コロナは食品では移らない:山本茂貴委員と松永和記ジャーナリストの対談 | 広田鉄磨のブログ

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ウィルス専門とはいいがたい山本茂貴さんに 食品安全委員会を代表した責任を持たせた形で 「コロナは食品を介しては移らない」(山本さん自身は 起こりにくい・・・という役人的なコメントをしていますが)とまで言わせた松永和紀さんの切込みはさすがのものと思います

 

しかし トイレで見ていても手洗いをちゃんとしている人はまれ という山本さんの言葉の入る章の題として

手洗い効果か? 食中毒は減っている

 

?付きとはいえ 慌てて読むタイプの読者をミスリードしてしまいかねない題は 松永さんが自主的に付けたのか それとも(マスクや三密防止、手洗いが重要という政治家答弁みたいな)山本さんの希望を入れたのか ちょっと違和感の残る舌ざわりです

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新型コロナは食品から感染する?専門家に聞いてみた 9/23(水) 12:22配信 Wedge 全文

 中国で冷凍食品から新型コロナウイルスが検出されたというニュースが8月に流れ、食品で感染するのでは、という不安が再燃しているようです。9月14日には、サンドイッチを製造する食品工場でクラスター発生が確認され、「サンドイッチは回収しなくてよいの?」と疑問を抱く人も出てきました。

 世界保健機関(WHO)は「新型コロナウイルスは、食品を介して感染が広がった例はない」などと説明していますが、「食品からはうつらない」「可能性はゼロ」と言い切らないところが、不安を招いているのかもしれません。それに、これからの時期に流行するノロウイルス対策との混同も心配です。新型コロナとノロの対策は異なるのです。

 そこで、食品安全委員会で微生物のリスクを主に担当する山本茂貴委員に、新型コロナウイルスと食品の関係、ノロウイルスとの違いを整理していただきました。

 ウイルスは低温には強い

松永 中国で冷凍食品から新型コロナウイルスが検出されて、多くの人が驚いたようです。

山本 ウイルスは一般に低温には強いのです。冷蔵庫の温度である4℃では、数週間から数カ月不活化せず、マイナス70℃でも感染力を失わない、と言われています。新型コロナウイルスも4℃で4~21日間活性を維持していた、という報告があります。したがって、冷凍食品からウイルスが検出された、というのは不思議でもなんでもないです。

松永 中国ではかなりの数の冷凍食品を調べているようですが、ブラジル産の鶏肉やエクアドル産エビなどから検出したと報道されており、中国産だからウイルスが付いている、というわけではなさそうです。でも、SNSなどでは「中国産食品の輸入禁止を」などと言っている人もいます。

山本 まず、海外産は危なくて国産は安全、というような話ではない、ということは理解して欲しいですね。

松永 私がとても気になっているのは、「加熱すればウイルスは死ぬから安全」と理解している人たちがとても多い、ということです。食品からの感染には2つのルートが考えられ、それぞれ対策が異なる、ということがどうも理解されていないようです。話がごっちゃになって、さらにノロウイルス対策と混同されて、「食品の回収を」とか「加熱が大事」などの意見になっているようです。なので、山本先生にスパっと整理していただきたいと考えました。

 「食品に付着したウイルスにより感染」の確率は低い

 山本 食品を介する第1のルートは、食品の表面や容器包装に新型コロナウイルスが付着していて、そのウイルスが人の手などを介して口や鼻、目などの粘膜に入り込むというものです。第2のルートが、食品の中に新型コロナウイルスが含まれていて、消化器官の上皮粘膜に入って増殖して……というものです。

松永 では、まず第1のルートの検討からお願いします。新型コロナウイルスは、食品の表面やパッケージに付いてどの程度の期間、活性を保ち続けるのでしょうか。

山本 新型コロナウイルスについてはまだ詳しいことはわかりません。しかし、2002年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルスや2012年の中東呼吸器症候群(MERS)の原因となったコロナウイルスなどで調べられていて、新型コロナウイルスもだいたい同じ程度だろうと考えられています。これらのウイルスでは、紙だと3時間~4、5日活性を保ち、プラスチックの上だと2日~9日、木の上は4日、というような報告があります。

 松永 そうすると、食品そのものや容器包装に触った時にそこに付いていたウイルスが手にうつり、その手で口や鼻、目を触って感染、ということが起こりうるということでしょうか。

