学生たちが、英霊の声の展示物で立ち止まり、先生が戦争中の日本を解説していると、私を見ている霊がある。その御仁は、日本陸軍の軍服を来ていた。私は、意図せず引き寄せられてしまう。

 

「三島先生!

 私を覚えていらっしゃいますか?

 磯部です」

 

「磯部大尉?なぜここに?」

 

全くの初対面だが、すぐに分かった。現世で会うはずは無い。久しぶりに会う兄、という面影があった。現世には兄は無いが、ここは魂の世界である。

 

「三島先生、貴方は自分を助けてくれました。

 ここのような場所で、英霊の資料館です。

 自分は亡霊になっていましたが、先生が救ってくれたのです。

 今度は、先生を御救いしたい。

 先生、ここに留まっていてはいけません。

 自分について来てください」

 

現世なら、こんな申し出はありえないから、無視することだろう、しかし、この御仁が、磯部大尉なのはよくわかるし、兄のような抱擁感がある。だが同時に、祖母のような、刺さり、を感じる

 

「磯部大尉、了解致しました。御同道致します。

 しかし、どちらへ参るのでしょう?」

 

「帝都へ!東京へ!

 三島先生を待っている者たちがあります。

 この来館者の方は、この後東京へ帰る予定です。

 この一団に紛れ込ませて貰えば、徳川様には見えません」

 

磯部大尉に即されて、先生と学生たちの陰に隠れるように身を寄せ、そのまま資料館の外に出た。目くらましなのだな、エントランスの前に陣取る侍は、私に気が付かなかった。祖母の気配もない。

霊の一群と磯部大尉、私は、ボックスカーに乗り込む。これ、全員乗れるのか?と思ったが、多少混み合うバス程度だ。それはそうだよね、霊の世界には物理量はない。重さも、長さも、時間もないのだから。あれ?猫が来ない、これはひょっとすると不味いのかも知れないな。磯部大尉は本物だと確信するが、正当な者ではないのだな。密かに悟性を強化する。

 

お天道様が隠れている、東京。昼でも夜でもない魔境を、磯部大尉と歩く。私の後ろには、数十体の軍人霊が続いていた。明らかに亡霊だ、参ったな。磯部氏は何を意図しているのだろうか。

 

「三島先生。この道は冥府の道ですが、

 東京の神域を結ぶ霊道です。現世の街の道に近づくと、

 魔物に攻撃される危険があります。

 三島先生はとても目立つ存在です。

 この霊たちは、靖国に上がれない亡霊ですが、

 三島先生を隠すにはちょうどいいのです」

 

どのくらい歩いたのか、さまよったと言っても良いのだが、

白壁の洋館に着いた。そこにも軍人たちが数十人いる。湖畔の家から連れてきた霊たちと合流すると、中隊となり、磯部大尉が指揮を取る形となった。彼らは、何を語るともなく、無表情にこちらを見ていた。全員の視線が私に注がれている。

 

「整列!頭中!こちらの方が、三島由紀夫先生です」

 

すると彼らは「良かった、良かった」と安堵の表情である。私は、霊たちの前に歩み出た。そこで気が付いた。この洋館は自宅、私の家だったのだ。磯部氏が言う、

 

「三島先生、自分たちは、先生が御帰りになるのを待って居ました。

 ご自宅前に待機しておれば、お会いできると信じていました」

 

「どういう事なのですか?」

 

「お判りになりませんか?

 先生は、我々の統領です。我々を救わなければならないのです。

 先生は、我々の力を借りて文学作品を現しました。

 魂と魂の交流が行われ、家族のような繋がりが出来ました。

 縁、というものです」

 

なるほど、霊界の義理、というわけだろうか?

それよりも、自宅である。見たところ、私が知る自宅とは変わりはない。だが、門扉に手をかけても、少しも動かない。閉ざされている。自分の家なのに入れない。死んでいる間に、他人の手に渡ったのだろうか?

