私、
彼の顔を知らないんです。
ベッドで、
一緒に寝ているのに、です。
彼も、
私が、どんな顔をしているのか、
知りません。
私たち、
満員電車で、揉まれているうち、
背中と背中とが、
くっついちゃったんです。
今日1日、
なんとか、背中を離そうとして、
私の部屋で、
まるで運動会みたいなことをしていました。
一緒に、
何度も、転びました。
それでも、
お互い、顔を知らないんです。
くっついているのに、
顔を知らないって、
不思議ですよ?
「もしかして、
私たちも、言葉なの?」
彼は、
大学生で、
哲学を勉強しているんですけど、
物は言葉だって言うんです。
「僕らは、
この身体だって、思っていますけど、
上の次元の存在たちには、
僕らが身体には、見えません。
言葉にしか見えないんです」
「私たちが、
背中あわせにくっついちