久しぶりにコメントをいただいたので、思い切って続きを書くことにした。
ただ、このあたりの記憶は曖昧で、正直あまり掘り返したくない。思い出すだけで胸の奥がざわつく。

もう1台のスマホの存在、そして家族やフワちゃんのことがアンさんに知られた。
それからの彼女は、まるで底なし沼のように、私のことを根掘り葉掘り問い詰めてきた。

やがて突然、「私はいつもこうなの。前の人のときも全く同じだった!」と叫び、元交際相手の話をぶつけてくる。
そして泣きながら電話を取り出し、親友だという友達に連絡。嗚咽まじりに今の状況をまくし立てた。
私は、せめてその友達が彼女を落ち着かせてくれることを願った。だが――その望みは、あっけなく砕かれた。

電話を切った彼女は、明らかにおかしかった。
冷静に話すかと思えば、急に怒鳴り、泣き、また落ち着き…それが何度も繰り返される。

まるで感情のジェットコースターに無理やり乗せられているようで、この時間が永遠に感じられた。


この日は引っ越しの荷造り最終日だったが、段ボールもガムテープも、もう私の視界には入らない。



そして、彼女は唐突に自分の生い立ちを語り始めた。
両親は早くに離婚。母親は水商売で彼女を育てたらしい。
3年前に兄がガンで亡くなったが、その兄や母との関係は決して良いものではなかったという。
幼い頃、兄から暴力を受け、それを母は見て見ぬふりをしたどころか、「暴力を受けるのはお前自身のせいだ」と突き放した――そんな話を、淡々と、時に泣きながら語った。
兄の死後、母との関係はさらにこじれ、実家を出て一人暮らしを始めたとも言っていた。

その直後だった。
彼女は急に台所へ駆け込み、「もうこんな繰り返しは嫌だ。死んで楽になりたい!」と叫び、包丁を掴んで自分の喉元にあてた。

血の気が引く、という感覚が本当にあるのだと初めて知った。
心臓の音だけが、耳の奥でやけに大きく響く。

私はパニックになりながらも、頭の中では最悪のシナリオが次々と浮かぶ。


――流血沙汰になれば警察が来る。
――異動先の親会社に迷惑をかける。
――引き継ぎも着任もできず、最悪解雇。
――家族にバレて離婚。

――仕事も家庭も、一瞬で失う。


水卜アナだのフワちゃんだの、そんな軽い話はもう消え去っていた。

包丁を必死に取り上げる。話しかける。少し落ち着いたかと思えば、また彼女は包丁を手にする。
「殺して」と私の手を握る。首を締めさせる。
包丁を全力で奪い取っても、また取り返される。
そして引っ越しの段ボールに包丁を突き立てる――鈍い音と、段ボールがへこむ感触だけがやけにリアルだった。

あの時間。
私は、生きている心地がしなかった。