告白(自戒と警鐘)【前篇】 | 穴と橋とあれやらこれやら

穴と橋とあれやらこれやら

初めまして。ヤフーブログ出身、隧道や橋といった土木構造物などを訪ねた記録を、時系列無視で記事にしています。古い情報にご注意を。その他、雑多なネタを展開中。

 

※この記事ではウソや誇張を控え(笑)、思い出せる限り詳細かつリアルに真実を書く。

 

 

2019年9月25日、15時25分。私は、門入集落はずれの沈下橋上にいた。

山神さんの真似をして、行きにここでビールを冷やしておいたのだった。

 

山神隊がここを訪ねられた2019年6月には越流して堰堤のようになっていたこの橋も、この日は沈下橋としての本来の姿を取り戻していた。

 

 

ホハレ峠のお地蔵さまのところでお借りしてきた木の杖も、ここに置いてあった。これからの登り返しでまたお世話になり、最後には、ちゃんとお地蔵さまのところに返さないと。

 

 

 

 

ビールと言いながら、

実際はノンアル。

 

登り返したら、ほどなく運転しなくてはならない。汗をかいてそれまでにアルコールなんて飛んでしまうだろう、とは思ったものの、自称・慎重派の私はノンアルをチョイスしたのだった。

 

 

 

 

なぜ、この慎重さが肝心なところに働 か な  か  っ  た  ?

 

 

 

 

 

 

ノンアルは物足りなかったが、

それでもこういうところで飲めば、雰囲気でうまかった。

 

レアな自撮りなんてしちゃって、上機嫌な私。こんなことをしている時間はなかったのに。

 

 

 

 

 

 

休憩を終え、ようやくこれから黒谷に沿ったホハレ峠までの登り返しに向かう。今朝がたに通ってきた道だ。

 

 

 

 

ここでバッチリと、山歩き仕様に衣装チェンジ。

舗装路踏破用にスニーカーも持ってきており(これも山神さんを参考にさせていただいた)、ここまではそれが活躍していたが、これにてお役御免。あとは信頼できるわが相棒・いつもの長靴でホハレ峠に登る。杖もしっかりと。

 

 

 

 

 

この時点での万歩計数値は、

29,124歩。

 

いわゆる山道や舗装路、川渡りまであるという変化に富んだ道程だったため、歩幅もまちまちだっただろう。まあ60cmとすれば、17474.4m。約17.5km歩いてきたことになる。そんなものか?知らんけど。

 

 

 

 

 

 

15時43分。さらば門入。

 

 

この場所に行った先達の方々ならば、ここでこう思うのではないだろうか。

 

 

 

「15時43分?戻るには、ちょっと時間が遅くないか?」

 

 

 

そうなのだ。プランニング時点で当然考えているべきことが、なぜか考えられていなかったのだ。山神さんや先人たちの記事で、そここそを最も参考にせねばいけなかったのに、どこに行きたいか?ばっかりで。本当に粗忽でド素人な私。

 

この日は前乗りで木之本のコンビニで仮眠してからホハレ入り、朝7時ジャストには降下を開始していた。なんでか知らないが、この時間に出発してるんだから、あちこちまわっても普通に帰還できる余裕があるはずだ、というワケのわからん思い込みがあった。途中のある時点(しかも、ガッツリと午後に入ってから)に、「あれ?これもしかして、ちょっと時間ヤバイんじゃ?」と気付くまでは。

 

 

 

なので、先ほどの沈下橋での休憩が、最後のしっかりした休憩とするつもりだった。日没時間を考えれば、相当に急いで登らなければいけない。幸いマグライトは常時携行しているが、暗くなってしまってあの踏み分け道が判別できるか。

 

作業道工事関連の表示が道沿いに点在していたので、それがある目印として期待できるとは思うが、明るいうちにできるだけ距離を稼ぎたかった。

 

 

けど、あそこであんな自撮りに興じたこと自体、コトの深刻さを理解せずにナメきっていたと言わざるを得ない。今となっては。

 

 

 

 

16時14分。黒谷第一砂防ダム。

 

 

 

 

 

 

 

16時31分。黒谷第二砂防ダム。これが、最後の写真。

 

やはり疲労は蓄積しており、第一ダム上流の堆砂地で小休止を余儀なくされた。言わんこっちゃない。

第二砂防ダム上流で、渡渉して黒谷左岸に移る。門入からこのあたりまでは、往路の記憶もハッキリしていた。

 

 

