○ 織部の庵(朝)
空舞台。
と、蹂口から久蔵が出てくる。
何やら不快そうな様子。
その蹂口から今度は織部の手が出、久蔵の袴を掴む。
久蔵「…(怒)俺が知るかっ!」
織部の声「…良いから待てっ!」
久蔵「…」
織部の声「(哀願)…待ってくれ」
久蔵、中へ引きずり込まれて行く。
○ 同・中
一面に広げられた織部の焼き物。
織部、にこやかに座している。
久蔵、憤然としながらも座る。
○ 織部の庵・前の道
吟が共を連れ歩いてくる。
○ 同・中
織部、緊張して座している。
久蔵は不快そう。
男の声「ごめん」
織部、嬉々と立ち上がり蹂口から出て行く。
○ 同・前
吟が共と立っている。
織部「…よ…ようこそっ!」
吟、微笑んで会釈する。
× × ×
共の男は外に立っている。
吟の声「(歓喜の声)いやぁ!」
共の男、庵を見やる。
○ 同・中
一面に広げられた織部の焼き物。
吟、楽しげに焼き物を検分している。
久蔵はそっぽを向いている。
満足げな織部。
吟「よぉもまぁ…[へうげ]な…」
織部「…お師匠様の教えに感慨を受けました…。そう…幼少 の折より…」
吟「…父の?」
織部「一期一会にございます」
吟「…」
織部「…確かに私の品は奇異にも見えましょう。が…それ も唯一度限りの出会いを大切に…」
吟「(遮り)父の言葉は千年先にまでも残りますやろか…。… しかし…自分にとっては…これまでお会いになった殆どのお人は… 一回こっきりで沢山や…」
織部「えっ…?」
久蔵もピクリと耳を立てる。
吟「…自分の運は秀吉のお父はんに拾われて…それでお終いや…」
織部「…」
久蔵「…お父君はもうお一人おられよう?」
吟「…」
織部、慌てて
織部「(久蔵を指し)これなるは…と…友です。…そ…その… (言葉に困り)」
久蔵「(冷徹に)おられますでしょう?」
織部「(怒鳴る)黙れ!貴様っ!」
吟、ふと寂しげに笑い
吟「そうですなぁ。そのお方のおっしゃりの通りでした わ。父に…利休に怒られますなぁ」
一同の間に気まずい沈黙が漂う。
○ 同・庵前
織部、久蔵が見送る中、吟が共と去ってゆく。
と、織部、久蔵をー
織部「(怒りを込め)貴様ぁっ!」
と、拳を振り上げる。
が、織部の拳が止まる。
久蔵が寂しげに織部を見つめている。
織部「…(謎)」
久蔵「…(寂しげに)貴様…あの娘を想うのなら…」
織部「…」
久蔵「…大切にしてやれ」
織部の腕が垂れる。
久蔵、黙って去ってゆく。
風が寂しげに吹いてくる。
(続く)