ポール・デイヴィス著『生物の中の悪魔』を読んで | フォノン通信

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物理学者、ポール・デイヴィス著 『生物の中の悪魔』を紹介します。

 

ポール・デイヴィス・・・物理学者、アリゾナ州立大学教授、BEYOND科学基礎概念センター所長。

30冊以上の著作がある。テンプルトン賞、英国王立協会ファラデー賞をはじめとして多くの賞を受賞している。主な著書、『時間の物理学』、『宇宙における時間と空間』、『自然界の力』、『ブラックホールと宇宙の崩壊』、『タイムマシンのつくりかた』、『幸運な宇宙』、『生命の起源』

 

 

☆箱の中に閉じ込められた気体分子をかんがえる。この気体は、ある一定の温度をもっている。そういっても各気体分子には、速度が大きいものも小さいものもあり、それらの平均が箱の中に気体の温度となる。この箱に壁を作り、Aの部分とBの部分にわける。ただし、この壁には両側をつなぐ小さな隠し扉があるとする。この隠し扉の操作は、魔物の手に握られている。この魔物は、A側から平均より速い分子を見るか、B側から平均より遅い分子を見るかしたら扉を開け、それ以外は扉を閉じておくようにする。このようにしていくと、B側には平均より速い分子が集められ、A側には平均より遅い分子が集められる。それぞれの側の温度は、分子の平均の速さによって決まるので、エネルギーを消費して分子の動きを変えなくても不均等になる。つまり、Bの温度は上がり、Aの温度は下がる。これは、無秩序から秩序が生じたので、熱力学の第二法則に反していることになる。この魔物のことをマクスウェルの魔物(または悪魔)と呼んできた。

 

☆この自然の統計法則に関する奇妙な問題は、マクスウェルが1867年に提起した。当時の人々は、「魔物」にこのような始末の悪いことができるとは思っていなかったが、なぜできないか、理由を見つけることもできなかった。

 

☆ポール・デイヴィスの著『生物の中の悪魔』では、このマクスウェルの悪魔がキーワードになっている。生命とは何か。最新の生物学、物理学、情報理論などの研究を踏まえて、その謎に迫るこの著作は、今年読んだ本のベスト1であった。

 

 

☆著書『生物の中の悪魔』のはしがきで、ポール・デイヴィスは本書で伝えたいことを次のように述べている。この本の主旨が読み取れるのでやや長いが引用する。

 

引用開始。

非生命と生命を一体の枠組みで結びつける「ミッシングリンク(失われた環)」を探す営みによって、生物学と物理学、計算科学と数学の境界にまったく新たな科学分野が誕生している。その分野では、ついに生命の解明に近づいているだけでなく、ナノテクノロジーを一変させて医学を大きく前進させる応用法への道が開けることも期待されている。その根底に統一的な概念、それは「情報」である。情報といっても日常の平凡な意味ではなく、エネルギーと同じように、物質に生命を吹き込む能力を備えた抽象的な量である。

引用終了。

 

★「生命とは何か」を解明するには、生物学と物理学だけではなく、二つの学問領域に「情報」を取り込むことで、新しい知見が生まれようとしていると書いている。

 

引用を続ける。

 

情報の流れのパターンが文字どおり独自の生命を宿して、細胞から細胞へ押し寄せたり、脳の中を渦巻いたり、生態系や社会にネットワークを構築したり、独自の体系的なダイナミクスを示したりする。その豊かに沸き立つ複雑な情報から、主体という概念が導かれ、それが意識や自由意志などの厄介な疑問へとつながっていく。生命系が情報を組織立ったパターンにまとめること、それが、分子の無秩序な世界から生命独自の秩序を生み出すのだ。

以上、引用終了。

 

☆このはしがきの部分に惹かれて、この本を買ってしまった。期待どおりの本であったが、読みやすい本ではなかった。新しい科学の分野であるバイオインフォマティクス(生命情報科学)、システム生物学、量子生物学についても知ることができ、とても勉強になった。

 

☆分子サイズの悪魔が生命と関係していることが明らかとなるのは、マクスウェルが提起してからおよそ150年後のことである。ナノスケールの解析ができるようになり、細胞や細胞内の小胞体には、マクスウェルの悪魔のような働きを仮定しないと理解できないような現象が見つかっている。

この本を読んでいくときのキーワードが、マクスウェルの悪魔なのである。