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新作紹介 Vol.45 ■■チャレンジ・キッズ 未来に架ける子どもたち

spellbound  


チャレンジ・キッズ 未来に架ける子どもたち
■ Spellbound


監督 : ジェフリー・ブリッツ
出演 : ハリー・アルトマン、アンジェラ・アルニバル、テッド・ブリハム

○映画の評判
IMDb : 8.1/10
Yaho : B+
meta : 80/100
RoTo : 97%
(オスカー候補にも挙がった良質ドキュメンタリー)

○あらすじ
米国で80年の歴史を誇る〈全米スペル暗記大会=スペリング・ビー〉。9~15歳の子どもたちが難解な単語の綴りを競い合い、勝ち残るのはたった1人。99年の第72回大会で各地区予選を制し、ワシントンD.C.での決勝に進出した249名の中に、メキシコ移民の両親を持つアンジェラ、前年の雪辱に燃えるヌープル、クールなテッド、勝ち気なエミリー、シングルマザーの長女アシュレー、秀才のニール、内気なエイプリル、茶目っ気たっぷりのハリーの8人がいた。(goo映画より)

○管理人一言
これもマイケル・ムーア効果のひとつだろうか。近年のドキュメンタリー映画ブームに乗って、2003年アカデミー賞候補に挙がった本作が2年の月日を経て日本初公開にこぎつけた。「スーパーサイズ・ミー」「フォッグ・オブ・ウォー」とドキュメンタリー作品が続々輸入されているのは喜ばしいことで、この傾向がこの先もずっと続くことを祈りたい。この「チャレンジ・キッズ」は米国の意外な一面を垣間見るとともに、各家庭のドラマとしても楽しめそうなので個人的にはぜひともチェックしたい一本。


新作紹介 Vol.44 ■■ミリオンダラー・ベイビー

ミリオンダラーベイビー


ミリオンダラー・ベイビー
■ Million Dollar Baby


監督 : クリント・イーストウッド
出演 : クリント・イーストウッドヒラリー・スワンク 、モーガン・フリーマン

○映画の評判
IMDb : 8.4/10
Yaho : A
meta : 86/100
RoTo : 91%
(批評家も完全降伏させたオスカー受賞作)

○あらすじ
「自分を守れ」が信条の老トレーナー、フランキーは、23年来の付き合いとなる雑用係のスクラップと、昔ながらのジム、ヒット・ピットでボクサーを育成している。有望株のウィリーは、教え子を大事に思う余りタイトル戦を先延ばしにするフランキーにしびれを切らし、別のマネージャーの下へと去ってゆく。そんな折、フランキーの前に現れた女性ボクサー、マギー。マギーはフランキーの指導を乞うが、昔気質のフランキーは女のボクサーを認めようとしない。だが連日ジムに通い詰めるマギーの一本気さに、やがてフランキーの心も揺り動かされ始めるのだった。(goo映画より)

○管理人一言
当初は2005年公開を予定されていたものの、出来栄えのよさに配給のワーナーブラザースが翻意。急遽2004年に繰り上げ公開され、オスカーを目指すことになった。言わずもがな、この賭けは大成功となったわけだが、日本では約半年遅れでようやくお目見えとなる。前作「ミスティック・リバー」もオスカー候補となるなど老いてますます魅力を増しているイーストウッド作品。待たされただけのリターンは当然期待していいだろう。


「クローサー」 ★★★☆

closer

パトリック・マーバーの有名戯曲を巨匠マイク・ニコルズが映像化。ニコルズは前年に発表したTV映画「エンジェルス・イン・アメリカ」が好評で表舞台に返り咲き、本作でも手堅い演出が評価されて賞レースを賑わせた。

さてこの「クローサー」、基本的には4人の男女による痴情の縺れをご丁寧に描写した下世話な物語だ。小説家、医者、写真家、ストリッパーという絵に描いたような肩書きを持つ主人公たちが、恋愛感情という厄介なシロモノに支配されて右往左往する。いかにも映画的な脚色の加えられた恋愛物語という設定は、途端に安い昼メロに早変りしてもおかしくない。だがマーバーの脚本は、4人の主人公が繰り広げるついた離れたを描くことで人間の真理をつつこうという野心的なものだ。


