言わずと知れた、バレエの名作「白鳥の湖」。
昨日アップした、1877年版「白鳥の湖」のストーリーが、意外とバレエファンの間で話題でして(笑)
今では「愛すべきアホ」であるジークフリート王子のヤバさにハマってしまった方が続出😅
今回は、ジークフリート王子同様、19世紀に上演されていた「白鳥の湖」から、大きく変化を遂げたキャラクターをご紹介します。
それは、王子を騙す悪魔の娘オディール。
第3幕で、オディールが王子を誘惑する「黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ」は、このバレエの一番の見せ場といっても過言ではありません。
↓ナタリア・ドゥジンスカヤが、コンスタンチン・セルゲイエフと踊る超貴重映像
でも、実は、1895年にプティパが「白鳥の湖」を蘇演した際、このパ・ド・ドゥは、「黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ」ではなかったということをご存知でしょうか?
今では、「白鳥の湖」のヒロインは「白鳥オデット/黒鳥オディール」という役名ですが、当初は、オディールは「ロットバルトの娘」であり、魔女という設定でした。
実際、オディールの衣装は、ベースの色は黒というよりロイヤル・ブルーが採用され、表面は様々な色の光沢で飾られていました。
そして、鳥を彷彿とさせる羽根のモチーフは使用されていません。
↓St. Petersburg State Theater Library所蔵 オディールとロットバルトの衣装デザイン画
19世紀後半~20世紀初頭、帝政ロシアで上演された「白鳥の湖」のいずれのバージョンでも、オディールを「黒鳥」として描くことはなかったそうです。
あのマチルダ・クシェシンスカヤも「白鳥の湖」を踊っていますが、1901年のレビューでは、彼女が「エレガントな黒いドレス」を纏っていたと記述があるものの、羽根のモチーフがあったとは書かれていません。
↓タマラ・カルサヴィナのオディール。確かに衣装の色は「黒」より明るいですし、今ほど羽根のモチーフも見当たらず。
初めてオディールが「黒鳥」として登場したのは、1920年、ボリショイ劇場でゴルスキー版がリバイバルされた時だそう。
ここで、「白鳥ー黒鳥」の対比が生まれたのは、当時の時代背景が大きく影響しているのですが、そのお話は、また次回。
そして、西側諸国で、「オディール=黒鳥」というイメージが広まったのは、1941年のバレエ・リュスのアメリカ公演。
「The Magic Swan」というタイトルで上演され、オデット/オディールは、タマーラ・トゥマーノワが踊りました。
↓第2幕のみですが、トゥマーノワが踊る「白鳥の湖」は、短い映像が記録されています。
オデットがコーダで踊る振付、この頃から変わっていない!
当時、アメリカでは「白鳥の湖」といえば、第2幕があまりにも有名であったため、観客にオデットとオディールの区別を分かりやすくするため、トゥマーノワは黒い衣装でオディールを披露。
これがきっかけで、オディールを「黒鳥」とする呼称が広まったとされています。
↓トゥマーノワのオディールとされる写真
そして、オディールが元々は、「黒鳥」ではないという設定は、プティパの振付でもはっきりと表現されていたそうです。
オディールの振付には、「羽ばたき」を表す腕の動きは、含まれておらず、彼女が「オデットを真似する」のではなく、「魔術で王子を惑わせる」という設定でした。
アダージオの途中、窓の外にオデットが現れた後、オディールが白鳥を模倣するパートも、元の振付では、「オディールが王子を盲目にするように、目を覆う」という形で表現されています。
↓ラトマンスキーによるプティパ復刻版の映像でどうぞ。
オディールが、元々は、「黒鳥」ではないというのは、意外でしたが、「白と黒を間違える」より、「魔術で惑わされた」方が、ジークフリート王子の罪は軽いかも?(笑)
参考HP:
マリインスキー劇場のHP。貴重な衣装デザインやレジェンド達の写真が沢山!
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