リサイクルショップで入手した古いラジオを修理した。ネット上には先輩諸氏による多くの有用な情報があり大変参考になりました。感謝いたします。この修理はとりあえず鳴ればいい、というスタンスであり、美しく完全なレストアとは違いますが記録。

修理対象のラジオ、ナショナル製BX-715。2018年2月頃に埼玉県草加市のリサイクルショップで入手。5千円位だったような。



買った理由は電源コードがオリジナルのままで、背面の隙間から中を見たら完全に埃を被っていたから。


アンティーク雑貨目的で中を掃除したり、修理を試みたりされていないということで、ならば必要以上に破壊されていたり、部品が欠損していたりしないだろうと思ったので。(追記)後日発見した購入当時のメモによると価格は3980円。購入時、店員が埃を掃除機で吸い取ろうとしたので慌てて止めた、とあった(苦笑)。

裏蓋を開けた。6W-C5/UZ-6D6/6Z-DH3A/6Z-P1/KX-12FXの典型的なST管5球スーパーである。全体に埃が2〜3mm位降り積もっている感じ。スピーカーの手前の埃が一部飛んでいるのは、入手直後にそこに回路図が残っているかどうかを私が調べた跡。



内部に落ちていたシリアルナンバーのシール。音屋の家に来るべくして来た番号(笑)


同形機種を修理した方のページによると、昭和28年(1953)年頃発売で、BX-710と中身は同じ物らしい。710が普通に販売されたもので715は月賦販売専用機、つまりローンで購入されたもの。外見や型番で購入方法がわかるって今では考えられない仕様だ。

wikipediaによると1953年は朝鮮戦争休戦の年で、戦後日本が独立を回復して2年余、NHKが初のテレビ放送を行った年で、全国に雨後の筍のように民放ラジオ局が開局した年でもある。かの有名なラジオドラマ「君の名は」の放送が1952〜1954年で、史上空前のラジオブームの最中だったようだ。

松下電器 ラジオ製造・販売機種 年代別リスト(真空管ラジオのデータベース)
http://www.kyo.co.jp/~mikosa/history/national.htm
ナショナル BX-715(ラジオの館)
http://oomaguro.eco.coocan.jp/radio/radio125.htm
ナショナル BXー715 真空管ラジオの修理(ラジオ工房)
http://radio.eucaly.net/a/R/national-BX-715.html
日本のラジオの変遷と放送史の概要(戦後編)(1945-69)(日本ラジオ博物館)
http://www.japanradiomuseum.jp/intro2.html

大卒の初任給が9,000円の時代の12,500円ということは、現代の金額に換算すると25〜27万円位の感覚か。

■まずは分解清掃
この機種は周波数表示針部分(糸掛け駆動部)がシャーシと一体化しており、つまみを抜いてキャビネット底面のネジ3本を外すと楽にシャーシが取り出せて作業性が良い。スピーカーもナット4本を回せば内側に外れるので、キャビネットから機能部分を完全に取り出して作業ができる。




予想通り、埃を見る限り誰かが先に手を出した形跡無し。これだけ埃が積もるまで何十年かかるのか?


掃除機と刷毛とエアブロアーを使って埃を除去。真空管は中性洗剤と布で慎重に汚れを取った。



バリコンは下手に薬剤を使うと良くないそうなのでブロアーで入念に羽根の間の埃を吹き飛ばした。


キャビネットの内側も埃を除去して綺麗にはなったがくしゃみと鼻水が止まらない。古いもの独特の鼻につく匂いもきつい。




キャビネットに貼ってある回路図はちゃんと読める。半分剥がれているので剥がしてスキャンしたかったが破れそうなのでやめた。


糸掛けの方法についてのメモ。糸はわりかししっかりしていたのでそのまま使った。


本体下面に貼ってあった特許や新案番号の紙。この紙は埃に晒されていないので他の紙に比べて白さが残っている。


シャーシの裏側。部品を交換した形跡が無い。真空管にもペーパーコンデンサにも全部ナショナルのマークが付いているので、この機械の発売当初の姿のままなのだと思う。






■スピーカーと出力トランス
ST管時代のラジオはスピーカーの出力トランスのコイルが断線している場合がとても多いそうなので、最初に調べたらやっぱり断線している。スピーカーのコイルには導通があった。


コイルには高雄捲線工業所というメーカー名と、ORIENTAL ⑧ というブランド名?がある。前掲のページによるとこれは交換品だとか。確かにこのコイルにはナショナルのマークが無い。


覆い紙には判別が厳しいが"32.11??"のような文字が見える気がする。もしこれが年号なのであれば昭和33年頃に一度交換しているのかもしれない。だとすると当時であっても販売後わずか数年で断線していたということ?



この6P-53Hというマグネチックスピーカーは口径6.5インチ、インピーダンス3.2Ωなので、入力12kΩ:出力3Ωというトランスがあれば良いが、後日ラジオセンター1階の東栄変成器で購入できたのは入力7/10/12kΩ:出力4/8Ωのもの。

T-600/22K 1.5W
https://toei-trans.jp/?pid=91217203

元のトランスよりサイズが小さく、そのままでは付かない。


とりあえず修理用の仮スピーカー(8Ω)を接続。


■電源トランスの電圧を確認する


真空管をすべて抜いて通電の準備をする。電源コードの導通を調べたらACプラグ部分で断線、というか中で線が外れておりそのまま挿すとショートしかねない危険な状態だった。ヒーター回路とパラで点灯するパイロットランプも球切れ。しかしヒューズは健在。



もしかするとリサイクルショップでも一度コンセントにつないだかもしれないな。だが通電はしなかったはず。だとしたらこの機械にとっては幸運だったと思う。もし通電していたら下手すりゃ燃えていたと思うし、どのみち出力トランスが断線しているから音は出ず、出力管に負担がかかったはずである。ACプラグの配線を修正し、電源トランスの一次側に断線が無いこと、二次側にショートが無いことを確認し、真空管を抜いたままで通電。電源トランスの出力電圧を測定すると、ヒーター電圧7.04V、B電圧278V。無負荷なので妥当な値と判断。復活への第一関門を通過した。

つづく

真空管ラジオ ナショナル BX-715 修理記(2)
真空管ラジオ ナショナル BX-715 修理記(3)