皆さま

 

当ブログでは、人のこころ=魂の領域について深層心理学からのアプローチも取り入れています。

 

無意識(潜在意識)というものには、個人の体験の枠を超越した人類全体、さらには生物全体にさえ普遍的な心の領域も含んでいます。しかも、これは個人の精神の本当の意味での基礎となるものです。

個人を超えた深層意識の内容そのものは、直接知る由もありません。ですが、それは神話やおとぎ話、妄想や夢、古代人の遺跡や遺物、先住民のものの考え方、そしてある種の神秘体験、宗教体験、超常体験を通じて、その存在を推定できるといいます。

 

このような主張は、スイスの精神医学者・心理学者カール・グスタフ・ユング(Jung,C.G.)分析心理学で展開されているものです。

 

今回は、ユングの心理学の観点から見た「深層意識の構造」について見ていきたいと思います。

 

よろしくお付き合いくださいませ。

 

 

 

ユングは精神病の患者が訴える妄想と大昔の神話の内容とが奇妙な一致を示している例をあげています。

ある患者が眼を細めながら窓の外に輝いている太陽に向かって、しきりに首を左右に振っている姿をユングは目にしました。

 

何をしているのかとたずねてみると、その患者は

 

「こうして目を細くして太陽を見つめると、太陽の「ペニス」が見えるのです。私が首を振ると太陽のペニスも動くのですが、あれが動くために「風」が吹くということに気がつきました。」

 

といいます。

このようなやりとりは、精神病患者のいだく妄想や幻覚の一種だとして片付けてしまうかもしれません。

でも、その後日談があるのです。

ユングはある日、ギリシャ時代の古文書を解説した本を読んでいました。その中にある神話の一節が載っていました。

 

太陽から「ありがたい筒」が下がっているのが見える。それが西に傾くと「東風」が吹き、東に傾くと「西風」が起こる。
 

ユングが出会った患者はギリシャ語がまったく読めないし、その解説書が出版されたのも患者が妄想を語った後のことです。

 

このため、患者がどこかでその神話について見聞していたとは考えにくいわけです。

ということは、何の手がかりもなく、古代の知識がその精神病患者の心に突然浮かび上がったのかもしれません。

 

ユングの心理学の特徴は、集合的無意識(collective unconscious)という概念を提唱していることにあります。

 

 

集合的無意識

個人の抑圧された願望や個人的な生活経験の記憶痕跡としての無意識のより深部にあって、人が生まれつきもっている、その人の家族、その人の所属する文化圏、そして人類一般に普遍的な「元型」から構成されている意識領域

 

 

元型とは何か?

 

ここで元型(archetype)という概念はユングの心理学における鍵概念です。

元型は怒り、憎しみ、恐怖、不安、愛情、愛着など人間がもっているありとあらゆる感情要素の源になっているもので、この元型を中心にしてさまざまな種類のコンプレックス(感情-イメージの複合体)が形成されています。

ユングの分析心理学では、太古の昔から人間は同じ元型的な心理構造をもっており、そこから古代の神話が生み出されたり、私たちの見る夢にも反映されると考えます。

いずれにしても、元型とは心(Psyche)が生み出す強い情動の基盤であり、人間のイマジネーションとインスピレーションの源として集合的無意識の中に存在しているものです。


ユングは自分自身の夢、神経症や精神病の患者の夢を分析していく作業を通じて、個人の人格を超えた何か別のものの存在を確信していきました。

とくに、ユングは個人が見る夢の内容とさまざまな文化圏に伝わっている神話やおとぎ話のストーリーとの間に共通する面がたくさんあることを見いだしており、人の無意識の中に太古の昔から言伝えられてきた神話的な要素が存在することに注目しました。

 

以下にいくつかの具体的な例を挙げて説明します。

1.影(Shadow)
 

影は、人間の暗黒面や隠された部分を表します。これはしばしばネガティブな感情や欲望、恐怖などを含みます。例えば、グリム童話の「ヘンゼルとグレーテル」のように、悪い魔女や邪悪な存在が登場し、主人公たちの内なる闇と対峙する場面があります。

