「THX-1138」 1971年 アメリカ
監督:ジョージ・ルーカス
出演:ロバート・デュヴァル、マギー・マコーミー、
ドナルド・プレザンス、イアン・ウルフ、
【ハリウッドの常識を大きく
超えた早熟監督の出世作...】
えっ! ジョージ・ルーカスって、
こんな映画、撮ってたの~!?...
これが、彼の長編デビュー作
「THX-1138」
をはじめて見たときの素直な
感想。
『スター・ウォーズ』6部作
(77~05年)
という映画史上に
輝く巨大なサーガ、わかりやすい
英雄物語にして娯楽活劇から
さかのぼった場合、ほとんどの人は本作の
意外な作風に驚くと思う。
ワーナー・ブラザーズで配給された商業
作品ながら、内実は実験的な
アンダーグラウンド映画。
映像は
スタイリッシュで、初々しい青臭さと
同時に見る者の胸を熱くさせる
エモーションにあふれている。
無粋な形容をするなら、スタンリー・キューブリックの
優秀なフォロワーが
撮った再起あふれるアート系
SFとでもいった感。
筆者は、ルーカスの大衆的なイメージとの
落差から激しく、”ギャップ萌え”して
しまったほどである。
企画のベースとなったのは、
『電子的迷宮/THX-1138 4EB』
(67年)。ルーカスがUSC
(南カルフォルニア大学)時代に撮った
15分の短編だ。
非人間的な管理社会と
化した未来の地下都市から逃亡する
男を描き、数々のコンテストで
受賞した彼は、一躍学生映画界の
スターとなった。
そして、ライバル校UCLA
(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)主神で、
すでにプロの職場入りしていた
フランシス・フォード・コッポラが、
ルーカスに、「これ、長編にしないか?」
と、声をかける。
まもなくコッポラを社長として「ゾエトロープ社」
を設立し、セルフリメイク
『THX-1138』を
第1弾制作作品に決定。
撮影は69年に終了するが、
「こんな難しい映画、売り出し方が、わからない!」
と公開を渋るワーナーの
重役陣との攻防戦を
繰り返す経緯をたどる...。
だが、本作は何回観ても難解というより、
説明的描写に頼らない叙述が、ハリウッドの
常識を大きく超えていた。
とする方が正解だろう。
コンピューターに支配された
無機的な「ディストピア」という基本設定は短編版を
踏まえつつも、スキンヘッドで
統制された人類など視覚的
インパクトの強いヴィジョンや、
ラブストーリーの
要素などを加えて精度を
格段に上げた。
た追えば、精神抑制剤の
投与を拒否したことで、
人間的な感情や欲望が
芽生えた同室も男女、
THX-1138(ロバート・デュヴァル)
と、LUH-3417(マギー・マコーミー)が違法の
●▲■に恥るシーンの切ない美しさ。
そして、囚人が、ブチ込まれる観て
いるだけで、発●しそうな空間感覚が
消滅した360度、真っ白な独房...。
近い時期に『ダーティ・ハリー』(71年)や、
『燃えよドラゴン』(73年)
を手掛けたラロ・シフリンの
音楽も前衛的なムードを
掻き立てる。
映画は、やがてTHX-1138の
脱獄劇へと展開していくのだが、
まさに、同時代のアメリカン・ニュー
シネマと共振した「自由への疾走」
に向けて、ぶっちぎって行くのが
面白い。
ギラギラした真っ赤な
灼熱の太陽をバックに主人公が、
立ち上がる、破滅と開放が鮮烈に重なる
ラストショットの力強さは圧巻だ。
もっとも、公開当時、興行的には
大敗して早々に、打ち切りとなり、
立ち上げたばかりの
「ゾエトロープ社」を、
一時休業にまで追い込んだ。
しかし、『ブレードランナー』(82年)、
『トロン』(82年)、
『マトリックス』(99年)など、
そのDNAは、後進のSF映画に計り知れない
ほど広がっている...。
(森直人)
【こちらもオススメ...】
密室迷宮ミステリー『CUBE』(97年)
なども含め本作の影響はあまりに
多数のSF映画に観られるのだが、
ここで、
推したいのは、デヴィッド・フィンチャーの
『エイリアン3』(92年)と、
スティーヴン・スピルバーグの
『マイノリティ・リポート』(02年)。
両作とも、LUH-3417と同じ、
スキンヘッドの女性が登場するのだ...。
備考:この内容は、
2012-8-21
発行:洋泉社
「異次元SF映画100」
より紹介しました。
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【おまけ...】
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2024年3月 アメリカ