映画は月日の移行が唐突で多少読解力を要するので、面食らう人も多いだろう。一部フラッシュバックを除いてほぼ時間軸に沿って展開する物語でありながら、シークエンス間の時間の経過を意図的に知らせない演出により、主人公たちは観客の前で突然の翻心を繰り返す。


オープニングでダン(ジュード・ロウ)とアリス(ナタリー・ポートマン)の出会いを丁寧に描いた後、何の説明もなく映画はダンとアンナ(ジュリア・ロバーツ)が惹かれあうシーンへと移行する。オープニングから第二幕までの時間経過をカットすることで、観客にダンの行動を説明づける要素を廃する狙いだ。甘いメロディに合わせて、互いの視線を感じながら雑踏の中歩みを進めるダンとアリス。スローモーションでやりすぎなほどベタな出会いを演出された二人だが、次の瞬間、男はもう他の女を口説いている。説明のつかないこの変わり身が与えるインパクトは大きく、ここで一気に物語りに惹きこまれる。映画のラストのような出会いを最初に持ってきて、早速二人の間の亀裂を見せる。わかりやすい演出だが効果は抜群だ。


また、ダンがアンナとの密会を重ねていた1年間も意図的に排除され、アンナとラリーの間に流れたであろう幸せの時期も全く描かれない。


恋愛はその過程で少しずつ姿を変えていくということは誰もが知っていることだが、マーバーの脚本はその過程をバッサリと切り捨てるという構成をとっている。これは、マーバーの興味の対象がカップルたちの恋愛関係の変化ではなく、その時々の個人の心理であることを示している。一見、ついた離れたの繰り返しをなめるだけに見える物語だが、実はそのこと自体にあまり意味はない。そのとき彼らが何を思い、どんな行動をとったかを描くことが映画の肝なのだ。


ここでいちいち例を挙げるつもりはないが、しかしまあ、男たちに向けるマーバーの視線は辛辣だ。幼稚でエゴイスティックな劇中の男たちの姿は真実には違いないのだが、マーバーの語り口には同性の恥をさらしてむしろほくそ笑んでいるような印象を受ける。開き直りというやつか。

それに比べると、女性たちに向ける視線はなんとも優しいものだ。アンナもアリスもバカな男たちに振り回される被害者で、真剣に愛を求める純粋な存在として描かれる。映画のキーパーソンとなるアリスにいたってはまさに天使の如き扱いで現実味に欠ける。たぶんアリスはバカな男たちに鉄槌をくだすのが主な役割で、名前に関するオチにしても、マーバーが女性に抱く神秘性を表しているように見える。


というわけでこれは、男性による男性の恥を描いた作品と位置づけるのがわかりやすいかもしれない。もっと深いテーマがあるのかもしれないが、そこまでは考えが及ばない。


4人の豪華共演が話題の作品でもあるので、それにも少し触れておく。
4人の中でもっとも痛快なパフォーマンスを見せてくれたのはクライヴ・オーウェンだが、一番頑張ったのはナタリー・ポートマンだった。まあ二人の役はそれぞれ映画のキーとなる役柄なので、役得の部分も大きい。
意外とよかったのはジュリア・ロバーツ。終始抑えた演技で他の3人を好サポートした。彼女がサポートにまわるなんて珍しいことなのでギャップでよく見えたということもあるだろう。ジュード・ロウは今地上でもっともセクシーな俳優と呼ばれているのに、情けない男がこうもハマるとは。冴えない新聞記者とスカした小説家の両方を違和感なく演じられるとは驚いた。認識を改めなくてはいけない。

4人とも総じて好演したが、これも巨匠ニコルズの存在によるところが大きいのだろう。ニコルズ自身の演出はオーソドックスで刺激に欠けるも、4人の好パフォーマンスを導いた手腕はさすがだ。


