泣けるシリーズ「ほほえむまでの時間」...その3 | Q太郎のブログ

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「舞子が帰ってきたよ、おばちゃん」

 

 

 

卓哉はこの頃なぜか、舞子を呼び捨てに

 

したがる。その方が大人っぽいと思っている

 

のかもしれない。舞子は、いつも「ちゃんと、

 

お母さんって呼びなさい」と叱るのだが、今日は美里の

 

顔を見せたせいか なんだか気が抜けてしまった。

 

 

 

 

 

「夕飯が食べられなくなっちゃうでしょ。

 

お菓子はあとにしなさい」

 

 

 

 

 

代わりにそんな小言を言いながら、

 

卓哉の相手をしてカードゲームで遊ぶ美里にちらっと

 

目を走らせる。つやつやした髪。手入れの

 

行き届いた爪。上品なパステルカラーのニット。

 

そんなものに嫉妬する気はない。

 

 

 

 

 

ただ、美里の輝くような笑顔だけは羨ましかった。心配事が

 

何もなさそうな表情を見ると、眉間に

 

しわばかり寄せている自分が すごく歳を取って

 

しまっている気になるのだった...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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美里の夫は、エコロジーグッズの開発製造を

 

手掛ける会社を興し、この、ご時世にもかかわらず

 

順調なようだ。美里は、その会社を手伝いながら、

 

家事を完ぺきにこなしている。ただ、この夫婦には

 

結婚してから5年たっても手に入らないものが

 

1つだけあった。

 

 

 

美里が卓哉へプレゼントを

 

山のように抱えてここにやってくるのは、

 

そのせいもあるのだと思う...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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美里の夫も卓哉をとても可愛がってくれている。

 

卓哉のいないところで一度、

 

 

 

「舞子さん、よかったら、2人とも、うちで一緒に

 

暮らすのはどうかな?」と言われたことさえあった。

 

 

 

本当は「卓哉くんを養子にしたい」と

 

申し出たかったに違いないが、母親である舞子の気持ちを

 

考えてくれたのだろう...。露骨な物言いを

 

しないところに育ちのよさが感じられた。

 

 

 

 

 

「新しい自転車買ってくれるって、おばちゃんが」

 

 

 

ゲームで美里を負かした卓哉は、

 

機嫌よくケーキを頬張った。美里が買ってきた、

 

舞子だったら、入ろうとさえ思わない有名な店のものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「卓ちゃん、もうすぐ誕生日でしょ?

 

ずいぶん背も伸びたし、そろそろちゃんとしたのを

 

買っておけば これからずっと乗れていいんじゃない...」

 

 

 

 

美里の言葉が終わらないうちに、

 

舞子は思わず声を荒げていた。

 

 

 

「ぜいたくに慣れさせないで!」

 

 

 

自分の勢いに半ば驚いたが、今更

 

引っ込みはつかない。卓哉が使っている お古の自転車が

 

ちらっと頭に浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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学童クラブで一緒だった、

 

一学年上の男の子にもらったもので、確かに

 

型は古く卓哉が乗るにはもう小さかった。

 

卓哉がみるみるふくれっ面になるのがわかったが、

 

一度喋りだしたら、とまらなくなった。

 

 

 

 

 

「今のだって、まだ乗れるのよ。なんでも

 

大事にして、本当に使えなくなってから新しいのを

 

買うようにしているの。卓哉のことはちゃんと

 

考えているんだから、美里もよけいなことしないで」

 

 

 

 

 

美里はいやな顔もせず、

 

「ごめんなさい」と、静かに笑った。

 

美里はきっと、卓哉が乗っている

 

古い自転車を目にしたはずだ。

 

なのに舞子に対して言い返したりせず、自分の豊かさを

 

ひけらかすこともない。そんな美里の

 

さりげない優しさに接するたび、自分がどうしようも

 

なくいやな人間になっていくようで

 

やりきれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不満を隠そうともしない卓哉を見ながら

 

舞子はふと思う。もしも自分ではなく美里が母親

 

だったら、卓哉はこんな顔ばかりしなくて

 

済むのだろうか...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

備考:この内容は、

2009-5-2

発行:泰文堂

編著:リンダブックス編集部

原案:水森野露

小説:田中夏代

「99のなみだ・風」

より紹介しました。