山本 その可能性がゼロとは言えません。でも、WHOの専門家は、「中国は数十万の食品包装を調べたが、検出したのはほんのわずかだった」と説明しています。

松永 ゼロではない、というところに不安が起きてしまうのですが。

山本 多くの食品工場では通常、作業着を着て頭には帽子をかぶって手袋を付け、目だけを出して作業しています。食品やその容器包装に新型コロナウイルスが付く可能性がそもそも、非常に低いです。そのうえ、その食品が箱詰めされて店に運ばれて棚に置かれ購入され、その間、ずっと空気に触れ、場合によっては紫外線も受けて……ということになります。付いたウイルスが活性を持ち続け、それに偶然触ってさらに口や鼻などの粘膜に入り込む、ということが起きるかどうか。確率ゼロではないけれど、考えにくいですよ。

 「新型コロナウイルスを食べて感染」はない?

松永 では、食べて感染という第2のルートはどうですか? ノロウイルスを連想して不安になる人がいます。

山本 こちらは第1ルートよりももっと、起こりにくいと思います。新型コロナウイルスは、一番外側にエンベロープという膜を持っています。エンベロープがあると粘膜にある特定の細胞に付きやすく増殖しやすいと考えられています。しかし、エンベロープは酸性の液に浸ると壊れやすく、エンベロープを持つウイルスは胃酸により感染力を失ってしまいます。食品中にもし新型コロナウイルスがあったとしても、胃酸に耐えられないでしょう。

松永 ノロウイルスは異なるのですか?

山本 ノロウイルスはエンベロープを持っておらず、たんぱく質がむき出しになっています。たんぱく質は酸に強い。だから、ノロウイルスを含む食品が口から入って消化されても、胃酸をくぐり抜けて小腸に到達して食中毒を引き起こします。

松永 エンベロープがあるかないかが、ポイントですね。

 山本 もう少し詳しく説明すると、胃酸はpH(ペーハー)が2ぐらいです。pHは、数字が小さいほど酸性度が高くなっています。中性はpH7です。食品が胃の中に入ると酸が少し薄まりますが、それでも胃の中のpHは4~6程度だと言われています。エンベロープのあるウイルスはpH5~9で安定的で酸には弱いので、新型コロナウイルスは仮に口から食べたとしても、胃の中で胃酸に触れてエンベロープが壊れ活性を失い、消化管粘膜に行き着くことができないだろう、と考えられています。これに対して、ノロウイルスはpH3にも耐える、と報告されていますので、ノロウイルスを多く含む食品を食べると、そのうちの一部は胃酸をくぐり抜け小腸へ、となります 

松永 なるほど。その結果、ノロウイルスは食中毒を引き起こし、新型コロナウイルスは食中毒には至らない、と考えられているわけですね。

 マスクや三密防止、手洗いが重要

山本 新型コロナウイルスに感染して下痢などの消化管症状が起きる人もいます。小腸粘膜にウイルスが入って増殖しているわけです。これは、新型コロナウイルスが肺で増えて血管を通して広がり消化管にも到達したため、と考えられています。でも、肺から回った、ということを確認した、という報告もまだありません。そのため、食品を食べて、というルートを完全否定はできない。

松永 だから、WHOや日本の厚労省は「食品からは感染しない」と断言せずに、「感染の根拠がない、事例がない」というような持って回った言い方をするのですね。科学的ではあるのでしょうが、わかりにくいです。結局、第1のルートも第2のルートも可能性はゼロ、とはだれも断言できないけれど、起きる確率は著しく低く、とくに第2の食中毒ルートは心配しなくてよい、ということでしょうか。

山本 WHOは、食品による感染を恐れるべきではない、と説明しています。私も、同意しますね。感染した人と濃厚接触してウイルスがその人から直接付いたり、新型コロナウイルスをたくさん含んだ飛沫を浴びて吸い込んだりする方が、多くのウイルスを体に取り込んでしまう。そちらの方が機会も多くリスクがはるかに高いのだから、しっかり防御すべきです。

松永 ということは、感染を避けるのに大切なのは、やはり手洗い、マスク、人との距離をとるなどですね。

山本 ウイルスが食品に付いているかも、とどうしても気になる人は、食品を触った後にはすぐに手を洗ってウイルスを除去したらいいんですよ。

松永 しつこいようですが、念のためにお尋ねします。スーパーマーケットで、野菜や果物など触ってひっくり返して選ぶ、というのを無意識にやっている人が少なくない。実は多くの人が「あの人の手からウイルスがこの野菜にうつっているのでは?」なんて考えて、買ってきた食品に不安を持っています。今でも、家に着いたら消毒液で全部拭く、という人もいます。その作業、必要ですか?

