皆さま
交霊会(降霊会)は、霊媒(メディアム)を通じて死者の霊と対話する儀式であり、世界各地で行われてきました。西洋ではスピリチュアリズムの流行とともに発展し、日本ではイタコやユタ、そして憑霊信仰とも結びついています。
しかし、交霊会は単なる信仰や儀式なのか、それとも科学的に説明可能な現象なのか? さらには、日本における「憑霊」と「祈祷性精神病(宗教性精神病)」との関連性はどう考えられるのか?
今回は、その歴史、科学的・超心理学的解釈、そして脱物質主義の視点まで掘り下げ、交霊会の真実に迫ります。
1. 交霊会の歴史:スピリチュアリズムの興隆
交霊会の起源とフォックス姉妹の事件
交霊会(Séance)が19世紀に流行するきっかけとなったのは、1848年にアメリカ・ニューヨーク州ハイズヴィル(Hydesville)で起きたフォックス姉妹の事件です。
この事件は、姉妹であるマーガレット・フォックス(Margaret Fox)とケイト・フォックス(Kate Fox)が「死者の霊と交信できる」と主張したことから始まりました。
彼女たちは、自宅の壁や床から発せられる謎のラップ音(Knocking Sound)を通じて、亡くなった人物の霊が意思を伝えていると語りました。
この現象に関心を持った人々が集まり、フォックス姉妹は「Yes/No」のラップ音によるコミュニケーション方法を確立します。
やがて、彼女たちは各地で交霊会を開くようになり、その噂はアメリカ全土に広がりました。そして、スピリチュアリズム(Spiritualism)と呼ばれる運動の火付け役となったのです。
フォックス姉妹の告白と撤回
フォックス姉妹はスピリチュアリズムの象徴的存在として注目されましたが、1888年にマーガレット・フォックスが「ラップ音は全てトリックだった」と公の場で告白しました。
彼女によれば、足の指の関節を使って音を鳴らしていたとのことです。しかし、その後マーガレットは自分の告白を撤回しており、真相は不明のままとなっています。
スピリチュアリズムの発展と交霊会の広まり
フォックス姉妹の事件を契機に、19世紀半ばからアメリカでは「交霊会」が流行し、多くの霊媒が登場しました。
中でも有名なのがダニエル・ダングラス・ヒューム(Daniel Dunglas Home)です。
物理学者ウィリアム・クルックス(William Crookes)が科学的検証を行い、彼の現象の一部は「説明困難」と評価しました。
しかし、同時代の懐疑派は、彼の現象が巧妙なトリックである可能性を指摘しており議論が続いています。

著名人の関与:アーサー・コナン・ドイルとハリー・フーディーニ
『シャーロック・ホームズ』シリーズの作者であるアーサー・コナン・ドイル(Arthur Conan Doyle)は、スピリチュアリズムの強い支持者でした。
彼は妻の死後、霊媒師との交信を試み、霊的世界の実在を確信しました。1918年以降、彼はスピリチュアリズムの講演を世界中で行い、『The History of Spiritualism』(1926) を出版しました。
彼の信念の強さは、親友であったマジシャンのハリー・フーディーニ(Harry Houdini)との論争を引き起こしました。
フーディーニは交霊会の霊媒が使用する手法を分析し、多くの霊媒がトリックを使用していたことを暴露しました。
彼は、霊媒師が「死者と交信している」と称しても、それは事前情報の収集や心理的な操作によるものだと指摘しました。
特に彼はダベンポート兄弟(The Davenport Brothers)の交霊術が詐欺であることを暴いたことで有名です。
ホワイトハウスと交霊会:リンカーン夫妻の事例
アメリカの政治家たちも交霊会に関心を持っていました。特にエイブラハム・リンカーン大統領(1809-1865)の妻メアリー・トッド・リンカーン(Mary Todd Lincoln)は、亡き息子の霊と交信するため、交霊会を頻繁に開催したとされています。
1862年、息子のウィリー・リンカーン(Willie Lincoln)が病死した後、メアリーは深い悲しみに沈み、霊媒師ネティ・コルバーン(Nettie Colburn)を招いて交霊会を開催しました。
彼女は「夫(エイブラハム・リンカーン)も交霊会に出席した」と語りましたが、実際にリンカーン大統領が交霊を信じていたかは不明です。
メアリーはオカルト的な儀式に熱心であったため、「スピリチュアリズムに傾倒した女性」として当時の新聞にも取り上げられました。
しかし、ホワイトハウスで頻繁に交霊会が行われたかどうかについては、証拠が乏しく、歴史的には確証がない部分もあります。
19世紀にスピリチュアリズムが広まった背景には、科学の発展による唯物論的世界観への反発や、戦争・疫病による死者との対話への渇望があったと考えられます。
一方で、同時代には多くの懐疑論者が交霊会の手法を暴き、心理学的要因(イデオモーター効果、クリプトムネシア)による説明も進みました。
交霊会は歴史の中で神秘と科学の間に位置し、現在も議論の的となっています。
2. 著名な霊媒師の事例:本物か、それとも詐欺か?
