○ 聚楽第・一室・(夜)
織部の声「しかし、こうしていた時にも太閤殿下の天下取りは着々と進んでいった」
秀吉、秀長、利休、そして三成が馬吊(「マーティオ」=麻雀の原型)を興じている。
脇には日本地図。
更にその上には、書状の山。
秀長、紙牌(チーパイ)を打ちながらその書状を指し、
秀長「北条の重臣、また一介の侍大将、同盟武将にいたるまで…、皆…豊臣に二心なく忠心を誓うと言ってきておる。哀れは北条よ。これがかの氏康公の築かれた名家の末路とはな」
三成「しかし、これでようやく全てが終わりする」
秀吉、話を聞かぬかのように…
秀吉「ポン」
と、パイを投げる。
秀長「いや。まだだよ、三成さん…」
三成「?」
秀吉「(リーチの意)詰み」
秀長「次の考えがある」
秀長、書状を払い朝鮮半島を指す。
秀長「朝鮮だ」
利休「…(思いがあるかのように秀長の顔を見つめる)」
三成は驚愕の様子。
秀長「(三成に)…そうだ。皆に死んでもらう」
三成「…」
秀長「兄が天下を治めようとも腕ばかり覚えがあり、政治、統治に向かん荒武者どうもがいかに多いか?最低五回…いや六回は遠征を行い面倒者の力を殺ぐ。特に家康…そして前田利家だけには何としてでも行ってもらう」
三成、この秀長の非情さには一言もでない。
秀吉「それ、ロン」
秀吉、笑う-しかし目は笑っていない。
秀長「政治は仕組みだ。もう力自慢の武者どもはいらん。後は我らの言葉、法を守る官吏さえおれば良い。これで全てが終わる…。後は…(利休に目をやり)この者の知恵がモノを言うという訳だ」
利休、苦笑す。
と、漸く秀吉が口を開く
秀吉「…非情なことだ。儂は五代に渡る関東北条の歴史、文化を破壊し、また今度は数多の戦を共にした盟友を葬らねばならぬ。まさに悪鬼…」
利休「(冷静に)藤吉…いや、殿下はその星の元にお産まれになった。お受け入れなされ」
秀吉「気楽に言いおる」
利休「いや、藤吉…それは違う。もし貴様が十年送れて産まれれば、今の世は徳川、前田、あるいは伊達…その者らのものになっておろう。しかし天は貴様をこの世に…この時に落とした。…違うか?」
秀吉、ジッと下を向いていたがふと顔を上げ、
秀吉「さ、もう一回」
三成が、横になっている。
秀長「もう人が足りんわ。あんたには付いてゆけん。俺ももう眠い」
と、襖が開き茶々が入ってくる。
一同が固まる。
秀吉「どうした?茶々」
茶々「お邪魔かとは思いましたが…お勇ましい男衆の言葉を拝聞いたしますと、心が沸き立ちまする。」
茶々、それだけ言うとすぐ去ってゆく。
起きている三人の間に、ふと呆けた雰囲気が残る。
秀吉「御主らどう思う?(ボソッと)」
二人「?」
秀吉「いや、これまでこの日ノ本の歴史を作り続けたのは誰であろうかのう…?そう思っての…」
利休「少なくとも今は、殿下にあらせられましょう」
秀吉「違う…女だ。男共は女の手の平で転がされている。後の世も…そうはあるまいな」
秀吉、自嘲的に笑う。
二人も『全く』というように笑う。
寝ていたはずの三成は、しっかり目を開けている-狸寝入りである。
秀吉「いや、そうでも考えんと…儂も血肉の通った人間だ。とても耐えられん」
秀吉、三成を起こし、
秀吉「起きんか!三成」
三成、いかにもフラフラと座りなおす。
秀吉「さ、もう一勝負」
秀吉、荒々しく牌をこねる。
(続く)