それから、何年も経った...。
経ったのだが、いまだに、
「ジミーチュウのバッグ」は持っていない。
いい大人になってしまったので20万円の
バッグも やりくりすれば払える額だと思える
ようになったはずだ。
でも、それよりも気づけば
旅をしてしまっている。
交通費、宿泊費、ご飯台...。
旅をするにはお金がかかる。でも、旅の楽しさを知って
しまうと、もっといろんな場所に行きたい、
見たい、知りたいとなる。旅への欲求は
果てない。
どんどん身なりにお金をかける余裕がなくなり、
みすぼらしくなる。旅をしている人は
大体、薄汚れた格好をしている。(ど偏見)。
両方はきっと、手に入れられないのだろう...。
今年、1人で博多に行った。大阪から
鈍行に乗って旅をしている途中、立ち寄ったのだ。
博多の街を、久しぶりに歩いていると、
ふと、「もつ鍋」が食べたくなった。
おぼろげな記憶を頼りに後輩と
2人で行った「もつ鍋屋」さんを
探したけれど、コ●ナの影響で、
営業していないようだった...。
代わりに入った「もつ鍋屋」さんで、席に着いて
メニューを見ていると、その中のホルモンの
由来について書かれてあるコラムが目についた...。
【ホルモンという言葉は関西弁で、
「放るもん」捨てるものという意味で、昔は、動物の内臓を
食材とは考えていませんでした。本来、
捨てられる内蔵とあり合わせの野菜を加えた
お手軽な創作料理が庶民の間に急激に広がり、
それが「もつ鍋」のルーツになったのです..。】
とのこと。
今の自分に目を落とすと、
やはり旅人らしい薄汚れた格好をしていた。
「でも、もつ鍋ってのは、着飾って食べる
ものでもないよな...」と、そのコラムに妙に納得
してしまい、これでもいいかと、なんだか
今の自分を認めてあげたくなった。旅ばかりして、
ブランドバッグも買えないままの自分も
結構好きだと思った。
嬉しくなりついでにインスタの
ストーリーに、「もつ鍋」の写真を載せると、
しばらく連絡を
取っていなかったお金持ちの後輩から
「昔、一緒に食べに行きましたね? 美味しかったですね」
と、コメントが来た。
「もつ鍋」は貧富に
関係なく平等に美味しかったようだ...。
備考:この内容は、
2022-12-6
発行:kADOKAWA
著者:SAORI
「散歩するアンドロイド」
より紹介しました。