稲川淳二の怖い話「留守宅」...その2

　政次さん、この家に上がるのは初めてなんですね。

いつもは、庭で作業をしていて、

縁側で、お茶をいただくときに、室内をチラッと

見る程度ですから、家の中のことは

あまりよく知らない。

で、小さな明かりを頼りに闇の中を

行くと、襖があったんで、

スーッと開けた。

これが、懐中電灯なら入り口にいて、

室内に明かりを向ければ済む事なんですが、

なにせ、ペンシルライトですから、

明かりが届かない。

入って行って、隅の方から照らして

ゆくんですが、もしや次の瞬間、闇の

中の異様なものでも照らしやしない

だろうかと思うと、何だか恐い。

で、異常が無い事を確認してから

部屋を出て、また次の襖を開けて、室内を

確かめるといった順で、応接間、

床の間、寝室に、仏壇と●くなった

奥さんと思われる遺影が飾られている

ところをみると、仏間なんでしょう。

そんな具合に、1つひとつ注意

深く丁寧に部屋を見て回って、全て

見終わって、何も問題はなかった。

ただ、この屋敷は、一部がニ階建てに

なっていて、残すはそこだけ...。

まあ、何もないとは思うんですが、

一応見ておこうと、

トン、トン、トン、トン...

階段を上がっていって、廊下の

突き当りの襖を開けると、広い座敷のような

んですが、真っ暗でよくわからない。

で、明かりを向けながら入ってゆくと、

箪笥が並んで、鏡台があって、

どうやら●くなった奥さんの物が

置いてある部屋らしい。

（なるほど、こんなところかな...

じゃあ、引き上げるか？）

と、座敷を出ようと振り向いた瞬間。

ツッ、ツツッ、ツーッ

畳の擦れる音がした。

（ん！？）

ドキッとして、動きを止めたまま、

辺りをうかがうと、

ツッ、ツッ、ツツッ、ツーッ

また、畳の擦れる音がした。

（ううっ！　いる。誰かいる。

畳の上を歩いている！）

そのとたん、背筋を冷たい汗が

流れ落ちていった。

この何も見えない真っ暗闇の中で、

明かりもないし、人がいるはずがない。

音は立っている自分の、

左斜め後ろ辺りから聞こえた。

それも、すぐ近くで。

（恐い！）

このまま座敷を飛び出して、

逃げようかとも思ったんですが、鍵を

預かって管理を頼まれている以上、

責任がありますからね。

そういうわけにもいかない。

恐い。

恐いんですが、視線をそーっと、

後ろに向けるrと、真っ暗で見えない！

で、ペンシルライトの明かりを、

向けてゆくと、次の瞬間、

「うわぁ～～～～」

と、声を上げた。

ペンシルライトが、闇の中の

真っ白な女の顔を　照らし出した。

「うう～～っ！」

こっちを、じっと、見ている。

黒髪の下から、ふたつの目が、

小さな明かりに反射して、ガラス玉のように

ギラッと光っている。

ピクリとも動かないし、何も

言わないし、表情が無い。

それに、瞬きしない。

（ハァ ハァ ハァ ハァ...こいつ何だ！？

人間じゃないのか！？）

恐る恐る確かめようと明かりと、一緒に、

顔を近附てた瞬間、ふたうの目が

スッと動いた。

「うわァァ～～！？」

備考：この内容は、

2022-7-21

発行：リイド社

著者：稲川淳二

「稲川淳二のすご～く怖い話」

より紹介しました。

【おまけ...】