3.11人工地震陰謀説論者への贈り物 その3 | PygmalionZのブログ

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3.11人工地震陰謀説を信じて止まない人が後を絶たないので参考にと書いてみた。人工地震陰謀説の方は、その方法論について以下の3つに分類出来る。

方法論1)HAARPと呼ばれる電磁波兵器によるもの。
方法論2)核兵器によるもの。
方法論3)原子水素による核融合反応によるもの。各方法論は全て突っ込みどころ満載で情報量も多いので、このブログでは3回に分けて方法論別に反論を示す。今回はその最終回。

【方法論3】原子水素による核融合反応原子水素による核融合反応を使用した人工地震説を唱える方の主張は以下の通り。

主張1)海水がマントルの高温高圧で核融合。大爆発を起こす。取りあえず科学掘削船「地球号」を使い地下10kmまで掘り進む。そこで核爆弾を使って爆発を起こすと地殻にひびが入りマントルまで達する。そこへ海水が流れ込み高温高圧により自然核融合→大爆発→大地震が起きる。

主張2)地中で起こるブラックライト・プロセスで核融合。大爆発を起こす。水が地中に深く染み込む場所では原子状水素が蓄積される。地中の原子状高圧水素ガスで「ブラックライト・プロセス」が始まれば、その発熱で太陽の中と同じ条件になり、水素の核融合→大爆発→大地震が起きる。科学掘削船「地球号」を使い地下10kmまで掘り進めば高圧でこの様な事が起きる。

では、以下にその反論を述べる。

【主張1】海水がマントルの高温高圧で核融合。大爆発を起こす。そもそも海洋底で20~50km、陸地で100km以上もあるプレートが核爆発で裂けて割れ目がマントルまで達することは考えにくいが、仮に貫通したとして話を進める。核融合を起こすには先ず海水の水分子から水素原子を取り出し、高温のプラズマ状態にする必要がある。プラズマとは高温のため原子中の原子核と電子が分離した状態。身近な例ではものを燃やしたときの炎がそれである。マントル上部の温度は1000℃程度。熱による核融合は最低でも1000万K(Kは約-273℃を0Kとする絶対温度、全ての分子が熱運動を停止する温度)が必要。地球内部にそのような高温の場所はない。そもそもマントル上部の温度で水分子がプラズマ化することすらない。水分子は水分子のまま存在する。核融合など起きるはずもない。因みに水素原子が核融合を起こしている太陽の中心部の温度は約1500万K。

【主張2】地中で起こるブラックライト・プロセスで核融合。大爆発を起こす。この説を主張する論者は技術ジャーナリスト山本寛氏の地震核融合説とその根拠となっているR.ミルズ博士(Dr. Randell L. Mills)のブラックライトプロセスなるものの関与を主張する。では山本氏の地震核融合説から見て行こう。彼の説によれば大陸プレートに沈み込む海洋プレートの上部は海水に由来する水が大量に存在する。この水の存在は地球科学的にも多くの研究で支持されている。この水の存在がマントルの溶融を促し、プレートの沈み込む領域での活発な火山活動の原動力となっていると考えられている。

山本氏は、この水が地中の鉄(Fe)に出会うと

3Fe + 4H2O → 8H・(原子状水素) + Fe3O4

なる反応を起こし原子状の水素が発生する(http://keizu-emu.blog.ocn.ne.jp/blog/files/yamamoto-hiroshi_kasetsu.pdf参照)としている。しかしながらプレートが沈み込んだ先のマントルや地殻中で鉄が金属状態で存在する事はなく、マントル中ではファヤライト(Fe2SiO4、マントルの主要構成鉱物であるカンラン石の構成物) 、地殻中ではヘマタイト(Fe2O3)やマグネタイト(Fe3O4)などの化合物として存在する。なぜならその方が化学的に安定だから。従ってこのような反応は起きない。

百歩譲って仮にこの反応が起きたと仮定しよう。ここで山本氏はブラックライトプロセスにより核融合が起きるとしている。

ではブラックライトプロセスとは何か?

ブラックライトプロセスは米国にある新エネルギー開発企業BlackLight Power社を率いるR.ミルズ博士(医学博士らしいが、後にMITでエネルギーで電気工学を学びエネルギーの研究者に転身している)が提唱する理論である。

博士の理論によると複数の水素原子に一定の条件で電気的エネルギーを与えると一部の水素原子が触媒として作用し、原子内の電子が水素原子の基底状態の1/nの電子軌道に落ち込み彼らがハイドリノと呼ぶ状態の水素原子を生じる。この過程で電気的エネルギーとブラックライト(EUV=Extreme Ultraviolet, 波長10~121nmの極紫外線)という電磁波エネルギーが発生し、これらを新エネルギーとして利用するらしい。因みに基底状態とは原子内の電子の持つ最低のエネルギー準位状態である。基底状態の原子に電気的エネルギーを加えると電子がより高い準位の軌道に移り(これを励起という)、励起状態から電子がよりエネルギー準位の低い軌道に落ち込む際に電磁波が放出される。電球が光る原理もこれである。

