@連載脚本『聚楽第』…その22 利休の独白 | ノレンの妄想日記

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好き勝手に綴りまする。

行く川の流れはたえずして、徒然なるままに、男もすなる日記たうものを…って、あたしゃ男やっ!

後、残したいモノを…。

具体的には…自作シナリオの『image画』を残してます。
シナリオのタイトルは『聚楽第 千利休.異聞』です。

○ 聚楽第・織部の庵(翌朝)

  久蔵が一人で蔦の世話をしている。



○ 同・能楽堂

  秀吉が、舞っている。

  その、何かを忘れたいような表情。



○ 同・一室

  利休、織部が対座している。

利休「近く、戦が起こる」

織部「…」

利休「向かうは…もう言わずとも解ろう?」

織部「はい」

利休「そこでだ…俺は貴様を徳川家康公の茶頭として推挙しようと思う」

  織部、儀礼的に頭を下げ

織部「はい。有難き幸せ」

利休「関東・小田原を攻めるとなると、必然浜松の地を後方に回すことになる。解るな?」

織部「…はい」

利休「この戦、無論我ら豊臣の勝ちとなる。(声を高め)だが次の軍議の席で、先鋒 誰が勤めるかによりこの天下…あるいは百年後戻りするやもしれぬ。その意味では大きな戦と言える。そこで貴様だが…」

織部「…それで?」

  利休、懐から小瓶に入った薬を取り出し、

利休「家康、戦の間、何時、何処で、如何なる事しているか…逐次目を離すな!日に一度の報告を欠かさぬよう。使いの段はおって考える。(声を高め)そして何より大事は…万が一家康に造反の兆しあらば、これにて…解るな?」

織部「…ま、まさか…(語気を荒げ)承知しかねます」

  利休、解っていたかの様に微笑し、

利休「また、何ぞ茶の湯の精神やらと始めるのではあるまいな?」

織部「…」

利休「無論、貴様の身の安全は考える。幸いにも貴様は武人だ。我ら身一つの者とは違い、家来数人を連れ立ってもおかしくはない。…そう言えば(笑う)まだ祝いの言葉も申しておらんかったな。…ん?山城国代官殿。この度のご出世、めでたくぞんじます」

  利休、小馬鹿に頭を下げる。

  織部、屈辱のあまり袴を握る手に力が入る。

利休「考えろ。無論貴様の将来はこの宗易が保証する」

織部「…わかりませぬ」

利休「…」

  織部、語気を強め
織部「私にはわかりません」

利休「よいか。足利、織田、そして今は豊臣。…時代時代により時の為政者は変わってゆく。儂はこの目でそれらを見てきた。そして我らの道は、これら天下人の庇護なくしては生きては行けぬ。さもなくばどこぞの『田楽』『猿楽』などといった今日では名を思い出されもせぬ芸道と成り果てよう。しかし我らは違う。いざとならば豊臣見限り、徳川の手によって庇護を受けようともそれを受け入れ生きる」

  利休、一呼吸を置き…
利休「そして我が茶の道は永遠に残る」

  織部、暫く考えこみ、

織部「(弱々しく)…承知するにあたり…」

利休「?」

織部「…一つ、…一つだけ条件を申しあげたい」

利休「何だ?」

織部「吟殿を頂戴したい」

利休「(即座に)何を言う…。断る」

  織部、平伏し、
織部「お願い申します」

利休「(声を高め)断る!」

織部「それではこの織部、このお話、只今きっぱりとお断り申す」

  織部、立ち上がり、部屋を出てゆく。

利休「織部っ!」





○ 同・廊下

  織部が去ってゆく。

利休の声「織部っ!」





○ 同・織部の庵

  久蔵、庭の朝顔を手入れしている。

  ふと見ると、利休が立っている。

  久蔵、一礼。

久蔵「古田織部は戻っておりませぬが…」

  久蔵、利休の表情に驚く。

  利休、庵の庭を見入っている。
  驚嘆に満ちた顔。


   (続く)