山本 そこまでは必要ないと思いますよ。それらに触った手で目や鼻を触らないようにして、帰宅したらすぐに手を洗いましょう。野菜や果物は念入りに洗ってから食べる、という通常の管理で問題ないと思います。ほかの食中毒を防ぐ意味からも、しっかりと洗ってください。

 新型コロナとノロウイルスの違いを理解する

松永 さて、これからの時期は新型コロナウイルスとノロウイルスの両方に注意が必要になってきますので、対策の違いをお聞きします。

山本 2つのウイルスは、先ほど申し上げたように胃酸への強さが異なります。そして、熱への強さも少し違います。ノロウイルスは「85~90℃で90秒以上加熱」すると、感染力を失うとされています。一方、新型コロナウイルスは、「70℃以上で一定時間」となっています。新型コロナウイルスの方が少し熱に弱いようです。

松永 消毒できる薬剤にも違いがありますね。

山本 新型コロナウイルスはエンベロープがあるので、エンベロープを壊すアルコールや界面活性剤(石けん、洗剤など)がよく効きます。もちろん、次亜塩素酸ナトリウム溶液(家庭では、漂白剤を薄めて作る)も効果があります。一方、ノロウイルスはエンベロープがないので実は、アルコールや界面活性剤には強い。つまり、これらは効きません。ノロウイルスを消毒するには次亜塩素酸ナトリウム溶液を用いなければなりません(注)。

松永 つまり、今、アルコールで消毒を十分にしているから、ノロウイルスもこれで撃退、と考えてはいけないわけですね。

山本 ノロウイルスの感染経路を理解すると、対策もわかりやすいでしょう。ノロウイルスは人の体の中で増殖しますが、食品中やその表面で増えることはできません。人が排出したものが海の中で二枚貝の体内に入ったり、感染者が調理にたずさわってノロウイルスが食品に付いたりすると、それらを食べた人の体内でノロウイルスが増殖して症状が出ます。また、ドアやトイレなどによる接触感染、患者が排出したウイルスが飛ぶ飛沫感染もあります。したがって、ノロウイルス対策は、食品をしっかりと加熱してウイルスを不活化してから食べること/感染者に調理させないこと/感染者は自覚症状がない場合も多いので、だれもが調理したり食事をしたりする前にしっかりと手洗いをして、ノロウイルスを口にしないこと、ウイルスが付いたモノは消毒し、吐物等は処分……などとなるわけです。

松永 なるほど。感染経路が新型コロナより多いのですね。

 (注) 次亜塩素酸ナトリウム溶液は、新型コロナウイルス対策でモノを拭く場合には濃度0.05%溶液(500ppm)がよい、とされている。ノロウイルス対策では、用途により200ppm~1000ppmの溶液を使い分ける。詳しくは、食品安全委員会の「ノロウイルスの消毒方法」で。

ノロウイルスは、数十日間は感染力あり

山本 ノロウイルスは乾燥にも強いんですよ。ノロウイルスが、たとえばドアノブなどに付いてどれぐらい感染力を維持できるか、知っていますか?

松永 新型コロナウイルスだとせいぜい数日間、という話でしたが……

山本 ノロウイルスは数十日間活性を保つ、という報告もあります。この点も、新型コロナとの大きな違いですね。そして、アルコールや界面活性剤は効きません。感染者がドアノブや家具などに触ってウイルスが付くと、長期間、感染力を保っています。また、感染者の嘔吐したものや糞便にはノロウイルスが大量に混じっていて、乾燥して舞い上がり他の人の口へ、という感染ルートも確認されています。だから、ドアノブや家具は次亜塩素酸ナトリウム溶液で拭き、汚れた衣服やシーツはビニール袋に密封して処分したり、洗ったらさらに次亜塩素酸ナトリウム溶液で消毒したりするなど、厳重な対応が必要です。

