皆さま
「子宮系スピリチュアル」というものがあります。
これは、女性の「子宮」を神聖なもの、つまり特別で大切なものと捉え、その声に耳を傾けることで自分らしい生き方を見つけようとする考え方です。
このような動きについて、以下のような記事がメディアに掲載されています。
要約しておくと(以下敬称略)
1.壱岐島では、過去8年間に「子宮系スピリチュアル」と呼ばれる運動が広がり、島の経済と文化に大きな影響を与えている。
2.2016年頃、スピリチュアリストのHappy(元TBSアナウンサー小林麻耶との交流で知られる)が壱岐島で不動産を購入し、ゲストハウスを開設。彼女の影響で「信者」が集まり始め、18年にはミュージカルを壱岐市で上演し、当時の総理夫人だった安倍昭恵氏も観劇に訪れるなど注目を集めた。しかし、Happyは騒音トラブルなどを起こし、観光大使を解任されている。
3.Happyの友人で、1985年生まれの八木さや(元「子宮委員長はる」)が島に移住し、男嶽神社の宮司と結婚。現在は吉野さやかとして活動している。彼女はかつて「ジェムリンガ」(膣内に入れる石)の効果を喧伝したこともあり、医学的に問題視されていた。表向きには子宮系の活動をやめたと語っているが、2023年に出版した著書でも子宮系の主張を展開している。
4.子宮系の信奉者が増加し、壱岐島の地域経済に影響を及ぼしている。吉野はカフェをオープンし、島の駅「壱番館」を事業承継するためのクラウドファンディングで1000万円の資金を集めることに成功したとしている。この動きは島民にとって重要な直売所を維持する手段となったが、吉野が以前から抱えているスピリチュアル思想に関連した噂も伴っている。
5.壱岐島の「島の駅」を運営していたJA壱岐市の理事によると、経営難により誰かが引き継ぐことが重要だったと語っている。島の駅は地元の高齢者にとって重要な場所であり、経済的な持続可能性を確保するために、吉野が引き継いだことは歓迎されている。
6.吉野は「地方の農業を活性化したい」というビジョンを語りつつ、子宮系スピリチュアルの考えは変わっていないものの、それを発信していないとしている。子宮系の思想は彼女の活動に根強く影響を与え続けているが、壱岐島でのビジネス展開とは別の話だとしている。
ということになります。
また、子宮系スピリチュアルについて批判的な記事としては、以下のようなものを挙げることができます。このメディアは「似非スピ」に対して以前から批判的な言説を展開しています。胎内記憶の件もこき下ろされていました。
ビジネスとはいえ、人の金銭感覚を大きく狂わせてしまうようなことが、エセスピ界隈ではいまだに起きています。“個人の趣味”の範疇を越えてこの界隈に入れ込んでも、何も残らないことを知っていただきたいと願っています。
(中略)
コロナ禍において、デマや誤情報の蔓延は特に深刻な問題だと認識され、主要メディアも連日のように取り上げています。そんな中でAmebaブログには、スピリチュアルと関連づけた極端な自然派、反ワクチン、陰謀論めいた言説を繰り広げるブロガーが、いくつかのアクセスランキングで上位に食い込んでしまっています。
この「人気」が「情報の信頼度」の指数になってしまうようで、書籍の出版やセミナーの開催につながり、その結果「プチカルト」の様相を呈しているケースまで……。Ameba側はこの現状をきちんと把握し、過去さまざまな“教祖様”にお墨付きを与えてしまったことも顧みて、自浄作用を働かせる1年にしていただきたいものです。(上記記事より引用)
とアメブロに対する注文までついています。
批判されるのは、そこに何か「危うさ」を感じさせる要素があるからで、似非スピの基準は反社会性(詐欺、過度の商業主義につながる)、また非科学的言説の流布による「信者獲得」などの動きも見られるからでしょう。
ただ、カルト=危ないという図式は単純化しすぎており、正しくは反社会的カルト(破壊的カルト)という言葉に置き換えて使う必要があります。
学術用語としてのカルトは、カリスマ的指導者を中心とする小規模で熱狂的な会員の集まりですから、すべてのカルトが社会的に有害であるとは限りませんし、世界宗教だって最初はカルトだったものが、全世界に広まっているわけです。
何でもカルトだから危険という固定観念ではなく、よくその集団の持つ特性を見て、ケースバイケースで評価する必要があります。
