「ホリプロのスカウト基準」...
(堀威夫 ホリプロ創業者)
昔、自分でスカウトしていたときは、基準が
ありました。それが、歯と目と声。
歯は、ビジュアルの面での美しさも
そうだけど、もう1つ重要なのは、
咀嚼力(そしゃくりょく)です。健康
じゃないと、とてもこの仕事は勤まらない。
2番目は、目。何か事を成すっていう人の目は、
キラキラしていますよ。イワシの腐ったような
目はしていない。
そして、最後は声です、
声っていうのは、大きいければいいんです。
スピーカーでも、出力が大きいスピーカーで小さい音
を出すと、聞こえがいい。
小さいスピーカーで、
大きい音を出そうとすると、耳障りなわけですね。
それに、でかい声を出す人は、ネアカな人が
多いし、根暗の人の声は小さい。
僕も、最初は他所の力を借りてスカウト
していたんですが、そのうちに、「ホリプロ
スカウトキャラバン」といって、自前でやるように
なった。何千人と言う候補の中から新人を
選ぶわけです。
50人くらいを1つの部屋に入れて、1人
ひとりマイクの前に立たせるんだけど、僕は
「マイクの前に立ったときの顔なんか見ても
意味がないぞ。持っているときの目を見るんだ。
キラキラしたヤツがいるから目をつけとけ!。
そうやって素の顔を見なきゃダメだ」
と、言っていました。これは、うちの伝統になって
います。あんまりネタをばらすと、
まずいんだけどさ...。
若い頃は、自分が育てたと思い上がっていた
時もあったけど、そうではなかったんですね。
要するに、結局は、世の中のニーズにふさわしい。
その時のタイミングに合った人が 育っちゃう
んだ。だから、自分たちが育てたなんて
思ったら間違いですよ。
ただ、時代の潮目が変わる所を見逃すと
ダメなんですね。例えば
芸能界を主導してきた舞台とか映画が、
あるときからテレビに
取って代わられた。この時、あっ、潮目が
変わったと僕は思ったのね。
美空ひばりちゃんの全盛時代はまだ、テレビ
がなかった。で、ある日、彼女はデパートに
行って、ものの値段がわからなかった。
それが、美談として新聞に出たことがあるんです。
今度は、テレビが主導になって、ホリプロで言えば、
森昌子とか山口百恵がデビューしてきた時、
僕は言いました。
「いいか、テレビ局に入るまでは、
絶対に学校の制服で来いよ。楽屋に
入ってからステージ衣装に着替えるんだ」と。
大衆は偉大なもので。彼女たちに社会的な
感覚が身についているか、その匂いを
嗅ぎ分けるんですね。
ひばりちゃんの時代に、美談とされてきた
ことが、昌子や百恵のテレビの時代には美談
ではなくなる。でも、それは、誰が決めたわけ
でもない。世の中の潮目が変わっただけなんですね。
そういうタイミングは、できるだけ
感覚的にとらえて、手を打ってきたつもりです...。
備考:この内容は、
令和4-3-25
発行:致知出版社
「1日1話、読めば心が熱くなる
365人の生き方の教科書」
より紹介しました。