最後にひとつ怖い話を。
日本では2002年に同タイトルの香港映画が公開されたばかりだったため、当初配給会社は邦題を「ラブ・アフェア」としていた。これはレオ・マッケリーの「邂逅(めぐりあい)」(1939)の原題だが、カタカナにすると何と陳腐なことか。それこそ物語の下世話な部分だけを強調するタイトルで、映画の性格自体をミスリーディングしてしまう可能性があった。その後の好判断により危機は回避されたが、まったく恐ろしいことだ。

「ザ・インタープリター」 ★★☆

the interpreter

シドニー・ポラック監督によるスリラーといえば真っ先に「ザ・ファーム/法律事務所」を連想してしまうのだが、これがもう10年以上前の作品だという事実に眩暈がしそうになる。主演のトム・クルーズは相変わらず初々しいマスクでスター街道を歩んでいるし、ジーン・ハックマンやホリー・ハンターらも老け込むことなく第一線で活躍中だ。彼らの姿が今とあまり変らないせいで、映画が10歳以上も年を重ねていることに違和感を覚えてしまう。俳優たちの弛まぬ努力のなせる業だろう。

ただ、あの作品が今も古さを感じさせないかと言えばそうではなく、むしろ90年代初頭のあの頃でさえ、ややレトロなイメージを抱いたものだ。あれから10余年。ポラックが再び挑んだスリラーはあの頃と同じ匂いのする作品に仕上がった。「ザ・ファーム~」から10余年というインターバルが意外に思えたのは、実は両作品の間に時代の流れが感じられなかったからかもしれない。


物語の内容や舞台はまさに”旬”といえる新しさがある。世界の勢力図に大きな変化の兆しが窺える現代において、国連の意義や活動内容は関心の高いモチーフだ。その国連を舞台に選んだこと、そして映画史上初めて国連本部ビルでの撮影に成功したことは高く評価されていい。政治的な駆け引きをうまく取り入れた暗殺劇のカラクリも単純なプロットに厚みを与えている。これなら相当面白い作品が出来そうに思うのだが、残念ながらポラックはこの魅力的なコンテンツを十分に生かしきれていない


まず何より、スリラーと分類されるこの作品には圧倒的にスリルが欠如している。その最たる要因はポラックの緩い演出にある

主人公のシルヴィアが偶然ズワーニ大統領の暗殺計画を耳にしてしまうサスペンスフルなシーンも簡潔すぎる上にシーンのつなぎにモタつきがあってじれったい。切れかかった蛍光灯などスリルを盛り上げるための小道具の扱い方が淡白すぎるし、シルヴィアが何のピンチもなくビルから脱出できてしまうあたりも拍子抜けする。スリラーを称するならここは見せ場だろう、とツッこまずにはいられない。

また、シルヴィアが受ける数々の脅迫も実に中途半端。犯人は正体を明かす危険を冒してまで何をやりたいんだ?と疑問で頭がいっぱいになる。実際に命を狙われる段階になると、今度はシャワーカーテンを使ったミエミエのトリックで興醒めさせてくれる。マヌケと罵って仲間を殺した男が、監視付のターゲットの部屋に銃を構えて現れるあたりも相当にマヌケで脱力する。ご都合主義の最たるシーンだ。


それ以外のシーンでもポラックの演出には首を傾げたくなる部分がある。
まず全般を通してニコール・キッドマンが美しすぎるのはいただけない。ただでさえ美しいキッドマンが、この映画ではより一層美しく撮られている。透き通るような白い肌に青い瞳、それらを不自然に覆うブロンドの前髪など、劇中のキッドマンはまるでモデルのようだ。これじゃ収録中に自分用のライトをあてがってもらっている女性タレントの扱いと変らない。女優を美しく撮るのが監督の使命ではないはずなのだが、90年代以降、レッドフォードやハリソン・フォードをいかに若く見せるかに苦心してきたポラックは、映画のリアリティにはあまり興味がないように見える


その点で言えば、等身大の自分で役に取り組んだショーン・ペンは偉い。10年前ならレッドフォードが喜んで引き受けたであろうこの役を、彼ならではの泥臭さで”汚く”演じている。ただ、妻の裏切りと死に絶望しながらシルヴィアにも惹かれていくという複雑な心理を演じるには、今のペンは無骨すぎたようだ。お人形さんのようなキッドマンとの絡みはまるで噛みあわず、二人の恋愛感情を示唆するシーンには説得力がない。最初ニコリともしなかった彼が唐突にシルヴィアに心を許すあたりは、脚本の問題もあるが、ペンの表現力不足が足枷となってうまく説明できていない。バーで初めて笑みを見せるシーンのぎこちなさは不器用なペンそのままに見え、「ギター弾きの恋」で見せた軽妙な芝居は奇跡だったのかとさえ思えてくる。


