3.11人工地震論者への贈り物 その2 | PygmalionZのブログ

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3.11人工地震陰謀説を信じて止まない人が後を絶たないので参考にと書いてみた。

人工地震陰謀説の方は、その方法論について以下の3つに分類出来る。

方法論1)HAARPと呼ばれる電磁波兵器によるもの。
方法論2)核兵器によるもの。
方法論3)原子水素による核融合反応によるもの。

各方法論は全て突っ込みどころ満載で情報量も多いので、このブログでは3回に分けて方法論別に反論を示す。今回はその二回目。

【方法論2】核兵器
核兵器を使用した人工地震説を唱える方の主張は以下の通り。

主張1)人工地震は存在する。

主張2)米軍は深さ10kmの地底で人工地震を発生させる技術を持っている。
その手口は、世界最強の掘削能力を誇る科学掘削船「地球号」(地球の内部探査を行う学術目的の船舶、日本製で日米が共同運用している詳細はWikipediaをご覧頂きたい)は2,500mの深海で7,500mまで掘削できる能力があり、米軍は地球号が掘削した後に潜水艦から核爆弾を投入して人工地震を引き起こしている。大きな地震の速報で10kmが多いのはこの為でその後何らかの外圧により訂正させられている。

主張3)米軍はバンカーバスターを使用して人工地震を起こしている。
米軍はバンカーバスターをという地中貫通弾を保有していて、これに核弾頭を搭載して何度も同じ目標に核攻撃を加えれば地下20kmでも30kmでも掘り進められる。大地震の後余震が多発するのはこの所為だ。

主張4)3.11は規模の割にビル倒壊などの被害が報道されておらずおかしい。
3.11は地震の規模がM9.0と大きいにもかかわらずビルの倒壊などの報道がほとんどなく、阪神・淡路大震災と比べるとおかしい。これは人工地震だからだ。

主張5)3.11の2日後の気象庁の発表は人工地震陰謀説を裏付けている。
3.11の2日後の気象庁の発表で気象庁は「今回の地震は3つの巨大な地震が連続して発生したもので、この様な地震が発生するのは極めて希。」と言っており「極めて希」という事は自然界ではあり得ないと言うことで、気象庁がうっかり暴露した。


これらについて以下に検証する。


【主張1人工地震は存在する。

これは紛れも無い事実である。しかしながら陰謀説論者の云うような目的ではない。人工地震と呼ばれるものには以下のものがある。

(1)学術目的の地殻構造解析の為の人工地震
地殻の構造を知る事は地殻の成因を知る手がかりになるとともに、地震の際に震源位置、深さ、震源の性質(正断層、逆断層、横ずれ断層、ずれの方向)などを精度良く決定する為に必要な情報である。
一般的なやり方は、ボーリングで穴を掘り、その穴の底にダイナマイトを仕掛けて爆破させ、人工地震を発生させる。そこに地震計を一直線上に複数ならべて地震波を観測する。地殻は地層などがある事からも分かる通り、密度の異なる地殻構成物質が層を成して存在する。地中を伝わる地震波は波(主にP波)なので密度の異なる層の境界面に出会うたびに屈折や反射を受けて進み、その様子を一直線上に並べた地震計で観測する事により地殻の構造を知ることが出来る。自然地震の場合、正確な発生時刻は地震計の観測結果から求められるが、人工地震の場合、予め発生時刻が分かっている為より正確に地殻構造を決定できる。
この人工地震の規模が大きい程、遠くまで地震波が届き、より深くより広範囲に地殻構造を知る事が可能だ。
核爆弾をこの人工地震の震源とすれば地殻ばかりでなくマントルなど地球のより深い場所の構造も解析ができる。しかしながらこの目的で核兵器が使われた事は無い。過去、国際地球観測年に向けて4個の核爆弾を使用して地球内部の構造を探ることが話し合われたという事実はあるが、倫理上の問題で実施されなかった。

(2)軍事目的の地下核実験による人工地震
核爆弾による人工地震、つまり地下核実験は包括的核実験禁止条約(CTBT)により原則禁止されている。米国も加盟国であるため地下核実験は出来ない。実際米国でも1993年以降実施されていない。
またCTBTには核実験を監視するCTBTOという組織が設置されており、爆発を伴う核実験を秘密裏に行う事はできない。