19世紀から20世紀にかけて、多くの霊媒が登場し、交霊会を主催しました。その中には「本物の霊媒」として称賛された者もいれば、詐欺師として暴かれた者もいました。
ここでは、シルバー・バーチを伝えたモーリス・バーバネルと、SPR(心霊研究協会)が調査したレオンーラ・パイパーの二人を取り上げ、彼らの霊媒現象の実態と、それに対する科学的・超心理学的評価を詳しく見ていきます。
(1)シルバー・バーチ:モーリス・バーバネルの霊訓
20世紀のイギリスで最も有名な霊媒の一人がモーリス・バーバネル(Maurice Barbanell)です。
彼は、交霊会を通じて「シルバー・バーチ(Silver Birch)」という霊と交信し、50年以上にわたって霊訓(Spirit Teachings)を記録しました。
シルバー・バーチとは誰か?
シルバー・バーチは、バーバネルによればアメリカ・インディアンの霊を媒体として語る存在でした。
しかし、シルバー・バーチ自身は「私はアメリカ・インディアンではない。姿を借りているだけだ」と語っており、彼の本質については謎が多い存在です。
彼のメッセージの多くは人類愛、霊的成長、来世の存在に関するものであり、キリスト教や仏教の倫理観とも共通する内容が含まれています。
1920年代以降、バーバネルのトランス状態での口述が『Psychic News』という雑誌に定期的に掲載されるようになり、多くの読者に影響を与えました。
霊訓の内容
シルバー・バーチの霊訓の要点をまとめると、以下のような思想が見られます。
①人間の霊的成長と魂の進化
- 「人間は魂を磨くために地上に生まれる」
- 「肉体の死は終わりではなく、霊の世界で進化を続ける」
②霊的世界の法則
- 「死後の世界には階層があり、魂の成長に応じて次の段階へ進む」
- 「低い霊的レベルにとどまる魂は、地上の波動に引き寄せられやすい」
③愛と利他的行動の重要性
- 「自己中心的な生き方では霊的進化ができない」
- 「人は互いに助け合いながら、より高次の存在へと成長していく」
バーバネルの霊媒現象は本物か?
バーバネルは「霊との交信には何の意図もなかった」と主張していますが、彼の霊訓がバーバネル自身の潜在意識によるものなのか、本当に外部の霊的存在と交信していたのかは、長年議論されています。
心理学者の中には、バーバネルが「潜在意識から自己暗示的に情報を得ていた可能性が高い」と考える者もいます。
一方で、スピリチュアリストの間では「シルバー・バーチの霊訓は、バーバネルの知識を超えた内容であり、本物の霊媒である証拠」とする見解もあります(White, 2004)。
アメリカで「本物の霊媒」としてSPR(Society for Psychical Research, 心霊研究協会)によって精査されたのがレオンーラ・パイパー(Leonora Piper, 1857–1950)です。
彼女は、クライアントの情報を事前に知らずに、詳細な個人情報を言い当てる能力を持つとされました。
SPRは、彼女の能力を検証するために長期間にわたり詳細な調査を行いました。その主な研究者には、以下のような人物が関わっています。
リチャード・ホジソン(Richard Hodgson)……彼女を長年観察し、「本物の霊媒である」と評価。
ウィリアム・ジェームズ(William James, 哲学者・心理学者)……彼女のセッションに立ち会い、「通常の手法では説明できない現象がある」と記録。
パイパーの霊能力は、主にトランス状態での自動書記や口述によるもので、彼女が交信するとされる霊は以下のような人物でした。
- ジョージ・ペルトン(George Pelton):パイパーを通じて語る霊の一人で、クライアントの過去について詳細な情報を提供した。