困惑していると、奥から初老のスーツ姿の男性が現れた。私のことは知っている様で、物腰は温和であるが、厳しい口調で言う、

 

「三島先生。貴方はこの家にはお迎え出来ません。

 私は、お嬢様の夫の祖霊です。

 私は、子孫を、災厄が守らなければなりません。

 貴方と、貴方のお連れの皆さまは、亡霊です。

 そのような皆様方を、子孫の住居に入れることは出来ません。

 ご理解の程、よろしくお願いいたします」

 

婿殿のご先祖様は、そういって、深く頭を下げた。娘には会いたいが、ご先祖様に嫌われているのなら、仕方がない。私は、かなりへこんでしまった。それを感じたか、磯部氏がフォローしてくれた。

 

「夫の方は、国体に関わる職務にあたられています。

 万が一にでも、魔物に魅入られてしまうと、国益が損なわれます。

 我々が拒絶されても、ご先祖様として必要な対応です」

 

「なるほど、磯部大尉、

 私がこうなることを目論んだのですか?

 貴方は、魔物なのですか?」

 

そこでまた、記憶の塊が突き刺さり、分かってきたぞ。

私は、クーデターを仕掛けたのだ。

 

「社会を恨み、国を恨み、天皇を恨む、、、」

 

否、違う!

恨みは無い。義憤はあるが、恨んではいない。国を恨むなどあろうはずは無い。天皇を恨めるはずも無い。何なのだ、この想念は?私の意志ではないぞ。しっかりしろ、私の悟性!

私は、彼らに尋ねた。

 

「私はどうすれば良いのでしょう?

 私は、貴方方をお助けしたいのですが、

 何もできないと感じます」

 

「いいえ、三島先生。

 この世界では、霊位のある方が頭となります。

 先生は、我々の統領です。

 どうぞご命令を!」

 

私は、磯部大尉に共感し、彼らと自分の境地を重ねていた。しかし、実際は、彼らが私を求めていたということなのか?

現世で作品の資料を漁るうちに、磯部大尉を知り傾倒していったが、私は、自らの意志で大尉に向き合っていたと思っていたが、そうでは無かったのだ。大尉は悪霊ではないと感じるが、信じることも出来なくなった。霊の世界は深遠で、恐ろしいものがある。

 

「皆さんは、英霊です。

 ご実家に戻れないのなら、靖国に御願いすれば良いのでは?」

 

「三島先生、我々は、靖国へは入れません。

 神社の境内には入れないのです。

 靖国に迎えて頂ける者は、実家の後ろ立が必要なのです。

 家が途絶えていたり、疎遠で供養が充分でない者は

 受理されないのです。

 このままでは、本当の亡霊となり、

 永遠に東京を彷徨い歩く事になります

 ですから、我々の統領である三島先生の御帰りを

 お待ちしておりました」

 

彼らは、私がここに現れることを、一日千秋の思いで、何十年も待っていたそうだ。その気持ちは分かる。私も、英霊の手記に出会ったときに、同様の感覚があった。英霊というテーマは、私にとって、魂の渇望であったから。

 

「皆さん、靖国に向かいましょう。

 神様に頼みましょう。そうするしか無いです」

 

「いいえ、三島先生。そうではないのです。

 我々の行くべき所は、靖国ではないのです。

 理由は神様にしか分かりません。

 我々は、北一輝先生の元に参ぜよ、と命を受けています。

 しかし、北先生は何処を探してもお見掛けしない。

 日本中、北先生とご縁のあるところ、中華にも」

 

※ん??? 

私、知っているよ。北氏の居場所。アボ取ってみようか?

でも、会えるかどうか分かりません。田中侯爵という人物に匿われて居ます。お寺なので、上げてくれる(浄霊のこと、迷っている霊を寺社が預かること)と思います。北氏が出てこなくても、英霊さんは助けてくれますよ。

ムムム、こんな展開になるとは!

北氏は、ご家族と、茨城の某寺にひっそりと暮らしています。

私は、テロリストとやくざはきらいなので、スルーしていました。

そのお寺は隣町だったので、何度もお参りしていました。

お稲荷さんが祀られていて、北氏は、玉川稲荷と言われているそうです。

 

 

この続きは、「三島由紀夫の霊界レポート その2」で!