ル=グウィン著『ラウィーニア』を読んで | フォノン通信

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★ル=グウィンの小説『ラウィーニア』を先日読了した。素晴らしい小説だった。

 

☆ローカス賞を受賞した作品である。

古代イタリアを舞台にした壮大なドラマである。

 

☆主人公ラウィーニア姫とトロイアの英雄アエネーアスの愛の物語であり、ラウィーニア姫の結婚問題に端を発した、周辺の国をも巻き込んだ戦闘の物語でもある。

英雄アエネーアスと恋敵の王トゥルヌスの壮絶な決闘も描かれる。

 

*ここから、小説のあらすじにも触れるので

ネタバレに注意してください。

 

★紀元前13世紀頃にトロイア戦争があった。ギリシアの都市国家スパルタと小アジアの国トロイアの10年にわたる戦争の結果、トロイアは陥落する。

 

この時、トロイアの英雄アエネーアスは、戦士や家族ら一行を率いてトロイアを船で脱出する。

 

トロイアを脱出した船団はシチリアに着き、そこにしばらく留まったあと北アフリカのカルタゴに上陸した。

そこでアエネーアスは、女王ディードと出会い恋をする。そして愛し合うが、一行が向かう地はイタリアだという神託を受けたアエネーアスは、ディードのもとを去り、イタリアへと船団を向かわせる。アエネーアスに去られた女王ディードは自殺してしまう。

 

*この英雄アエネーアスは、古代ローマの礎を築いた人物だといわれている。

 

 

★小説『ラウィーニア』は、古代ローマの詩人ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』の12歌の後半の6歌をもとにル=グウィンがラウィーニア姫を主人公にして小説にしたものである。

 

叙事詩『アエネーイス』にはラウィーニア姫について書かれた部分はわずかしかない。

 

歴史上ラウィーニア姫がアエネーアスと結婚したことは分かっていたが、ラウィーニア姫の生涯については知られていなかった。

そこで、ル=グウィンは、ラウィーニア姫についての物語を創造しようと考えたのです。

 

 

★ラウィーニア姫は、古代イタリアの国ラティウムを治める王ラティーヌスの一人娘である。

 

小説『ラウィーニア』は、ラウィーニアの一人称で語られている。

ラウィーニア自身が語る自分の生涯の物語が、小説『ラウィーニア』である。

ラウィーニアが6,7歳の頃から老年を迎えるまでの波乱万丈の人生を描いている。

 

 

★王ラティーヌスが治める国ラティームの海岸に上陸したアエネーアスは、国王に定住できる土地を提供してもらえないかと願い出るのである。

 

★ル=グウィンは、この物語を構成するのに大きな役目を果たすことになる設定をするのである。

 

 

ラウィーニアが生きた時代より1000年以上も後のローマの詩人ウェルギリウスの生き霊をラウィーニアの前に何度も登場させるのである。

 

古代イタリアの人々は神々のお告げを信じていたので、ラウィーニア姫の前に現れた生き霊である詩人のお告げを信じるのである。

 

この時代は、多神教の世界で神託というものを信じる時代です。

 

 

詩人ウェルギリウスの生き霊は、これから異国のアエネーアスという英雄が一団を率いてやって来て、あなたはその男と結婚する運命にあると告げるのである。

 

ラウィーニア姫は、この詩人のお告げを信じて、母親の女王アマータの甥である隣国の王トゥルヌスからの求婚を断るのである。

ラウィーナは、アエネーアスこそ自分の夫となる人であると強く信じるのである。

 

★以前からラウィーニア姫に結婚の意志を伝えていた王トゥルヌスは、海を越えて異国からやって来るなり、いきなりラウィーニア姫と婚約してしまったアエネーアスを許すわけにはいきません。

 

この結婚問題が引きがねとなってアエネーアスを支持する王や周辺の種族と王トゥルヌスを支持する国々や種族との間で壮絶な戦争が勃発してしまいます。両軍とも多くの犠牲者を出し、双方が疲弊してしまいます。

 

そこで、最後はアエネーアスとトゥルヌスの一対一の決闘で決着をつけるということになります。

 

壮絶な決闘の結果アエネーアスがトゥルヌスに勝利し、ラウィーニア姫はアエネーアスと結婚します。

 

★なぜラウィーニア姫の父である王ラティーヌスが、海外から来たよそ者であるアエネーアスとの結婚を直ぐに許したのか。

 

実は、ラウィーニア姫が詩人からお告げを聞いた同じ精霊の森で、父親の王ラティーヌスは、「イタリアの王とは結婚させてはならない」という先祖ファウヌスから神託を受けていたのである。それで王ラティーヌスは、ラウィーニア姫の意志を尊重しアエネーアスとの結婚を許可するのである。

 

★結婚したアエネーアスとラウィーニア姫は、ラウィーニアの父である王ラティーヌスから領地を与えられます。

 

そして、そこにラウィーニウムという都市を造り、アエネーアスは王となります。

 

アエネーアスがトロイアにいたとき、彼には妻のクレウーサがいたが、トロイア戦争で命を落としていた。アエネーアスとクレウーサには一人息子のアスカニウスがいた。

 

結婚したときラウィーニアは19歳で、アエネーアスは40代になっていた。歳の差が20歳以上あった。まもなくラウィーニアとアエネーアスの間に息子のシルウィウスが生まれた。

 

ラウィーニアと義理の息子アスカニウスとの歳の差は2,3歳くらいしかなかった。アスカニウスにはラウィーニアを義理とはいえ母とは思えないし、ラウィーニアもアスカニウスを息子というより弟のように思えてしまうのでした。

 

★ラウィーニアは、精霊の森でウェルギリウスの生き霊から、アエネーアスは結婚後、三年しか生きられないと予告されていた。

ラウィーニアはそれを信じざるをえませんでした。

 

このことはもちろん夫であるアエネーアスに伝えることはしません。

 

アエネーアスの余命はあと三年しかないので、ラウィーニアは大切な時間をアエネーアスと過ごすのでした。

 

★そして三年後にアエネーアスは、槍と棒で武装したトゥルリ人の一団と戦います。

彼らは一度退散するのですが、その中の一人が戻ってきてアエネーアスの胸目掛けて槍を放ちます。甲冑を身に着けていなかったので槍はアエネーアスの胸を貫通します。

英雄アエネーアスのあっけない最期でした。

 

★アエネーアスの死後、息子のアスカニウスがアエネーアスの跡を継ぎ王となるが、まだ若く、経験不足でうまく国を治めていくことができません。

 

そこでアエネーアスを支えきた重臣の戦士たちが、アスカニウス王をなんとか支えて政治を行っていきます。

 

結局、アスカニウス王は、父アエネーアス王と違い、王の才覚がなく国を治める能力に欠けていました。

 

やがて、息子のシルウィウスが成長し、義理の兄のアスカニウスに代わって王となり、国を治めるようになりました。

 

★以上あらすじを中心にまとめてみました。

 

*『ラウィーニア』を読んで、ル=グウィンは、本当に優れた作家だと思いました。

 

これまでに読んだ『闇の左手』、『風の十二の方位』、『ギフト 西のはて年代記Ⅰ』も素晴らしい作品でした。

 

★僕の評価は☆四つの傑作です。

 

*長い文章をここまでお読みいただきありがとうございました。