歩きながら、視線はしばしば稜線近くの太陽の位置を追っていた。稜線に隠れてしまったとしても、即刻真っ暗になるわけじゃない。焦るな。そんなふうに心中で呟きながら。

 

 

 

 

 

どこまで歩けばそれがあるのだったか、そこまでは覚えてはいなかったが、心の支えにしていたもの、

 

それは先述の

作業道工事関連の表示。これは行きに撮ったもの。

 

この道よりも数十m上で行われている、ホハレ作業道の開削工事。それに伴う万一の落石発生に対する注意喚起と通行注意の表示で、落石の危険性のあるエリアの端にそれぞれこれが立てられていた。

 

 

 

 

 

掲示されている平面図にて、

黒丸がついているのがこの表示板、門入側の位置。

 

ここから反対側のエリア端までの間には、作業エリア境界を示す表示板がところどころに立てられていたので、この黒丸ポイントにたどり着けば、多少暗くなろうとも道をロストするリスクは低減される。そう見込んでいたのだった。

 

 

 

 

 

平面図の一部分をクローズアップする。

「No.32」のところが黒谷第二砂防ダムで、先述のとおり赤線(今歩いている道)がその上流で渡河しているのがわかるだろう。

 

 

 

つまり、このままズンズン進めば、ほどなく例の表示板があったはずなのだが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

道を、見失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かと言って、パニックにはならなかった。おっと、いかんいかん。太陽の位置ばかり気にしすぎたか。

 

 

道をロストしたら、戻るのが定石。確信を持てるところまで戻って、ああそうか、もう一回川を渡るのか。あれ?でも渡った先には踏み跡がない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

落ち着け。しっかりしろ。

 

 

 

 

 

 

 

ここで、今朝峠で借りてきた平面図コピー(上の写真と同一のもの)を取り出し、道をチェック。すると、道は一貫して黒谷の左岸にあることが確認できた。危ない危ない、間違って渡っちまうところだった。ここは左岸を直進だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時点で私は、とっくに死んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一貫して左岸をつき進んだ挙句に、どうにもおかしいぞ、となって改めてチェックした平面図。すると、見落としていた事実が今さら判明。なんと、知らず知らずに、違う支沢に誘い込まれていた。これはまずい。非常にまずい。

 

 

そしてここで、腰につけていた万歩計が失われていることに気付いた。今日一日気にして幾度となくチェックしていた、当然一緒に家に帰るはずの万歩計が。

不思議なもので、これが分かった瞬間に、心の平静が一気に半分ほど失われた。これって、「身代わり」になってくれたのか?とか連想したせいか。

 

 

時間切れを気にして支沢の左岸を無駄にガシガシ遡上したものだから、地形はもはや険阻そのもの。なんとかまた戻って、黒谷の本流に復帰しないと。

 

 

 

 

 

 

だが、あたりは暗くなり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

今や自分がどういう場所にいるのか、よくわからない。ハッキリしているのは、もはや手にした杖が邪魔でしかないほどに険しい場所にいる、ということ。でもこの杖はお地蔵さまに借りたもの。必ず返さないと…と考えたまさにその瞬間、2mほど滑落。思わず手放した杖は、どこか暗がりの中へと失われてしまった。お地蔵さまの杖が。

 

 

 

これまた、重いストレートよろしくココロに来た。ふたつめの「身代わり」。ヤバイ、心を折られる寸前だ。

 

 

 

 

目前には小さな涸れ沢が横切っていた。もはや冷静な判断力が尽きかけていた私、これを下ってまず支沢へ降り、さらにそれを下って黒谷へ出よう、そうしよう。…いや、無理だから。

 

 

ズルズルとなかば滑り落ちながら下っていくも、でかい段差に阻まれた。やむなく脇の斜面にかわしたが、駄目だ、岩の上に浅く土がついてるだけの崖。これは渡れない。

 

渡れない。

 

 

渡れないけど、渡るしか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、そんな崖の真ん中で、あたりは闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終わった。

 

 

 

ガチな遭難やんこれ。

 

 

 

どうすんの、明日仕事あんのに。

 

 

 

いや、今晩帰るって嫁に言ってきてるのに。

 

 

 

 

 

 

動けない動けない。

 

 

 

 

 

 

 

どうにも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

掴んでいた草がちぎれ、

 

 

 

 

 

 

 

 

足を滑らせて滑落した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【後篇】に続く。

 

 

※五体満足で元気ですので、ご心配は無用です。念のため。