昔の料理レシピ備忘録21 「磯雪そば」 | きょうは休肝日?

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昔の料理レシピ備忘録、そば米(そばの実)を使った「そば米雑炊」に続いてはいわゆる「蕎麦」、麺としての蕎麦の料理を取り上げる。

本日の主役の名前は「磯雪そば」だ。

初めて我が家で作ってみたが何ともうまい。見た目は「山かけそば」か「とろろそば」といったところだが、泡立てた卵をかけたそばを辛汁につけて食べる。

 

本日、話がいささか長くなる。

 

<蕎麦の話>

米よりも前からソバはあったらしい。高知県内の遺跡から9300年前のソバの花粉が発見されたという。食べ物としてのソバの栽培が日本で始まったのも奈良時代以前と古い。

 

しかし麺としての蕎麦「蕎麦切り」が登場するのは16世紀末から17世紀初めといわれる。

「もり(せいろ盛り)」と「かけ(ぶっかけ)」という江戸蕎麦の基本形が確立したのは寛政年間(1789~1801年)頃のことではないかということなので、麺料理としての蕎麦の歴史はそれほど長いものでもない。

 

江戸の文化が爛熟期に入ると料理の技術も種類も多彩になる。

蕎麦も卵や柚子、茶、蓬、海老などさまざまなものを練り込んだいわゆる「変わり蕎麦」が登場するし、「かけ(ぶっかけ)」にさまざまに具を載せて楽しむ「種もの」も一気に増えていく。

 

<種ものあれこれ>

江戸期に蕎麦屋の品書きに載ったものとして有名なところを挙げると

 

「天ぷら」

当時は江戸前でとれた芝えびが主役であったろう。

「霰(あられ)」

蕎麦の上に海苔を敷き、生の「バカ貝(アオヤギ)」の貝柱(小柱)を載せ、汁をかける。

「花まき」

古い種ものだ。あぶった板海苔(浅草海苔)をもみ散らし磯の花にたとえた。

「卓袱(しっぽく)」

これも古い種物。卓袱料理(和風中国料理)をまねて、卵焼き、根菜、練り物などを。

「阿亀(おかめ)」

江戸下谷の太田庵が発祥。当時、おかめの顔に見立てて配置された具は松茸や湯葉、かまぼこ等。

「玉子とじ」

当然、とじずにそのまま載せた「月見」もある。

「鴨南蛮」

日本橋馬喰町にあった「笹屋」が元祖だという。文化年間(1808~1818年)だ。

「霙(みぞれ)」

おぼろ豆腐をだしで味つけし、蕎麦の上に掛ける。そういえば渋谷の名店「玉笑」に手作り豆腐を載せる「とうふそば」というのがあったな。

「小田巻(小田巻蒸し)」

うどん入りの茶わん蒸し。もともとは大阪の船場で食べられていたものだが、いまでも室町や赤坂の「砂場」、「更級堀井」、「かんだやぶ」、「神田まつや」などの老舗蕎麦屋は品書きに載せている。

「淡雪(あわゆき)」

卵の白身をメレンゲ状に泡立ててかけそばの上にかけ、もみ海苔を散らす種もの。食べて進むうちに泡が消えていくので淡雪。新海苔の季節の品書き。

 

そして本日の主役「磯雪(いそゆき)そば」

「淡雪そば」が卵白を使うのに対してこちらは全卵を使う。しかもそばは冷たいもりそばだ。

かつては受け皿と蓋のついた専用のせいろ(曲げわっぱ)に盛ったという。

 

<池之端薮蕎麦と磯雪そば>

かつて私は「池之端藪蕎麦」に行けば必ずといってよいほど「磯雪そば」を注文した。

残念ながら2016年に閉店してしまったが、揚げたそばの上に具入りの餡を載せた「すごもり(巣ごもり)そば」など、伝統を受け継ぐ老舗ながら先見性ものぞかせる店であった。

この「池之端藪蕎麦」の代表的な一品が「磯雪そば」だ。

「池之端藪蕎麦」が閉店してこのそばが食べられなくなったのが、私の「そば人生」の中で最も大きな喪失感を味わう出来事であった。

 

いま、築地にある蕎麦店「つきじ 文化人」では「磯雪そば」が食べられるという。

根津の「蕎心」は、池之端薮譲りの「すごもり」や「磯雪」の兄弟分の「淡雪そば」を出すらしい。

どちらかの店に「行こう行こう」と思っているうちにずいぶん時間がたってしまった。

 

そこで今回のこの「昔の料理レシピ備忘録」を機会に、自分で作ることにした。

 

<神田まつやでそばを仕入れる>

まずは肝心のそばだ。

そばつゆは作り置いている返しがあるので、だしさえとればいつでもできるのだが、そば打ちはしないのでどこかで手に入れなければならない。

 

昨日は仕事が早く終わったこともあり、うまい手を思いついた。

「そうだ!神田まつやで土産用の生そばを買って帰ればいい」。

というわけで明るいうちからの「蕎麦屋酒」ついでにそばゲットとすることにした。

 

「神田まつや」は私が最も足繁く訪れる蕎麦屋だ。

いつものように突き出しの「蕎麦味噌」、「岡本の雲丹」、「焼き鳥」でビールと銚子をそこそこ空けて、締めは蕎麦。

なんでもうまいが、気に入りの「カレー南蛮」にした。

「本日中にお召し上がりを」と念を押されながら3人前の蕎麦を土産に店を出た。

 

ついでの話だが、店を出て酔い覚ましにブラブラ須田町の界隈を歩いていたらとんかつの「万平」の店先に「お待ちどおさまでした」という「牡蠣バター」開始のお知らせが張り出してあった。

久しく食べてない。近々改めて出直すことになりそうだ。

 

<磯雪そばを作る>

「神田まつや」の生そば3人前。

 

せっかくの手打ち蕎麦に勝手に手を加えるのも気が引けるので、半分は普通の「もり」としていただいて、残りを磯雪にした。

卵は、たまたま「親子丼」を作った残りの「名古屋コーチンの卵」があったので、贅沢だがこれを使う。青のりは「萬藤」が販売しているもの。

 

<材料>

生そば 1と1/2人分

卵 2個

青のり 適量

そばつゆ(辛汁) 適量

おろし山葵

薬味ねぎ

 

<作り方>

① 卵をボウルに入れてあわ立て器で強くかき混ぜよくあわ立てる。

② 湯がいたそばを冷水で洗い、水けを切って器に盛る。

③ ②の上から①をかけ、軽くかき混ぜ、青のり(あおさ)を載せる。

④ ③の汁と青のりを絡ませながらそばをすくいそばつゆにつけながらいただく。好みでおろし山葵、薬味ねぎも。

最初は辛汁につけながら、残り僅かになったらつゆをぶっかけて食べた。

 

白身ではないのでかき混ぜてもメレンゲ状とまではいかないが、よく泡立てた卵がそばと絡み合い何ともやさしい味わい。「神田まつや」のつゆは「池之端薮」の辛汁よりおとなしめの味わいだからよけいやさしさが際立つ。いやあ、大成功だ。

もっとも、ほとんどの手柄は「神田まつや」のものだが。

 

「昔の料理レシピ備忘録」のリストは

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