などなど全体的にはお世辞にも上出来とは言えないレベルだが、いいところもある。国連本部ビルやニューヨークの街並みを俯瞰で捉えるショットを多用していい感じでスケール感を演出しているし、バス爆破の残骸を映し出すシーンはなかなか迫力があった。最初に触れたように暗殺劇のカラクリはよく練られているし、国連本部を舞台にした設定もそれなりに生かされている。


この題材は監督によって映画の性格がまったく変わってくるだろう。スケールの大きなアクション巨編にもなれば、政治色の強い作品にもなりうる。ポラックの場合、国連というモチーフに敬意は払いつつも、最終的には自分の庭であるメロドラマ路線に走ってしまった。スリラーという不得手の分野でポラックの手腕が鈍ったのは否定しようがなく、そこでの失点が得意のドラマパートにも影を落とす結果になった。


90年代以降のポラック作品は、いずれも80年代の栄華にとり憑かれたまま抜け出せずにいる時代錯誤的な匂いが感じ取れる。プロデュース業では相変わらず冴えを見せる彼が、監督作で途端に時代を逆行してしまうのは何故なのか。狙ってやっているのだとしたら、時代が再び彼と歩調を合わせる日が来るのを待つしかないのかもしれない。

カンヌ審査員長のE・クストリッツァ 「レベルは高くなかった」


◆◆ News ◆◆
第58回カンヌ映画祭で審査員長を務めたエミール・クストリッツァは、コンペ部門出品作品について「平均はそれほど高くなかったように思う。ほとんどの作品は、私の期待をほんの少し下まわっていた」と語ったらしい。(ロイター)

情報ソース Cinema Preview
◆◆


こんなこと言えるのはクストリッツァくらいのもの・・・。

しかしまあ、あたかもパルム・ドールに選んだ「The Child」にすら満足していないと言いたげなこの発言は、受賞者にとっても映画祭開催サイドにとってもあまり歓迎できるものではないわけで。思わぬ形で栄冠にミソをつけられてしまった受賞作たちだが、相手がクストリッツァでは泣き寝入りするしかないのか・・・。出品者たちにとっては、好みの作品は手放しで絶賛してくれる去年のタランティーノのような単純明快な審査員のほうが喜ばしいのかも。

順番からすると来年の審査員長はマイク・リーということになるが、この人も一筋縄ではいかなそう・・・。出品者は覚悟して臨んだほうがいいかもしれない。

カンヌ国際映画祭がアカデミー賞に与える影響は?

ダルデンヌ
↑ダルデンヌ兄弟

● パルム・ドール受賞「The Child」がアカデミー賞候補に挙がる確率は?

2005年カンヌ映画祭も盛況のうち閉幕。巨匠エミール・クストリッツァが審査員長を務めた今年のコンペは、昨年に負けず劣らずレベルの高い激戦となった。笑ってしまうほど大ハズレだった管理人の予想はおいといて、コンペ部門の受賞結果がアカデミー賞にもたらす影響を考察してみよう。

まずは見事パルム・ドールを受賞したベルギーの「The Child」について。監督のリュック&ジャン=ピエール・ダルデンヌ兄弟作品は1999年に「ロゼッタ」がパルム・ドールを受賞しており、今回で2度目の栄冠となる。カンヌ史上、パルム・ドールを2度受賞したのはエミール・クストリッツァ、今村昌平、フランシス・コッポラといった名だたる巨匠ばかりで、ダルデンヌ兄弟は今回の受賞で世界的な巨匠に上り詰めたと評価されることになるだろう。


