まだ、「笑点」の公開録画を一度も見た
ことがない人に、本番が、どんな方法で進行するのか、
ある1日を例にとって、詳細にお教えしよう。
♪チャンチャカ ちゃかちゃか
スッチャンチャン...♪
お昼12時、おなじみのテーマ曲が流れた、
後楽園ホール(東京・水道橋)の入っているビルの
5階~1階まで、階段で列をなしていた
観覧客がいっせいに動き出す。入り口で手渡された
プログラムには、今日の演芸の出演者と
大喜利メンバーの名前が書かれている。
座る席は、先着順で自由だ。さすがに舞台に近い
最前列は人気で、あっという間に埋まって
しまう。この席は、固定席と舞台のあいだの
フロアに補助席が 100脚ほど並べられた特別席。
出演者の細かな表情まで 見られるのである。
ならば、次の狙い目の席は...。
「笑点」は、円楽さんの客席からの挨拶で始まる。
その近くの席に陣取れば、円楽さんといっしょに
自分の姿が放送されるわけだ。
指名手配されている人を除いて、一度は、
そんな幸運に、めぐりあいたいと思うのは人情。
だが、本番直前まで、その場所は伏せられていて、
しかも、毎回、替えているらしい。偶然の、
チャンスに期待しよう。
満杯の客席が落ち着いたころ、若い落語家さんが、
フロアに登場。収録上の注意事項の説明を
始める。業界用語でいう「前説」だ。
「本番中は、カメラ撮影は禁止です。いまのうちに
カメラ写りのいい 私を写してください。」
「本番中に赤ちゃんが泣き出したら、すみやかに
退席するか、赤ちゃんの首を静かに●めてください」
など、ジョークを交えた話術で
面白ろおかしく話す。
フロアディレクターによる拍手の練習も
ユーモアたっぷり。
「笑点は、全国放送です。いまの拍手では、
北は福島、南は静岡ぐらいまでしか聞こえません。
北海道から、沖縄まで聞こえる元気のよい拍手を
もう一度...」などと、笑いを誘いながら
2度、3度。
そのあいだにもカメラやマイクの係の人も
調整に余念がない。テレビには、映ることの
ない、こうした人たちが、公開録画の下支えを
しているのだ。
「本番まいりま~す!」
かん高いフロアディレクター氏の声が場内に
響き渡る、司会の円楽さんが、固定席中央
5段目の席に陣取った。
残念! 我々の座った場所より、ずっと前の席だ。
これでは、テレビに映らないな。
客席から円楽さんが、オープニングの挨拶をする。
オールド・ファンの方なら、ご存知かも
しれないが、このスタイルは、前の司会者・
三波伸介さんから受け継がれている。
「笑点の顔として、客席に入りお客さんと
一体感をもちたい」。そんな三波さんの意向から
始まったと聞く。
若い女性客の間に はさまり、三波さんが
目尻をお下げて隣の女性にマイクを向ける。
「スポーツの秋ですが、どんな運動やってますか?」
「学生なので、就職運動をやってます」
「うまい! 座布団1枚もってこい!」
と、こんな具合であった...。
備考:この内容は、
2001-3-1
発行:河出書房
著者:笑点探偵団
「笑点の謎」
より紹介しました。