筆者の場合は、6年ほど前に壱岐での「縄文祭」のときに「子宮系スピリチュアル」について知った次第で、壱岐の歴史文化との整合性や地域住民に及ぼす影響について、なぜ壱岐で縄文スピなのか理解できませんでした。
邪馬台国(ヤマト連合)の時代では壱岐が一支国として記載されており、元寇の時にはモンゴル帝国による侵略を受けて大きな被害を被った島であり、そこがなぜ子宮系スピリチュアルの聖地と化してしまったのかが依然として不明です。
ただ、これを生殖器崇拝の一種としてとらえるのならば、女性の霊性に関わる問題にも通じてくるわけで、全否定することもできません。
日本の生殖器崇拝は、農耕社会における豊作や生命の誕生を祝う文化に根ざしています。
古代からのアニミズム信仰の中で、女性器は「生命の門」として神聖視され、出産の神秘や生命の根源としての力が尊ばれてきました。
このため、多くの神社や寺院で女性器を象徴する祭具や御神体が祀られ、安産や子宝、豊作などの祈願の対象とされてきたという経緯があるからです。
女性器崇拝は、出産や繁殖に対する祈りだけでなく、性そのものに対するポジティブな認識を育む役割も果たしています。
性に関するタブーを和らげ、性を生命の根源として尊重する文化が形成され、地域社会の絆や家庭の繁栄を支える重要な役割を担っています。
また、祭や儀式は地域のコミュニティを強化し、伝統文化の継承にも寄与しています。
このような祭の原型も時代を遡れば、縄文時代の女性の身体を模した土偶の存在のように、新しい命の誕生を願い、ひいては豊かな恵みをもたらしてくれる自然への祈りに通じるものであり、原始的な霊性の現代的な発展形と見ることもできます。
ところで、「子宮系」が女性たちに支持される理由として、以下のような要因が考えられます。
1.自尊感情の高まり……自身の身体を神聖視することで、女性が自分の価値を再認識し、自尊感情を高めることができる。
2.コミュニティの形成……スピリチュアル活動を通じて共通の価値観を持つコミュニティが形成されることで、孤独感や疎外感を和らげることができる。
3.現代社会のニーズ……女性が直面する社会的なストレスや役割に対する答えを提供することで、現代社会のニーズに応えている。
これに対し、批判的な意見としては、「子宮系」は科学的・医学的に根拠のない主張を含むため、特にネット上で批判されています。
また、高額なセミナーや資格取得を通じた商業化の側面も批判されています。
「子宮系」は、女性が直面する生きづらさや社会的な圧力に対する反応として理解することが重要です。
肯定的、否定的な意見を超えて、「子宮系」が現代の日本社会でどのように女性のスピリチュアリティに影響を与えているのかを検討する必要があります。
まとめ
「子宮系スピリチュアル」は、女性のスピリチュアリティの一形態として広まりつつあり、その背景には歴史的な「子宮」の扱い方の変遷があります。
現代日本社会において、女性が自分の身体を再認識し、自尊感情を高める手段として支持される一方で、批判的な意見も少なくありません。
どのような言説を展開するかは、それぞれの自由ですが、それが反社会的な動きにつながるとか、悪徳商法や詐欺につながるといった側面があるなら話は別になります。
霊性とは本来、物質主義や商業主義の対極にあるモノです。
もちろん、グッズなど物販などには経費がかかりますから何でも無償でというわけにはいかないでしょうが、精神的な満足を追求するのに消費をあおり、物欲を刺激するような行いは本末転倒です。
さらに、何のエビデンスも示さず医学的な知識体系を否定したり、陰謀論的な言説を流して人々を不安にさせるような行いも厳に慎むべきことです。
以前から指摘してきたように、スピ系ビジネスの過度の商業化の流れは、そういう意味でこれからも批判にさらされるでしょう。
それが犯罪につながるようなものになれば、スピ系=危険というレッテルをはられてイメージダウンもしますから、真面目に取り組んでいる人までもろに悪影響をかぶることになるのです。
今後は、「子宮系」の持つスピリチュアルな要素が、どのように女性の生き方や社会的な役割に影響を与えていくのか、さらに注意深く見ていく必要があります。
びゃっこ 拝
参考文献
橋迫 瑞穂 2019「子宮系」とそのゆくえ―現代日本社会における女性のスピリチュアリティ 応用社会学研究,61,147-160.
巫師麗月チャンネル
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