性質的に水と油のような関係にあると見られているカンヌとアカデミー賞だが、近年はパルム・ドール受賞作がそのままオスカー候補というケースもそれほど珍しくなくなってきた。ここ15年のパルム・ドール受賞16作品(97年は2作)のうちアカデミー賞作品賞候補を受けたのは4作品となかなか確率が高い。しかも英語作品に限れば7分の4という高確率だ。もはやアカデミーがカンヌを理解しないという図式は昔のものとなりつつあると言っていいかもしれない。


ただそれでも、実際のところ、今回の受賞作「The Child」がアカデミー賞作品賞部門にノミネートされる確率は限りなくゼロに近い。おそらく年内の全米公開はなく、来年のオスカーにはベルギー代表として外国語映画賞を狙うことになるが、そこでも厳しい戦いが予想される。何故なら、英語作品が高確率でオスカー候補となる一方で、外国語作品は一度も作品賞ノミネートを受けていないばかりか、外国語映画賞の候補に挙がったのも93年の「さらば、わが愛/覇王別姫」以外にない。外国語作品の前に立ちはだかる壁は予想以上に高いと言えそうだ。


そんなわけで、仮にカンヌで高い評価を得たとしても、アカデミー賞で再び注目を集めるには英語作品であるという必要があるようだ。今年のカンヌで高い評価を得た英語作品は2つ。グランプリを受賞したジム・ジャームッシュの「Broken Flowers」と、男優賞、脚本賞を受賞した「The Three Burials of Melquiades Estrada」だ。


● ジャームッシュの新作は主演男優部門でチャンスあり?

ジャームッシュ
↑ジャームッシュ

ジャームッシュの「Broken Flowers」は公式上映後から地元批評家の賛辞に包まれパルム・ドールを期待する声が多かったが惜しくも落選。グランプリ受賞は残念賞のような意味合いが大きいように見える。現地での歓迎ぶりは「The Child」にも劣らなかっただけにパルム・ドール受賞と同等の評価が必要だろう。
ジャームッシュの作品はメインストリームから意図的に距離をとっているためアカデミーからは評価されにくく、これまで一度もオスカーで名前が挙がったことはない。それだけに今回は千載一遇のチャンスと言えるかもしれない。とはいえ、男が突然現れた子供の母親を突き止めるために過去に付き合った女たちのもとを訪れるというロードムービーは、短いエピソードを連ねるジャームッシュ独特の手法でこれまでのスタイルに大きな変化はない。作品賞に推すには規模も小さくスタジオからのプッシュも得られないだろう。チャンスがあるとすればビル・マーレイの主演男優賞、ジャームッシュ自身による脚本賞といったところか。


● オスカー俳優ジョーンズの華麗なる転身

カンヌでの評価はジャームッシュに一歩譲ったが、ことオスカー向きということになれば「The Three Burials~」に軍配が上がるかもしれない。この作品、一度は“TV映画向きに製作された”ことを理由に出品資格を取り消されたとの報道があったのだが、その後どういう経緯かコンペに復帰。見事、男優賞と脚本賞の二冠に輝いた。ギレルモ・アリアガによる重いテーマの物語は決してオスカー向きとは言えないが、オスカー俳優トミー・リー・ジョーンズの初監督作品という要素は大きなアピールになる。アカデミーは俳優出身の監督に甘い傾向にあり、ジョーンズのように実績ある俳優なら諸手を上げて歓迎されるのではないか。もっとも、今回の作品で有力なのはジョーンズの主演男優賞、アリアガの脚本賞といったところで、作品賞に推すには強調材料に乏しいのも確かだが。アメリカでも変らず高評価を受けることが出来れば、ジョーンズの監督賞も視野に入ってくるだろう。


● ハンナ・ラズロは面白い存在

他、面白いのは女優賞を受賞したハンナ・ラズロ。国際的には無名に近いイスラエル人ベテラン女優だが、共演は世界中で知名度の高いナタリー・ポートマン。昨年のオスカー候補、そして今年に入っても「シスの復讐」が好評と勢いのあるポートマンの力を借りて会員の注目を集められれば一発ある。すでに12月に全米公開も決まっており、オスカーを狙うには申し分ないバックアップ態勢が整っている。


監督賞受賞のミヒャエル・ハネケはいかにもカンヌ向きといった御仁でアカデミー賞とは縁遠い。彼の作品はオスカーには史劇が強すぎる内容で、評価も賛否真っ二つに割れそうだ。外国語映画賞部門でもまずは激戦区フランスで代表の座をかけての争いに勝たなければならず、道は険しい。


審査員賞受賞の「Shanghai Dreams」は現地での評価は今ひとつだった。いかにもアジア枠から一作選んでバランスをとったような跡が感じられるだけに過ぎた期待は禁物か。外国語映画賞部門でわずかなチャンスがあるのみだろう。


● 無冠組にもまだまだチャンスあり!