これまでの物理学では基底状態よりエネルギー準位の低い状態は存在しないとされていた。それを覆すとされる理論がブラックライトプロセスである。BlackLight Power社のホームページのTech/Theory Papersの下記のURLにはブラックライトプロセスに関する技術概要の説明があるので英語力と科学技術の知識に自身のある方はご一読いただきたい。
 Technical Presentation - Summery URL -> http://www.blacklightpower.com/presentations/SummaryTechPres.pdf

この文書内の「2H Catalyst Reaction」というセクションには、その反応過程の説明がある。ここでは2つの水素原子が触媒となり1つの水素原子がハイドリノに変化する過程を説明している。

山本氏は地震核融合説の根拠として「3つの原子状水素の存在→ブラックライトプロセス→核融合」と主張している。山本氏はミルズ博士のこの理論を根拠としていることから、「2H Catalyst Reaction」の過程で生まれたハイドリノが核融合反応を起こすと考えている事が推察できる。

この過程で生成されるハイドリノは電子のエネルギー準位が基底状態の1/3になっているのでその分、基底状態からの軌道半径の縮小が物理学的に予想される。しかしながらこの資料において、この過程で核融合反応が起きるという事は全く言及されていない。

ではなぜ山本氏はこので核融合が起きると考えたのだろうか?ここで登場するのがミューオン触媒核融合である。

ミューオンとは素粒子の一種で自然界においては宇宙から降り注ぐ宇宙線の一部として観測される。負電荷のミューオン(負ミューオン)は電子の約200倍の質量を持ち正電荷の水素原子核に拘束されてミューオニック水素原子を形成する。ミューオニック水素原子中の負ミューオンは通常の原子中の電子と同様に正電荷の原子核の周りの軌道を回るが、この軌道は電子の持つ軌道半径の約1/200となる。この負ミューオンは電子と同じ電荷を持つため軌道が電子の約1/200となったミューオンの負電荷の接近の影響で水素原子核(陽子)の見かけ上の電荷が下がる。このことにより見かけ上の原子核のクーロン力が低下し、通常の水素原子核より核融合を起こしやすくなる。

因みに核融合反応で一番の難関が正電荷を持つ原子核同士のクーロン力による反発。核融合の研究はこのクーロン力との闘い。ミューオニック水素原子の負ミューオンは水素原子核の見かけ上のクーロン力を低下させる事により核融合に対して触媒の様な働きをする。実験でもこのミューオン触媒核融合の反応は確かめられている。実用的にはミューオンの生成には粒子加速器が必要で大きな電力を必要とする。ただミューオンの生存期間は短いため1つのミューオンが300回ほど核融合に関与しないとエネルギー収支が合わないと言われているが、現状では150回程度。商業的に採算が合うには500回程度が必要で(Wikipediaより)。そのためミューオン触媒核融合はまだまだ実用には程遠いと言われている。

ここで話を元に戻す。山本氏はハイドリノの電子軌道半径が基底状態より小さくなる事からミューオン触媒核融合と同様の核融合が生じると考えたのだろう。しかし、これが論理の飛躍でありBlacklight Power社の資料でもこの反応における核融合反応について言及はない。このハイドリノが核融合の触媒として作用するのであれば新エネルギーを開発する企業が言及しないのは不自然。またブラックライトプロセス理論によると水素原子がブラックライトプロセスによるハイドリノ生成を行うには契機となる電気的エネルギーが必要であるが、山本氏の言う地中の高圧条件ということとは条件が異なる。

この様に山本氏の地震核融合説は複数の論理の飛躍の元に展開されており非科学的と言わざるをいない。山本氏の説を元に3.11人工地震陰謀説を唱える方は、このような論理の飛躍に気付かずに安易に他人の考えを正しいと考えている。

3.11人工地震陰謀説論者の皆さんへ。

ネットで聞きかじった情報と自分の拙い知識を常識と思い込まず、仮説を立て、調査研究し、そこから生まれた更なる疑問から仮説を組み直し、更に調査研究する。それを繰り返し、より真理に近付く。それが科学的思考です。

自分の考えに疑いを持てないのであれば自分の考えを科学的と思い込んではいけません。

人を疑う前に先ず自分を疑う。人の知識には限りがあり、だからこそ自分を疑いさらに深めていく。その心をお忘れないように。勿論私自身この反論が完璧とは全く思っていない。以前にご紹介した二つの方法論についての反論も含めてさらなる反論をお待ちしている。但し、科学的論拠を持った上での反論をお願いする。