
車内では、これから自分はどうなるのか――仕事は?家族は?そして自分自身は?――思考がぐるぐると巡り、落ち着くことなどできなかった。
予定より20分も早く新幹線の駅に着いた。だが、こんなことを妻に言えるはずもない。誰に相談すればいいのか、どうすればいいのか、完全に自分を見失っていた。
昼間、フワちゃんとのやり取りは「変なメールは無視して、返事はしないで。ちゃんと説明するから」というところで終わっていた。だから、とりあえず彼女に連絡することにした。もちろん本当のことなど話せるはずもない。ただ、この状況で思いつくのは彼女しかいなかった。
メールを送ると、しばらくして返信があり、「電話でちゃんと話したい」と言われた。おそらくただならぬ状況を察してくれていたのだろう。すぐに電話がかかってきた。私は新幹線に乗り、車両の連結部分に移動して彼女と話し始めた。
もう隠しようがなかった。すべてを正直に打ち明けた。
「一体何を考えてるの?」
「そんなマッチングアプリで知り合って間もない人、どうして信用できるの?」
「馬鹿じゃないの?」
「最低!今までの私の時間を返して!」
泣きわめく声。怒りがひしひしと伝わり、今まで見たことのない彼女の感情に圧倒された。私は謝るしかなかった。
一度電話を切られたが、必死にかけ直した。やがて少し落ち着きを取り戻した彼女は、逆に私に「とにかく落ち着いて、冷静になって」と言った。そして一つひとつ、状況を確認するように問いかけてきた。直前の2日間のこと、会社の名刺を渡したこと、アンさんとの関係、フワちゃんとの関係、そして「全部会社にバラす」と言われていること…。私は聞かれるままに答えた。
そのとき、アンさんから新たにメールが届いた。
「包丁をどこに隠したの?」と。
私は家を出る前に包丁を隠してきたのだったが、彼女は「いくらでも切るものはある」と言い、カッターナイフの写真を送りつけてきた。
冷静さを取り戻しつつあった心が、その瞬間にまた引きずり戻された。あの恐怖の記憶が蘇り、胸の奥で再び警報が鳴り響いた。