受賞を逃した組も決してオスカーへの道が断たれたわけではない。一昨年オスカー候補に挙がった「ミスティック・リバー」は高評価にも関わらずカンヌでは無冠に終わっている。今年注目されながら無冠に終わったアトム・エゴヤンの「Where the Truth Lies」も全米公開時に批評家の支持を得られれば十分に巻き返しは可能。ただし同作には過激な性描写が含まれるようで、アカデミー賞向きとは言えないかもしれない。


デヴィッド・クローネンバーグの「A History of Violence」現地のパルム・ドール予想アンケートで一番人気だったほど観客の人気が高かった。こういう作品のほうがアカデミー賞向きなのは間違いなく、カンヌでの無冠が逆に好材料と判断される可能性もある。ただ、クローネンバーグ自身はアカデミー賞と縁のない監督で、カナダ映画というハンデを覆すほどのパワーはないと見るのが妥当か。


ガス・ヴァン・サントの「Last Days」は現地でもっとも評判の良かった一本。今回同作が敬遠されたのはサントがわずか二年前に「エレファント」でパルム・ドールと監督賞をダブル受賞しているためで、無冠は作品の評価を落とすものではない。作品の規模、ジャンルからして作品賞候補はまずないが、マイケル・ピットの主演男優賞を始め、サントの監督賞、脚本賞でもチャンスはある。



監督賞
トミー・リー・ジョーンズ(The Three Burials~)・・・15%
ガス・ヴァン・サント(Last Days)・・・10%
ジム・ジャームッシュ(Broken Flowers)・・・5%


主演男優賞
トミー・リー・ジョーンズ(The Three Burials~)・・・30%
ビル・マーレイ(Broken Flowers)・・・25%
マイケル・ピット(Last Days)・・・10%


助演女優賞
ハンナ・ラズロ(Free Zone)・・・25%


脚本賞
ギレルモ・アリアガ(The Three Burials~)・・・25%
ジム・ジャームッシュ(Broken Flowers)・・・15%
ガス・ヴァン・サント(Last Days)・・・10%


外国語映画賞
「The Child」(ベルギー)・・・10%
「Shanghai Dreams」(中国)・・・5%
「Hidden」(フランス)・・・5%

5/20 - 5/22 全米BoxOfficeリポート

ep31

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◇ 「5/20 - 5/22 全米BoxOfficeリポート」
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◆◆◆ チャート・アクション


1. スター・ウォーズ シスの復讐
2. Monster-in-Law
3. Kicking and Screaming
4. Crash
5. ダニー・ザ・ドッグ
6. キングダム・オブ・ヘブン
7. 蝋人形の館
8. ザ・インタープリター
9. 銀河ヒッチハイク・ガイド
10. Mindhunters


真打登場でいよいよ本当の意味でサマーシーズンの幕開けだ。
「キングダム・オブ・ヘヴン」「Monster-In-Law」と夏興行を飾るにはパッとしないオープニングの作品が続いたが、全ては"嵐の前の静けさ"というやつで、今週の大爆発を演出する引き立て役に過ぎなかったようだ。


全米中、いや世界中のスター・ウォーズ・ファンが待ち焦がれたXデイは19日の木曜日。会社を欠勤して映画館の前に列をなす社会人がニュースで報道されるなど社会現象を巻き起こした。その結果、Weekdayにも関わらず初日だけで5000万ドルを超える興収を記録した。これは1日あたりの興収としては「シュレック2」の持つ4400万ドルを抜き、史上最高の記録となった。
同じように社会現象と騒がれたEP1の初日興収が2800万ドルだったことと比較すれば、今回の数字がどれほど驚異的なものかわかるというものだ。