2.内なる異性(アニマ/アニムス)


アニマは男性の無意識における女性的な側面を、アニムスは女性の無意識における男性的な側面を表します。例えば、ハンス・クリスチャン・アンデルセンの「人魚姫」では、人間の王子が海の人魚姫に恋をするというストーリーが描かれており、アニムスの元型が表現されています。

3.老賢者(Wise Old Man)

老賢者は、知恵や指導の象徴として現れる元型です。彼らはしばしば主人公に助言を与え、方向を示します。例えば、アーサー王伝説に登場する魔法使いマーリンやギリシャ神話に登場する予言者ティレシアスなどがこの元型の例です。

4.太母(Great Mother)

聖母は母性や豊穣、保護の象徴です。彼女はしばしば地母神や母なる自然として表現され、生命の源として崇拝されます。古代エジプトの女神イシスや、古代ギリシャの女神デメテルなどが、この元型の具体例です。


5.英雄(Hero)

英雄は、困難に立ち向かい、冒険に挑む勇気と力を象徴します。ギリシャ神話の「オデュッセウス」「ヘラクレス」、さらには現代の作品である「スター・ウォーズ」の主人公ルーク・スカイウォーカーなど、多くの神話や物語に英雄の元型が見られます。

 

6.自己性(Self)

自己性は、個々の全体性や統合された自己像を象徴します。これは完全性や内的な調和を追求する努力を表します。例えば、ヒンドゥー教の神シヴァ(Shiva)は、自己性の元型の一例です。 シヴァは宇宙全体の根源であり、あらゆるものの内側に存在するとされています。彼は万物の統合と調和を象徴し、全ての生命が一つであるという理念を表現します。一方で、シヴァは破壊の神としても知られていますが、その破壊は単なる終わりではなく、新たな創造の始まりを意味します。彼の破壊は新たな可能性と変化の源であり、生命の循環と再生を象徴しています。

 


このように、集合的無意識は人類の精神全体に共通するただ一つの無意識であり、個人の人格はその無意識の上に形成された1つの点に過ぎないということになります。さらに、集合的無意識には、特定の家族や家系の人々にだけ共有されている心の層、特定の民族にだけ共有されている心の層も含まれています。


夢に登場するさまざまなイメージにしても、その人の過去の個人的な経験に基づいて表れたものだけでなく、人類の種としての進化にともなって継承されてきた幾重にも積み重なっている無意識の記憶痕跡が表面化してくる場合もあるというわけです。

 

 

海底火山モデル


今からおよそ100年前に、ユングは人のパーソナリティに関する「地質学」の図式について言及しています。
 

これは「意識の海底火山モデル」とでも呼べるようなもので、私たち人間の個人的な意識のベースに宇宙始まって以来起こった出来事が「地層」のように堆積しており、その地層の表面に海底火山のように浮かび上がってきた「個人としての意識」が形成されているという比喩的な表現に基づいています。

 

個人の魂(Psyche)というものは、海面上に浮かび上がってきた火山にたとえられ、これは無常であり、消滅することもあれば、新たに浮かび上がってくるものもあります。

潜在意識の大部分は海中に没している状態で、自覚できにくいのですが、思い出そうと努力すれば夢やビジョン、イメージの形で象徴的に現れることもあります。

 


Shamdasani,S. (ed.) 2012 Introduction to Jungian Psychology: Notes of the seminar on analytical psychology given in 1925 by C.G.Jung.  N.J.: Princeton University Press. に基づいて再構成
 

この「意識の地層」を分類すると、一番深層の領域から

 

H……中心の炎(生命そのもの)⇒あらゆるものを創造し、焼き尽くし、浄化し、再生させる力の根元

G……あらゆる動物の祖先

F……原始的祖先に対応する意識の地層

E……大きな集団に対応する意識(例.ヨーロッパ人の意識)

D……国民に対応する意識の地層

C……血族的意識(血縁集団)の地層

B……家族的意識

A……個人の意識


という順に形成されて、「今生における自分」が現れているということになります。

 

