青森県、湯ノ沢鉱山での採集 | なんだかんだの石集めと与太話

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鉱物を初めて手にしたのは、小学生の時。それからずっと中断。
2011年頃より、やっと暇になったので、また石の世界へと羽ばたき始めたけど。

 青森県にある湯ノ沢鉱山には、3度行ったことがある。最初に行ったときは碇ヶ関村内にあったが、今では産地表記が平川市となっていることがあって、どこなんだとふと戸惑うことが多い。湯ノ沢鉱山への案内は参考1のp248にある。地図に湯ノ沢温泉とあるが今はない。私が最後に訪れたのは2012年だ。
          

図1 青森・湯ノ沢鉱山の位置(国土地理院の地図引用)

   赤丸のところが湯ノ沢鉱山跡


 湯ノ沢鉱山の手前に、最初の2回の訪問時には秋元温泉が営業していたが、三回目(2012年11月)に行ったときは閉まっていた。手前に2軒宿があったようだが、最初の時には既に廃業し荒れるままになっていて、少し恐いと思ったものだが。秋元温泉のすぐ手前がバスが転回できるほどに広くなっていてバス停あり、温泉に入る客も来ていたが、最後に行ったときはバス停もなくなって温泉も廃業したようだった。
         
写真1 秋元温泉(廃業)

 廃業した秋元温泉から更に左手奥に進むと少し硫黄臭い道を進み、右側に水処理場がある場所に来る。秋津鉱山の鉱水を処理している施設で、水が銅イオンのせいでわずかに水色で、槽の底には水色の物質が沈澱している。消石灰を加えて沈澱させ、水処理をしているのだと思う。湯ノ沢鉱山跡はこの施設のそばを流れる川の反対側にある。最初に行ったときには崩れそうなのと水が滴り落ちていたのでかなり危険な感じで覗き込むだけにした。

         

写真2 湯ノ沢鉱山の跡

    左端に廃水処理場が一部見える。

         

写真3 廃水処理場の建物の横から眺めた湯ノ沢鉱山跡

  

写真4 廃水利処理場は、湯ノ沢鉱山とは違うのかな

   

写真5 湯ノ沢鉱山の後

  坑道の入口に井型に鉄パイプが見える。

         

写真6 湯ノ沢鉱山跡

    落ち葉でいっぱいで坑道がよく見えないが。

         

写真7 湯ノ沢鉱山跡

     今にも崩れそうな坑道がある崖
 

 川を渡って、抗口下で石を叩くと何か硫黄とは別な変な臭いがした。そこにはろくな物がなかった。湯ノ沢鉱山の抗口で石を叩いた後、秋元温泉を利用させて貰ったが、湯に浸かると手が真っ黒になってしまって洗えば洗うほど黒くなって困ったことがある。秋元温泉の建物横から奥の道は硫黄臭がするし、温泉も硫黄泉なので、手に付いた重金属のイオンが硫黄と結びついて手が黒くなったものだろう。


 2回目はその坑口下の崖には近づかず、近辺を見て歩くと水処理場横の道路脇に鉱脈が見られたので、そこを叩いて写真の黄鉄鉱重晶石グラトン鉱方鉛鉱を入手したのだ。津軽鉱らしい所は観察できなかったけれど、ヨルダン鉱ウルツ鉱はどこかについているかもしれない。

 

 以下は、ここで産出した鉱物です。恵与品、購入品なども含まれますが。

         

写真8 方鉛鉱

   微晶、美晶の方鉛鉱、1mm以下、八面体で。

         

写真9 津軽鉱、中央付近などの針状結晶。(無料頂き物)

   すぐ左隣の橙色のもこもこはウルツ鉱(ZnS)

 

         

写真10 重晶石、中央付近の六角板状の結晶など

         

写真11 黄鉄鉱 八面体の集合体で。

         

写真12 グラトン鉱、六角柱状。

 この試料では表面の大部分がガラス状なもので覆われている。

 3回目に訪ねたときは、その採集できた場所は道路工事で削られて見つけられなかった。湯ノ沢鉱山の奥には銅などを産出した秋津鉱山が在ったようなので、奥をあちこち見て回ったが、どこか解らず、結局収穫なく帰ってきた。

 湯ノ沢鉱山と言えば、なんと言っても津軽鉱だろう。世界で唯一、ここでしか産出していないのだから。グラトン鉱も日本では唯一の産地でもある。津軽鉱の生成メカニズムは、文献4に示されている。津軽鉱もグラトン鉱も、ヨルダン鉱が分解して方鉛鉱と一緒に析出したと結論されている。で、津軽鉱とグラトン鉱は共析しないと。

  Pb14As6S23(ヨルダン鉱) → 3Pb4As2S7(津軽鉱) + 2PbS(方鉛鉱)
  Pb14As6S23(ヨルダン鉱) → 3Pb9As4S15(グラトン鉱) + PbS(方鉛鉱)

 論文を読んで疑問に思うのは、方鉛鉱との関連を示すデータやヨルダン鉱分解の十分な説明がないことだが。

 青森県平川市(昔は碇ヶ関村)にある湯ノ沢鉱山では、津軽鉱が。これは世界でここでしか確認されていない。また、グラトン鉱は日本ではここでしか確認されていない。更に産出が希なウルツ鉱が出たことでも知られている。ウルツ鉱は、閃亜鉛鉱の同相異像、化学組成が同じで、結晶系が異なる鉱物だ。他にヨルダン鉱方鉛鉱黄鉄鉱重晶石などが報告されている。ヨルダン鉱も国内の産地が少ないので珍しいと言えば珍しいかな。

 

 注意として、湯ノ沢鉱山での採集は、崖に近づくと水が滴り落ちていて、坑道内は水が溜まり、今にも崩れそうで非常に危険です。立入禁止になっているので入らないようにお願いします。

1.松原聰,日本の鉱物,学習研究社(2003)
2.小林 暉子,地学研究,38,4/6,83-89(1989)
3.岡本 鑑吉,地学研究,35,1/6,151-152,(1984)
4.Shimizu, M. et al.: Tsugaruite, Pb4As2S7, a new mineral species from the Yunosawa mine, Aomori Prefecture, Japan. Mineral. Magazine, 62, 793-799. (1998)