(なんだろ?)
何か物足りないような。
側道を通って幹線道路へ出る交差点には感知式の信号機があって、当然ながらほぼ赤信号で停まることになる。
三寒四温、季節は春に向かいつつあって、ぽつりぽつりと咲き始めていた菜の花が一気にその数を増やしてそこかしこで黄色の花を誇らしげに揺らせている。
(もうすぐ、桜だよなあ……、ああっ、そうか!)
はっと気づく、何が足りないのか分かった。
赤信号の脇、この季節、もう桜咲いたかぁ! って毎年一瞬騙される桃の花が無い。
何か妙にすっきりしてる、と思ったら、交差点の向かいのコーナーにある桃の木のあった畑がいつの間にやら小奇麗に雑草を刈り取られ、毎年見事な花を咲かせていた桃の木も切り倒されたのか、その姿がどこにもない。
おおかた世話をしていた方が無くなったか高齢になって、畑を維持できずに手放したか手放す予定なのだろう。
そういう土地は更地にされて、コンビニになるか、なかなか買い手のつかない売り土地の看板が立つか、或いは太陽光発電の黒いファランクスが陣取るかするのがここのところの我が田舎の常だった。
(なんだかなあ)
ちょっとばかりもの哀しい。
桜が満開になるにはやや早いこの時期に満開の濃い桃色の花にほんの一瞬だけ騙されると、いよいよ春も本番だったのに。
信号が青に変わる。
去年とは違ってしまった景色の中、僕はため息を一つだけついてから、アクセルを踏むと、それでも変わらずやって来る春へと走り出した。
