癌、なのだそうだ。

家系にはほとんどいなかったのだが、まあ随分と長生きしたしたので、確率的に誰にでも訪れる不運にとうとう突き当たってしまったのだろう。

 

手術で全摘できる場所だしやる意味のあるステージだけど、切らない、と先生は言う。

意思疎通ができないと、麻酔を使うような大掛かりな手術は万事危険が伴うし、どんなに上手くいこうが必ず体力を奪ってしまう。

余命を考えると、切る選択肢はない、のだそうだ。ついでに同様の理由で抗がん剤も放射線治療も却下。

 

幸いほとんど痛みを感じることはない箇所だそうで、現状ずっと夢の中にいるような状態だが、それがうんざりするような痛みと恐怖を伴う悪夢に代わるということもないらしい。

まあ、病状が進行すれば保証の限りではないらしいが。

 

もしかしたら、何としても手術して貰った方がいいのかもしれない。

でも、既に揺らめきかけている命の灯を、決定的に揺らしてしまうリスクを無視は出来ない。

おそらく正解なんてないのだろうが、決めるのはちょっとシンドイ。

 

ともかく、周りの人間が雁首揃え、いろんなものを秤にかけた結果、何もしないことに決まった。

 

手術しないことが決まったので、結構強引に病院を出た。

一月弱の入院生活だったが、びっくりする程手足がやせ細っている。

自分の口で(他人の手を使って)食べ、ただ起き上がって車いすに乗るだけの生活でも、寝たきりで点滴頼りな毎日よりははるかに健康的な生活なのだろう。

 

幸い、施設の方も受け入れてくれて、以前と変わることのない日常が再開した。

次に大きな出血でもあれば、もう戻れないだろう、日常。

ちょっと疲れるし、いつまで続くんだと思っていた日常だが、とうとう終わりが見えてしまったのかもしれない、、

 

、、この気持ちは、

なんだかなあ、なんなんだろ――

 

 ※

 

くぱっ、

と口が開いてご飯の続きを要求されて、うだうだした考えをぶった切られる。

 

まあ、きっと、

これまでも、これからも、

出来ることを、出来る範囲でやるしかないのだろう。