松永 こうしてみると、ノロウイルスはエンベロープを持たないために胃酸をくぐり抜け、熱にも強くアルコールや界面活性剤は効かない。かなり強力なウイルスですね。これまで新型コロナウイルスばかり気にしていたけれど、今度はノロが怖くなった……という人も多いかもしれません。

手洗い効果か? 食中毒は減っている

山本 食中毒の発生状況を見ると、2020年の寒い時期はノロウイルスが少なめ。ほかの菌による食中毒も減っているようです。やはり、多くの人が手洗いをしているのが効果を上げている、と思います。ところが、飲食店が再開した6月以降は、カンピロバクターの食中毒が目立ってきました。多くは鶏肉の生食が原因です。鶏刺しや鶏たたき、鶏レバ刺しなどです。

松永 カンピロバクターは、感染して治った後にギランバレー症候群を発症する人がいる、とされています。手足の麻痺や呼吸困難など、怖い病気です。新型コロナと同じぐらい深刻な問題だと思いますが、いまだに生食用の鶏肉ではないものを生で提供する飲食店があり、それを食べる人たちがいる。新鮮な鶏肉であれば安全、という間違いを信じ込んでいる人もいるようです。

山本 新型コロナと同じように、食中毒にも十分に注意してください。もっとも重要なのは基本的な手洗いです。石けんで30秒~60秒もみ洗いし流水で15秒すすぐ。これを2度繰り返すと効果的です。公共のトイレなどで見ていると、どうも手を洗うのではなく濡らしているだけ、という人がいます。

松永 30秒とか60秒というのは思った以上に長く感じられて、なかなかできません。

山本 そうですね。海外では、ハッピーバースデーの歌を2回歌って、その間は手を洗いましょう、と言っている国もあります。

松永 手洗いが最大の防御だ、ということを忘れないようにしなければ。

山本 新型コロナウイルスに関しては、これまでと同様に手洗い、マスク、人と身体的距離をとる、そしてクラスターの発生を防ぐために三密を避けるなど普通の対策を。ほかの菌やウイルスによる食中毒対策としては手洗い、食品をしっかり加熱。エコバックは肉汁などが付くと菌が繁殖するのでこまめに洗濯を。食品安全委員会でも、ウェブサイトに「新型コロナウイルス感染症と食品について」というページを作り情報を提供しています。ノロウイルスについても、「食品健康影響評価のためのリスクプロファイル」を作り公表しています。新しい研究成果にも対応して内容を更新し、詳しく説明しています。そのほかの食中毒を引き起こす細菌などについても性質や対策を解説していますので、見て役立ててほしいです。

松永 詳しくご説明いただき、どうもありがとうございました。

【プロフィール】山本茂貴(やまもと・しげき)1979年東京大学農学部畜産獣医学科卒業、1981年東京大学大学院農学系研究科獣医学専攻修士課程修了。1988東京大学農学博士。2002年国立医薬品 食品衛生研究所食品衛生管理部長、2013年4月より東海大学海洋学部水産学科食品科学専攻教授。2017年1月より食品安全委員会委員

<参考文献>

UN Web TV・Maria Van Kerkhove & Michael Ryan (WHO) - Food Safety (COVID - 19) (Geneva, 13 August 2020)

食品安全委員会・新型コロナウイルス感染症と食品について(内閣府・食品安全委員会HP)

Kampf G, Todt D, Pfaender S, Steinmann E. Persistence of coronaviruses on inanimate surfaces and their inactivation with biocidal agents. J Hosp Infect. 2020 Mar;104(3):246-251.

Rabenau HF, Cinatl J, Morgenstern B, Bauer G, Preiser W, Doerr HW. Stability and inactivation of SARS coronavirus. Med Microbiol Immunol. 2005 Jan;194(1-2):1-6.

食品安全委員会・食品健康影響評価のためのリスクプロファイル(内閣府・食品安全委員会HP

食品安全委員会・精講:食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~ノロウイルス~[東京会場 2回目](内閣府・食品安全委員会HP)

松永和紀 (科学ジャーナリスト)

 https://news.yahoo.co.jp/articles/e2b86ce41ce8b339c850bb3dae870a2d1bddadc7