W歌山市役所に勤めるY崎さん(59)は、
毎朝7時台、同じ時刻のバスを待つ。目の見えない
Y崎さんにとって、乗り降りは大変だが、その
バスなら 小学生が乗り合わせ、手助けして
くれるからだ。
「バスが来ましたよ」。
紀の川の河口に近い
狐島バス停で、はじめてそんな声をかけられた
のは、十数年前。白い杖を持つ自分に女の子が
教えてくれた、腰のあたりを指でチョンとつつき、
ドアまで導いてくれる。
「座らせてあげてください」
と、席の確保まで...。
胸が温かくなった。
進行性の目の難病と、診断され、
視力は落ち視野も狭まる。
バイク通勤だったが、
自転車にも乗れなくなり、最後にバス通勤に
切り替えた。その子が卒業すると、妹や後輩が
誘導役をつないでくれた。
W歌山大付属小学校に通う女の子たち
4人である。感謝の念を昨秋、作文につづった。
全国信用組合中央協会のコンクールで大賞に
選ばれたのがきっかけとなり、Y崎さんはこの1月、
小学校を訪問。はじめて4人と一同に会することができた。
受賞作を読んでみる。
「小さな親切のリレーで、
退職までなんとか頑張れそうです」と、お礼の
言葉が続く。取材を終え、バス停に立つ。
車の量が多く、風も強い。
Y崎さんにとって小さな手が、
どれほど心強かったことか...。
きょうから新年度。はじめての駅やはじめての
バス停に立つ方もおられよう。
コ●ナのせいで人と
人が隔たり、言葉をかけにくい状況は続くけれど、
誰もが孤立しない 1年間であってほしい...。
備考:この内容は、
2021-9-30
発行:朝日新聞出版
著者:朝日新聞論説委員室
「天声人語」
より紹介しました。