主は行ってしまった

今年もまた新しき季節の訪れを知らせる香りを送ったのに

主の住まわれる場所はあまりに遠く

主へ香を届けられないことが口惜しくて口惜しくて

 

 ※

 

 

 

主は行ってしまった

今年もまた満開の花を咲かせてその目を愉しませるつもりであったのに

今年もまた満開の花の下さんざめく宴が開かれるはずであったのに

主がもういないことが哀しくて哀しくて

 

 ※

 

 

主は行ってしまった

されど何も変わらない

今年もまた昨年より枝を伸ばし緑を拡げる

それなのにそれなのに口さがない者たちは桜や梅を見習えという

 

 ※

 

菅公が京を追われ遥か九州大宰府に流されてよりしばし

  梅は菅公を追って大宰府まで飛んで「飛梅」と呼ばれ

  哀れ桜は枯れ果てて

  松は菅公を追った梅を追いかけたが播磨で諦めた(追い松/老松)