インターネットを使った調べ物は信頼できるか?その1
インターネットを使った調べ物は信頼できるか?その2
の続きです。
専門用語に適切な訳語を使用することは、特許翻訳では極めて重要なことです。たとえ自分の専門分野であっても、毎日のように知らない専門用語に出くわしますし、専門分野以外の場合はなおさらです。
もちろんそれぞれ専門用語辞書がありますから、特に1対1で対応する類の用語の場合は、訳語を見つけるのはそれほど難しくはありません。
専門用語辞書に載っていないような用語の場合は、中途半端な理解をせずに、素直に原語を併記して「自信なし」とコメントすべきです(翻訳を発注する立場(発明者)としては、この「中途半端」が最も困ります)。
問題なのは、専門辞書を引くと複数の候補があり、どの訳語を選択すればよいのか判断できない場合です。
例えば、バイオ分野を例にとって考えて見ましょう。以下の単語は、バイオ分野で専門用語として使われる場合、「結合する」という同一の訳語を当てはめることがほとんどです(もちろん例外はありますが)。
couple
bind
associate
conjugate
ところが、【日外の科学技術用語大辞典】には、以下のように複数の訳語が掲載されています。
couple
カップル〔電情〕;偶力〔機械,地球,基礎〕;結合する〔電情〕;交接する〔医生〕
bind
結び付ける〔電情〕;結ぶ〔医生〕;結合〔医生〕;拘束〔医生〕;設定する〔電情〕;束ねる〔医生〕;束縛する〔電情〕;包帯をする〔医生〕
associtate
関連させる〔医生〕;仲間〔医生〕;付随物〔医生〕;連合させる〔医生〕;連想させる〔医生〕;連想物〔その他〕
conjugate
共同の〔医生〕;共役〔その他,機械,地球,基礎〕;共役の〔医生〕;真結合線〔医生〕;複素共役〔基礎〕
いったいどれを選択したらよいか、見当も付きません。ですから、私はこの辞書が嫌いです。
もう少し専門分野を狭くした辞書【ライフサイエンス辞書】では、多少選びやすくなっています(用例も載っています)が、それでも複数の選択枝があります。
couple
共役する, 連関する, 結合する, カップルする
bind
結合する, 結びつける
associate
付随する, 会合する, 連合する, 関連する, 結合する
conjugate
抱合する, 接合する, 結合する
ある時、驚いたことに、これらの用語が「couple=共役する」「bind=結合する」「associate=会合する」「conjugate=抱合する」と、きれいに訳し分けされている特許明細書翻訳に出くわしたことがあります。
一生懸命に調べ物をした努力は認めます。それぞれの訳語は、確かにバイオ分野で(特殊な文脈でですが)使用されることがある「正しい」訳語です。
しかし、その明細書の文脈では、特許の範囲に関わる致命的な誤訳でした(全て「結合」と訳すべきでした)。
この翻訳者には2つの問題点があります。
1つは、日本語の「共役」「結合」「会合」「抱合」の理解が中途半端であること。
2つ目は、明細書の技術内容を十分に理解していないことです。
調査能力とは、調べ物が全てではありません。
確かに信頼できる情報源は宝物ですが、信頼できる情報源を探し当てることだけにとらわれるのは、場合によっては本末転倒かもしれません。
どれが正しい訳語なのかを判断できる「技術的な基礎体力」をつけることも怠ってはいけないと思います(特にバイオや化学の場合)。
こんな記事を書くと、暗い気持ちになってしまう人がいるかもしれませんが、この程度のことは、誰もが通る道です。私も偉そうにしてますが、人には言えないような失敗を色々としでかしています。それでも生き残っているのですから、前向きにいきましょう。
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