古今亭志ん駒師匠は、ヨイショの達人として斯界に鳴り響き、すでに伝説化している
エピソードも多い。まずはゴルフ三昧。
あの「杉様」こと杉良太郎さんに かわいがってもらい、ある日、ゴルフのお供をした。
どうしたことか杉様、調子がよくないと見えて、ボールが、みな左右の土手に上がってしまう。
こういう時に志ん駒師のヨイショは、真価を発揮する。志ん駒師、杉様にこう
言ったのだ。「いよっ! 人気と同じで上がりっぱなし」と。
スゴイわねえ。そのご褒美がレミーマルタン10本だって、今のではない、
20年前のレミーですぞ。
右翼の大物に誘われ、お供をした。大物氏、ものすごいスライスボールを打つと
言う。こういうときにも、志ん駒師は、ひるまない。「大将、憎いね。ボールも
右寄りだ」。
この一言で、3万円のご祝儀が出たと。
「えっ、談四楼、この調子で18ホール
回ったわけだから、ウヒヒ」とは、志ん駒師の弁だ。
志ん朝夫妻ともラウンドしたという。志ん朝夫妻は、平成13年惜しくも○くなったが、
当時は、押しも押されもせぬサラブレッド、で、まあその方面のヨイショをする。
グリーンまわりへ来ると、「さすが朝サマ。う~ん、寄せ(席)が上手い」てなことを
言うわけだ。
問題は夫人である。夫人は、私などには、少し気むずかしそうに見え、第一
恐れ多くて、なかなか接近も ままならないのだが、志ん駒師はこういう人にも積極的に
アプローチする。さて、打とうという時にあえて近くに寄り、ボソッとつぶやくのだ。
「弱っちゃうよなァ、器量がいい上にゴルフまで上手なんだから・・・」
どうなりました? と聞いたら、
「家に招かれちゃって大変、もう ご馳走攻め」
だったそうな・・・。
「オレはね、女房にも、子どもにもヨイショするよ」と、
聞かされたとき、ドキッとした。
「カミさんや、子どもも機嫌がいいと、家の中が、明るくなるんだよ。
そうなると旅が続いても、家を安心して任せられるしさ」
反省しましたね。私は、それをやってないんだ。いや心がけてはいるんです。
許せ家族よ・・・。
その志ん駒師も、還暦をいくつか超えた。
世間では定年だが、ある日、質問してみた。
「ヨイショの対象が年下ばかりで、やりにくくはありませんか?」と。
志ん駒師は、「全然、年下だろうと、誰だってヨイショするよ。
一歩表へDELLとね、もう街を歩いている人
のすべてが客に見えてしょうがねえ。」と答えた。
ちょうど、そこへ小学生と覚しき子どもが
通りかかった。志ん駒師、すかさずしゃがみ込み、揉み手をし、
「おや、坊っちゃん、どこ行くの?
今、おじさんが面白い話をするから、そのソフトクリームを
ひとなめさせておくれよ」ときた。エライなぁ・・・。
因みに、志ん駒師の座右の銘は、
「される身になって、ヨイショはていねいに」である・・・。
備考:この内容は、
2010-4-20
発行:(株)光文社
著者:立川談四楼
「声に出して笑える日本語」
より紹介しました。