さらに、続く金土日のいわゆるオープニング3daysにも勢いは衰えることを知らず、計1億800万ドルの興収を稼ぎ出した。これは「スパイダーマン」の1億1400万ドルには届かないものの、同作が金曜初日だったことを考えればEP3の優位は推して知るべしだ。
また、週末3日間でほぼ同等の興収をあげた「シュレック2」との比較においても、EP3より約500館多い4163館でリリースされた同作よりはるかに優れた興行を展開していると言える。


公開よりわずか4日間で早くも1億5000万ドルを突破したEP3。期待されるは当然EP1の4億3000万ドル超えとなる。EP1をはるかに超える爆発的スタートを切っただけに早くもEP1超えを予測する楽観的な見方もあるが、この数字はそれほど簡単に塗り替えられるものでもないだろう。


今週はほぼ映画市場を独占する形となったが、来週からは早くも他配給会社たちが強力なライバル作品を投入してくる。特に、6月に封切を控える超大作「宇宙戦争」へのアシストとして早めにEP3の勢いを経ちたいドリーム・ワークスは、ファミリー層に圧倒的なシェアを誇るCGアニメでEP3追撃にかかる。興収4億ドルにはあらゆる層の支持が不可欠なだけに、早い段階でファミリー層の支持を失うことは致命的だ。次週、ドリーム・ワークスの放つ刺客に対し、EP3がどこまで横綱相撲を展開できるかが今後の命運を握ると言っても過言ではない。

もしも次週、相変わらず圧倒的な強さで1位に君臨し続けられれば、EP1超えはかなり有望と見ていい。逆に、万が一1位を明け渡すような事態になれば、その数字に関わらず、EP1超えはまず不可能と言っていいだろう。


次週の結果に要注目だ。



◆◆◆ ニュー・リリース


◇ スター・ウォーズ シスの復讐
オスカー期待値:★★★★★★
批評家の反応も上々で、とても1,2作目と同じシリーズとは思えないほど。シリーズを包括した評価で作品賞候補との声もあるが、EP1,2を評価対象に加えられたら逆効果だろう。会員たちがどれだけこの作品を単体で評価してくれるかに懸かっている。
視覚効果部門でのノミネートは確実。美術、衣装、作曲などの部門も有力だろう。主要部門候補へ望みをつなぐには、興収でEP1超えが必須となる。


注) オスカー期待値は★10個での評価となります。



◆◆◆ 次週リリース


さて次週。
ドリーム・ワークスが送るCGアニメ「マダガスカル」が昨年の「シュレック2」の再現を狙う。3700館を超えるスタートはEP3のそれを上回り、本気でEP3を潰しにかかっていることは明らか。CGアニメは今やもっとも信頼の置けるブランドだけにファミリー層が食いつくのは間違いなさそうで、EP3のファン層とは全く別の層を根こそぎかっさらう可能性もある。


EP3に襲い掛かるのはドリーム・ワークスのCGアニメだけではない。
3500館以上での拡大公開が予想されるのはアダム・サンドラー主演のコメディ「The Longest Yard」サンドラーはファンが期待する類の作品に主演すると無類の強さを発揮するだけに軽視は禁物。EP3効果による好景気を受けて思わぬビッグオープニングも期待される。


EP3が凌ぐか、CGアニメ・ブランドが威力を発揮するか、サンドラー人気が大物食いなるか。次週のBoxOfficeは熱い。

新作紹介 Vol.43 ■■炎のメモリアル

ladder 49     


炎のメモリアル
■ Ladder 49


監督 : ジェイ・ラッセル
出演 : ホアキン・フェニックスジョン・トラボルタジャシンダ・バレット


○映画の評判
IMDb : 6.5/10
Yaho : B-
meta : 47/100
RoTo : 43%
(批評家受けはイマイチも観客には人気)

