホテル暮らしだった私には、
“安心できる空間”というのが、何よりも大切だったんだと思います。

 

カプセルホテルやネットカフェも候補に入れたけど、
あのときの私は、ただ心が落ち着ける場所が欲しかったんです。

 

翌日、いくつかの物件を内見してホテルに戻り、
「今日はゆっくり休もう」と思ってベッドに腰を下ろした、その瞬間。

またケイトさんからの着信。

 

迷ったけど、「酔ってたら切ろう」と決めて電話に出てみました。

 

「俺、今そっちいないから部屋戻っていいよ。
金もかかるだろ?部屋、汚いけどさ。そのままで出てきたから。」

 

妙にハキハキした明るい声で、酔ってる様子はないみたい。


でも、意味がわからなくてキョトンとしていたら、

「12月7日の病院、行かないかもしれない。
まぁ、気が済んだら帰る。」

 

そう言って、一方的に電話は切れました。

え?
え??
どういうことなの…?!

また頭の中がグルグルし始めました。


私は、どうすればいいの?

考えた末に、LINEを送りました。

 

「“もう一生帰ってくんな。さいなら” は、どうなったの?」

 

…でも、やっぱり。
既読スルー。

 

まただ。
心の中に、ぽっかりと穴があいたような気がしました。