バレエ「くるみ割り人形」にまつわる雑学をご紹介するシリーズ第2弾。

 

↓第1弾は、こちらから。ありがたいことに沢山の反響をいただきました。

 

今回は、「くるみ割り人形」後半の主役である、金平糖の精にまつわる雑学をご紹介します。

実は、初演では、金平糖の精のパ・ド・ドゥに、今ではほぼ観ることがない、ある魔法の仕掛けが施されていました。

 

 

こちらが、「くるみ割り人形」が初演された1892年の演出で撮影されたとされる写真です。

金平糖の精を演じるVarvara Nikitina(彼女は、「眠れる森の美女」のフロリナ王女の初演キャストでもあります)と、王子を演じるPavel Gerdt。

 

この写真に写っている薄い布地が、魔法の仕掛けの鍵。

ロシア語で「川」を意味する「reika」と呼ばれる仕掛けが床に施されており、布地の上でバランスをとる金平糖の精が、まるで舞台を滑るように見えるものです。

 

実際に、ご覧いただいた方が分かりやすいと思いますので、初演時の演出を再現した、ベルリン国立バレエの映像をどうぞ。

仕掛けが再現されているのは、5:10頃からです。

 

 

 

ただ、初演時の記録では、布地が実際に使われたかは、不確かな部分もあるようです。

というのも、先ほどの写真は、スタジオで撮影されたものであり、資料として保存された記録では、「王子にサポートされた金平糖の精が、アラベスクでバランスをとって移動する」ことは記されているものの、ショールについては触れられていないためです。

 

このスライド式の床を用いた仕掛けは、英国ロイヤルバレエで、ピーター・ライト版が1985年に初演された際も、用いられました。

この演出は、その後の再演では姿を消したため、もうロイヤルバレエの舞台で観ることはできません。

 

こちらのレスリー・コリアとアンソニー・ダウエル主演の映像は、仕掛けが用いられた様子が収録された貴重映像です。

仕掛けが登場するのは、4:40頃からです。

 

 
現在、世界中で上演されている「くるみ割り人形」で、恐らく唯一、この仕掛けが用いられているのは、ニューヨーク・シティ・バレエ団のバランシン版。
バランシンは、1892年の初演時に採用された仕掛けを、自身のプロダクションに取り入れました。
ショールは使用していませんが、記録にあるように、金平糖の精が、アラベスクでバランスをとる形になっています。

 

↓金平糖の精は、メーガン・フェアチャイルドです。

 

バランシン版の演出は、時空を超えて、1892年初演当時の観客と、同じ感動を現代へ届けてくれる貴重な記録でもあるのです。

テクニックに加え、舞台技術も向上していますから、映像処理で様々なことができるようになった今だからこそ、先人たちが作り出した舞台上の魔法に、改めて触れてみたい気もしませんか?

 

参考HP