【主張2】米軍は深さ10kmの地底で人工地震を発生させる技術を持っている。

この論拠となっているのが世界最強の掘削能力を誇る科学掘削船「地球号」。確かにこの船は海面下10kmまでの掘削性能を持っている。だが問題は地球号ではない。3.11に発生した東北地方太平洋沖地震の震源の深さは24km。地球号の掘削性能限界を2倍以上も超えている。
震源の位置および深さを正確に計算するには、主張1(1)で説明した地殻構造解析をものとに作成される地殻構造モデルが必要である。このため正確な震源の計算には時間がかかるため、はじめはこのモデルを省いて複数点のP波とS波の到達時刻の差から計算される。この方法は精度が低いので深さは10km単位で発表される。さらにこの方法は観測点が震源から遠いほど精度が下がる。東北地方太平洋沖地震は陸地から130km離れており観測点は震源の西側に集中している。このため速報値が10km以上もずれていたとしても不思議ではない。
速報値に続いて地殻構造を考慮した暫定値が決定される。この値が24kmである。暫定値は多くの場合そのまま確定値となるが、大地震の場合は地殻構造モデルに修正を加えて確定値が計算されることもある。
この様に地震の震源の決定は単純な方程式で求められる物ではなく正しい地殻構造モデルが必要なため速報性を優先する気象庁の地震情報システムでは度々震源位置および深さが訂正される。巨大地震であればなおのことである。


【主張3】米軍はバンカーバスターを使用して人工地震を起こしている。

バンカーバスターとは地下壕や地下司令所などの地下にある施設や厚いコンクリートなどで保護された施設に対して地面や壁を貫通し、内部で爆発を起こさせるための特殊な爆弾である。米軍の保有するバンカーバスターGBU-28は地中貫通力30m、鉄筋コンクリートで6m。その後開発されたさらに強力なMOPでも鉄筋コンクリートで8m、中程度の岩盤40m。

しかもこれらは航空機からレーザー誘導やGPS誘導で地上目標を攻撃するように設計されていて潜水艦や船舶からは使えない。

百歩譲ってこれらバンカーバスターが水中で使用できると考えてみよう。東北地方太平洋沖地震の震源地の地殻構造は上側に地殻は北米プレートと呼ばれる花崗岩質の大陸地殻があり、下側に太平洋プレートと呼ばれる玄武岩質の地殻が沈み込んでいる。震源地の海底は大陸棚が海溝へ落ち込む傾斜地のため柔らかい海底堆積物はせいぜい数百mと言ったところであろう。震源に達するには、その下の花崗岩質を20km以上も掘り進む必要がある。MOPの中程度の岩盤40mは恐らく花崗岩を想定した性能と考えられるのでMOPを利用したとして40m進んでは核爆発を起こし、これを繰り返して20kmまで掘り進むとしても、その間に垂直方向に震源が移動する不思議な地震現象が観測されて前出のCTBTOが人工地震や放射性物質に直ぐに気付くだろう。それだけでなく当然日本の気象庁も気付くはず。まあ陰謀論者にしてみれば気象庁などは圧力をかければ簡単に押さえつけられるらしいが、CTBTOはロシアなどの米国を牽制したい勢力も参加しているので圧力をかけても無理だろう。陰謀論者は気付かれたら口封じすればいいと言うだろうが、ロシア相手に簡単に出来ることではないだろう。一部の陰謀論者は「福島第一原発の事故は核攻撃を隠す為のカムフラージュだ。」などと言うが原発事故では放射性物質の流出をカムフラージュできても核爆弾の爆発はカムフラージュ出来ない。


【主張43.11は規模の割にビル倒壊などの被害が報道されておらずおかしい。

我々が経験した最近の大きな地震と言えば3.11と阪神大震災。この二つを比較したがる気持ちは理解できる。しかしながら比較をするには2つの自称が比較に値するかどうかの検討を事前にすべきである。
阪神・淡路大震災は年を襲った直下型地震。つまり都市の直下にある断層がずれた事による地震である。これに対して3.11は陸地から130kmも離れた海底かで発生したプレート境界型海洋地震である。

直下型地震の場合、都市の直下で地震が発生するため震源で発生したあらゆる周波数の地震波がほぼ減水することなく都市の建物に襲いかかる。阪神・淡路大震災では神戸の街中を通る断層が破壊された。神戸の街の多くが震度7であった。これに対して3.11は最も近い牡鹿半島でも約130km、仙台までは180km程。仙台での震度は6強。沖合で起きた地震のため仙台の都市はある程度減衰された地震波に襲われたことと、阪神・淡路大震災の教訓により強化された耐震規制により地震そのものの被害は最小限に抑制された。

陰謀論者も言うとおり、3.11では津波さえなければ死者は殆どいなかったかもしれない。


【主張5】3.11の2日後の気象庁の発表は人工地震陰謀説を裏付けている。

これに至っては受け止め方の違いとしか言いようがない。
自然科学を学んだ者は「極めて希」という表現は、「確率は低いが可能性がある」場合に使う。あり得ない場合は「あり得ない」と言う。気象庁の会見も然り。

陰謀論者は人の言葉の揚げ足取りをして曲げて解釈する性質があるので「極めて希」=「あり得ない」となるのだろう。言葉尻を根拠に陰謀の証拠とするなど非科学的としか言いようがない。



次回は「方法論3)原子水素による核融合反応によるもの。」を予定です。