アンさんとよく会うようになった9月、突然やってきた。「異動」だ。


今まではどんなに短くても1年半は異動先の部署にいたので、まさか半年で異動になるとは思ってもみなかった。


さして大きなミスをしたわけでもなかった。以前にも書いたが、私の会社は合併を繰り返していて、そのたびに会社の方針やルールが変わっていた。4月にも合併があったところだ。


今回の異動は、後々考えると思い当たる節があった。というより、同僚に指摘されて気づいたのだが、人事調書に出身地に戻りたいと書いたことが原因のように思われた。今まではそんな希望が通ったことなど20数年働いていてまったくなかったのだが、組織も大きくなり、どうも個人を尊重する、ある意味いい会社になっていたようだ。


その頃の私は内心少し焦っていた。というのも、自分の素性は隠していたがポロポロとバレだしていた一方で、相手の素性はよくわからないままだった。私の会社はある程度有名企業であり、そんな素性がわからない人であれば、ゆすりやたかりをされてもおかしくないと思っていた。


こちらは家や職場の場所まで特定されている。だが、私は彼女の仕事や家の場所さえ知らない。


ましてや既婚者で子供がいるということまでバレてしまい、トラブルになると大変なことになるのではないかと考えていた。


私もそこまでバカではない。彼女が明らかに自分を気に入ってくれているのはわかっていた。それが金目当てなのか、本当に好きになってくれているのかはわからないが、少なくとも嫌われて邪計にされているわけではない。なのでこのまま異動してさよならするのがベストだと思っていた。


ただ、もうこの土地に来ることはない。水卜アナやフワちゃんが住む地方には私の家族も住んでいるので、もちろん帰るし会うこともできる。ただ、アンさんが住んでいるところには旅行で行くことがある程度で、頻繁に行き来して会うことはできないだろう。


その気持ちがなぜか私に焦りを覚えさせていた。


それがこんな大変な結果になるとは、夢にも思っていなかった。