潜在意識を深層意識と言い換えても良いのですが、ユング的な思想では無意識というモノを「暗くて深い森」にたとえることがあります。

崇高な意識=宇宙意識は「天上界にあるモノ」と言うよりも、地下世界の基盤、地球のコアを連想させるイメージが基調になっています。

 

以前紹介したアッサジョーリの精神統合理論では、潜在意識を上位無意識(超意識)と下位無意識(サブパーソナリティ)という垂直的な軸で分けて記述していましたが、ユングのいう集合的無意識は善や悪を超越した=善にも悪にもなりうる存在として万物の根底に拡がっている意識領域として描かれます。

ユングによれば、個人の自我や顕在意識は、海底火山の頂点にあるものです。

個人的無意識(個人的潜在意識)⇒コンプレックス、トラウマ、今生で経験した全ての出来事の記憶は、その下層に存在しています。

さらに、集合的無意識(集合意識)は、家族的無意識から始まって、動物の祖先(原初の地球に生まれた生命体までも含む)、あるいは生命の起源にまで及ぶ意識の層です。これらが個人的無意識の下に底在しています。

そして万物の奥底には「中心的な炎」または「生命そのもの」は、宇宙開闢以来の根底的意識として存在しているものです。

 

 

巫師の視点からのコメント

 

以上、ユングの心理学に基づく意識の構造について見てきました。そもそもユングの著作は人に分かってもらおうと思って書かれてはいないため、初学者には大変難解な文章の塊に見えることでしょう。

 

ユングの家系を見ると、母方が霊能者(霊媒体質)の家系で、彼自身もしばしば圧倒されるようなビジョンに悩まされ、いわゆる「見える聞こえる人」だったのです。

 

このことを考慮に入れてみれば、ユングの言おうとしたことがそれとなく分かってきます。

 

ユングのビジョンのオリジナルな特性としては「中心の火」(地球のコア~マントルから吹き上げてくるマグマ)が個人の潜在意識に直結していると考えます。

この根源的な力は集合的無意識のあらゆる層に行き渡っているでもあって、もしそのままにしておけば個人的無意識にも上ってきます。

中心の火は元型の全ての種類も含んでおり、私たちは元型に直接アクセスすることも可能となります。

また、それは共時性のような非因果的な事象(意味のある偶然の一致)も説明できます。

つまり、個人的無意識は全てを知っているわけであり、その意味において個人的無意識を介して私たちはこの宇宙におけるありとあらゆる情報にアクセスできることになります。

しかし、このことは宇宙規模の情報に個人の意識が必ず到達できるものであることを意味していません。

そこには、神なる自然、神なる宇宙をダイレクトに感得することを妨げている「障壁」(バリア)があることもまた意味しているのです。

 

なぜシャーマン型霊能者に「ご神託」や神様のイメージが現れ、一般の人々にそれが自覚できないのかという問題についてまとめます。

それは一つにはシャーマンには、集合的無意識あるいは深層意識にアクセスする際に生じる「バリア」を突破して、アカシックレコードのような「宇宙の記録」「宇宙の図書館」へのアクセスを容易にする遺伝的特性があるからです。

これには「意識の地層」に容易にアクセスできる能力も含まれます。

 

海底火山モデルでは、「海面の変動」の様子を描いておきましたが、シャーマン型霊能者の場合、意識状態を意図的に変化させることができ、その「海面」を下げていくことで深層意識に容易に到達できる資質・能力が生まれながらに備わっています。

 

シャーマンではなくても、生きとし生けるものは根源の宇宙意識と直結していることには変わりはありません。

 

ただ、一般の人間の場合、時に意識的自我が深層意識から湧き上がってくる情報をシャットアウト=抑圧しているから、なかなか自覚できないだけなのです。

 

この抑圧をどこまで解放できるかがポイントになります。

 

いきなり宇宙規模の意識に到達するのではなく、日本人として生まれ、育っているなら、日本人に共有されている特有の文化的、民族的な意識に触れていくアプローチもあります。

 

たとえば、日本の神話や昔話、古代遺跡、神社仏閣などに触れてみることで日本的な霊性の感覚が養われていくのです。

 

 

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