○あらすじ
新米消防士のジョン(ホアキン・フェニックス)は、先輩からの強烈な“洗礼”を受け、ボルティモア消防署に温かく迎え入れられる。消火活動にあたるポンプ隊に配属されたジョンは、まもなく署長のマイク(ジョン・トラボルタ)の指導の元、初出動を向かえる。使命感に燃え、誇りをもって仕事に打ち込むジョンは、やがて街で一目ボレした女性を妻に向かえ、私生活でも順風満帆。しかし、消防士の仕事には辛い出来事も待ち受けていた。(goo映画より)

○管理人一言
消防士を主人公にしたドラマというと真っ先に浮かぶのがロン・ハワード監督の「バックドラフト」。日本でも大ヒットした同作に続きたい本作だが、トレイラーや邦題から察するに日本の配給会社は感動ドラマ路線でこの作品を売っていきたい意向のようだ。本国アメリカで批評家受けしなかった原因はまさにそのあたりのウェットな展開にあると思われ、日本での興行の行方に興味津々だ。

新作紹介 Vol.42 ■■ザ・インタープリター

   the interpreter


ザ・インタープリター
■ The Interpreter


監督 : シドニー・ポラック  
出演 : ニコール・キッドマンショーン・ペンキャサリン・キーナー


○映画の評判
IMDb : 6.6/10
Yaho : B
meta : 62/100
RoTo : 60%
(90年代以降のポラック作品では一番の評価)

○あらすじ
アフリカのマトボ共和国。独裁的な大統領ズワーニが治めるこの国では、民主化を目指す多くの活動家の命が奪われていた。マトボ生まれのシルヴィア・ブルームは、ニューヨークの国連本部で通訳として働いていた。ある日、彼女はズワーニの暗殺を企てる会話を偶然聞いてしまう。すぐ当局に通報したシルヴィアだが、身辺に不穏な動きを感じるようになり、恐怖に震える。彼女の安全を守るためシークレット・サービスがつくようになる。しかし、その中の一人ケラーは、シルヴィア自身が共謀者ではないかと疑い始める。(goo映画より)

○管理人一言
輝かしいフィルモグラフィを誇る巨匠シドニー・ポラックの最新作。このところ冴えない作品を連発していたポラックだが本作で見事な復活を遂げる。ニコール・キッドマン、ショーン・ペンという両オスカー俳優を起用して作り上げた本格的なスリラーはやや時代錯誤的なアプローチは見られるものの、大筋は素晴らしい出来と評判。巨匠のネームバリューを駆使して映画史上初めて国連本部内での撮影許可をとりつけたニュースも話題を呼んだ。見所多く、ぜひ劇場でチェックしておきたい一本だ。

新作紹介 Vol.41 ■■クローサー

  closer


クローサー
■ Closer


監督 : マイク・ニコルズ
出演 : ジュリア・ロバーツジュード・ロウナタリー・ポートマン 、クライヴ・オーウェン


○映画の評判
IMDb : 7.2/10
Yaho : B
meta : 65/100
RoTo : 68%
(演技部門を中心に映画賞でも活躍)

○あらすじ
通勤者であふれる朝のロンドン。新聞記者のダンは、車と接触事故を起こした女性を助ける。彼女の名はアリス。ニューヨークでストリッパーをしていたアリスは、その日ロンドンに着いたばかりだった。2人は恋に落ち、同じ部屋で暮らし始める…。1年後。処女小説の出版を控えたダンは、アンナという女性写真家に一目惚れする。アンナは恋人のいるダンを拒むが、ダンの心の揺れはアリスに見抜かれていた。一方、アンナはダンの悪ふざけがもとで医師のラリーと出会い、結婚するが…。それぞれの愛は、やがて運命的に交錯してゆく。(goo映画より)

○管理人一言
TVミニシリーズ「エンジェルス・イン・アメリカ」で鮮烈なカムバックを果たした巨匠マイク・ニコルズ。久々のスクリーン監督作となる本作では二組のカップルによる愛憎劇という新たな境地にチャレンジしている。オリジナルはイギリスで上演されていた舞台劇で、ジュード・ロウ演じるダン役を舞台ではクライヴ・オーウェンが演じていたようだ。何といっても見所は4人のスターによる演技合戦。ニコルズ演出のもと4人がどんなコラボレーションを見せてくれるのか楽しみだ。