まさか、
鍵穴が、人間にあるなんて、
思わなかったです。
お姉さんは、
スカートも、パンティーも脱いで、
仰向けに寝て、
ちょっと、膝を立てています。
僕は、
お姉さんの膝を開いて、
僕の鍵を、
その奥の鍵穴に、
差し込みます。
ところが、
入らないんです。
「・・・・違いますね」
お姉さんが、
顔を持ち上げます。
「違うって?」
「鍵が入らないんです」
「いきなり、
入れようとするからでしょ?」
「え?
いきなり、
入れちゃダメなんですか?」
お姉さんが、
両肘で、上半身を持ち上げます。
「・・・濡らしてくれなきゃ」
「濡らす?
鍵穴を、ですか?」
「本当に、入れたことないのね?」
お姉さんは、
斜視で、左斜め上を見ています。
不思議なんですけど、
そうやって、
僕が、見られないでいると、
空間が、
違ってくるんです。
空間って、
この現実のことですよね?
でも、
それって、
他人(ひと)が、
見ていた空間だったんです。
つまり、
現実って、
他人(ひと)が見ているものでした。
鏡に映さないと、
自分が見えないのと、同じです。
「じゃ、
今、水を持って来ます」
「なんで、水を持って来るの?」
「だって、
濡らせって言ったじゃないですか?」
お姉さんが、
左斜め上を、
じっと見つめます。
「・・・・・私と、キスするの、嫌(いや)?」
「濡らさなくても、いいんですか?」
「キスすると、濡れるのよ・・・・たぶん」
「鍵穴が?」
お姉さんが、
左斜め上を見上げながら、
うなずきます。
よく、
わからなかったんですけど、
お姉さんに、キスします。
「・・・・・・ありがとう。
キスなんて、
一生できないと思っていたの」
「ちょっと、聞いてもいいですか?」
「何?」
「ドアを開けるとき、
自分を開ける気持ちがするって、
言ったじゃないですか?
僕とキスしても、
自分とキスするって感じなんですか?」
「まさか。
・・・・でも、
あなたが感じているものとは、
違うと思う」
「どんなふうに?」
「・・・・もう1回、してくれる?」
それで、
もう1回、キスします。
お姉さんが、
斜視の目から、涙をこぼします。
「・・・・他人(ひと)の目って、
厳しいのよ。
だから、
現実って、厳しいの。
それで、
自分を閉ざしているの。
守るためよ。
でも、
あなたは、やさしい。
あなたなら、
私を開(ひら)けるかも・・・」
「僕も、
お姉さんといると、
自分を開(ひら)けるような
気持ちがするんです」
「私と、いると?」
「現実って、
他人(ひと)に、どう見られるか
じゃないですか?
見苦しいとか、
恥ずかしいとか、
全部、
他人(ひと)の目でしょ?
たとえば、
生活できなくて、
1番、
恥ずかしいのは、
他人(ひと)から、どう見られるかでしょ?
だから、
現実だと思えば、思うほど、
厳しくなる。
自分らしく見ることが、
できなくなるから。
どう思うか、
なんて、僕の自由なのに」
「私のことも、
みんなが見ているようには、
見ないでくれるってこと?」
「現実を開くって、
そういうことかもしれないです」
お姉さんが、
唇を開いて、声を出します。
「あっ・・」
「どうしました?」
「・・・濡れたかもしれない」
「鍵穴が、ですか?」
「入れてみてくれる?」
僕の鍵を、
お姉さんの鍵穴に、差し込んでみます。
すると、今度は、入ったんです。
「・・・入りました」
お姉さんが、
僕を抱き寄せます。
「私を開(ひら)いてくれる?」
でも、
きっと、開かれるのは、
僕の方です。
僕の現実です。
the end
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