- フィニアス・クインビー(Phineas Quimby):実在の人物であったが、死後にパイパーの交霊会で登場し、医学的な助言を与えたとされる。
SPRの研究では、パイパーが通常の手段では知りえない情報を提供したことが記録されています。しかし、これは「霊との交信の証拠」なのか、それともESP(超感覚的知覚)の結果なのかについては議論が分かれています。
超ESP(Super ESP)仮説
SPR内では、「パイパーの霊媒現象は死者との交信ではなく、彼女自身のESP(テレパシーや透視能力)によるものではないか?」という仮説が提唱されました。
この仮説によれば、パイパーはクライアントの潜在意識にアクセスすることで、あたかも死者と交信しているかのように情報を得ていた可能性が指摘されています(Gauld, 1983)。
モーリス・バーバネルとシルバー・バーチは、長年にわたって霊的メッセージを伝え続けたが、それが霊からのものか、バーバネルの潜在意識によるものかは不明でした。
レオンーラ・パイパーはSPRによって厳密に調査されたが、「死者の霊との交信」か「ESPによる情報取得」かについては未解決のままです。
両者の事例は、交霊会が単なる詐欺ではなく、何らかの未知の現象が関与している可能性を示唆しています。
しかし、それが「死者の霊」との直接的な対話であると証明するには、さらなる研究が必要です。
3. 日本の文化との比較:憑霊信仰と祈祷性精神病
西洋の交霊会と類似する現象は、日本にも古くから存在しています。
しかし、日本の憑霊信仰と関連づけて考えると、そこには宗教的・文化的背景の違いがあり、単なる「霊との交信」では説明しきれない要素が含まれています。
ここでは、日本における憑霊信仰の伝統と、それに関連する祈祷性精神病(宗教性精神病)の概念について詳しく掘り下げます。
(1)日本における憑霊信仰
日本では古くから、人間は神霊や死者の霊に憑依されると信じられてきました。
これを憑霊信仰(Possession Belief)と呼び、特に神道や民間信仰に根ざした儀礼の中で重要な役割を果たしています。
憑霊信仰では、憑依する存在は以下のように分類されます。
- 神霊(神がかり) - 神の意志を伝える神懸り状態(巫女や神職が媒介)。
- 死者の霊(口寄せ) - 死者の魂が霊媒に乗り移る(イタコの口寄せなど)。
- 怨霊・物の怪 - 怨念を持つ霊が人に憑依し、病気や異常行動を引き起こす(陰陽道や民間信仰の祈祷による除霊対象)。
代表的な憑霊文化の例
|
種類 |
地域・伝統 |
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イタコ |
青森県恐山。盲目の女性が修行を経て霊媒となり、死者の霊を降ろす。 |
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ユタ |
沖縄地方の霊能者。祖霊信仰に基づき、家系の因縁を見極める。 |
|
神懸り |
神道儀礼における巫女のトランス状態。神託を伝える役割を持つ。 |
|
狐憑き |
江戸時代の民間信仰。狐霊(野狐)が人に憑依し、奇妙な言動を示すとされた。 |
イタコの口寄せと交霊会の違い
西洋の交霊会では、霊媒師が死者の言葉を伝えることが主な目的ですが、日本のイタコの口寄せには次のような特徴があります。
- 霊媒の身体を通じて死者が直接話す(トランス状態に入る)
- 死者の霊と会話することで供養を行う(鎮魂の目的が強い)
- 特定の宗教(神道・仏教)の要素と融合している(先祖供養との関連)
また、西洋の交霊会では「霊と科学的に交信できるか?」という実証的な側面が強いですが、日本の憑霊信仰は「死者との対話を通じた心の癒し」としての役割が重視される傾向にあります。
(2)祈祷性精神病(宗教性精神病)とは何か?
「祈祷性精神病(きとうせいせいしんびょう)」とは、宗教的行為や信仰体験が強い心理的影響を及ぼし、幻覚や妄想が生じる精神状態を指します。
これは、「宗教性精神病(Religious Psychosis)」とも呼ばれ、過度な信仰が精神に影響を与えるケースとして研究されてきました。
祈祷性精神病の特徴
- 自分が神や仏と直接交信できると信じる(神懸り型)
- 霊に取り憑かれたと感じる(憑霊型)
- 悪霊に攻撃されていると妄想する(被害妄想型)
憑霊信仰の伝統がある日本では、これらの症状が「病」ではなく「神聖な体験」として受け入れられることもあります。
たとえば、巫病(かんなぎやまい)と呼ばれる現象は、精神的な異常状態に陥った人が「神の声を聞く」とされ、やがて霊的な力を持つ者として認められることがありました。
しかし、祈祷性精神病と霊媒現象を区別する必要があるとされます。
心理学者のカール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung)は、霊媒状態を「集合的無意識と接触する一種の解離現象」として説明しました(Jung, 1960)。
つまり、霊との交信は深層心理からのメッセージである可能性も考えられるのです。
西洋の交霊会と祈祷性精神病の違いは以下のように整理できます。
表2.西洋の交霊会と日本の憑霊信仰の違い
|
項目 |
西洋の交霊会 |
日本の憑霊信仰 |
|
目的 |
死者の霊と対話 |
神霊・死者の意志を伝える |
|
方法 |
霊媒が間接的に伝える |
霊媒が霊に憑依される |
|
心理的影響 |
解離現象、自己暗示 |
精神疾患と神秘体験の狭間 |
|
社会的受容 |
科学的に検証されることが多い |
宗教・霊性文化として定着 |
このように、日本では憑霊信仰が精神的な病と見なされる場合と、神聖なものとして扱われる場合があり、その境界線は曖昧です。
憑霊信仰と交霊会は、表面的には似ていますが、文化的・心理的な背景が異なります。
特に、日本では「憑依」や「神懸り」が精神的な病と区別されないことがあり、それが祈祷性精神病と交錯する要因になっているのです。
今後、この分野のさらなる研究が求められます。
交霊会は、日本の憑霊信仰とも共通点を持つ一方で、科学的視点からどのように解釈できるのでしょうか?
後編では、交霊現象を心理学・超心理学・脱物質主義の観点から詳しく考察します。
(後編に続く)
文責:はたの びゃっこ
参考文献一覧
1.交霊会に関する文献
Brandon, R. 1983 The Spiritualists: The Passion for the Occult in the Nineteenth and Twentieth Centuries. Knopf.
Weisberg, B. 2004 Talking to the Dead: Kate and Maggie Fox and the Rise of Spiritualism. HarperOne.
Crookes, W. 2010 Researches In The Phenomena Of Spiritualism. Kessinger Publishing.
Lamont, P. 2005 The First Psychic: The Peculiar Mystery of Daniel Dunglas Home. Little, Brown & Company.
Doyle, A.C. 2007 The History of Spiritualism: Volume 1 Paperback. Book Tree; New, Revised edition.
Houdini,H. 2002 A Magician Among the Spirits. Fredonia Books.
Christopher, M. 1969 Houdini: The Untold Story. Thomas Y. Crowell Co.
Kengor, P. 2009 Abe Lincoln’s Faith and Politics. Regnery.
Ackerman,L. 2021 Everyone Calls me "Nettie": The True Story of a Trance Medium in Abraham Lincoln's White House. Independently published.
2.霊媒師に関する文献
Barbanell, M. 1975 The Teachings of Silver Birch. Spiritualist Press.
アン ドゥーリー (編集), 近藤 千雄 (翻訳) 2004 シルバー・バーチの霊訓 1 潮文社
三浦清宏 2022 新版 近代スピリチュアリズムの歴史 心霊研究から超心理学へ 国書刊行会
Blackmore, S. 1987 The Adventures of a Parapsychologist. Prometheus Books.
James, W. 2006 The Will to Believe and Other Essays in Popular Philosophy. Cosimo Classics. (First published in 1897)
Hodgson, R. 1892 Proceedings of the Society for Psychical Research. Vol. 8.
Gauld, A. 1983 Mediumship and Survival: A Century of Investigations. Heinemann.
3.憑霊信仰と祈祷性精神病に関する文献
大宮司 信 2022 祈祷性精神病 憑依研究の成立と展開 日本評論社
柳田 國男 1977 妖怪談義 (講談社学術文庫 135) 講談社
小松 和彦 1994 憑霊信仰論 妖怪研究への試み (講談社学術文庫 1115) 講談社
谷川 健一 1999 日本の神々 (岩波新書 新赤版 618) 岩波書店
Jung, C. G. 1960 The Archetypes and The Collective Unconscious. Princeton University Press.
以下の過去記事を読んでいると本記事の理解がはかどります。
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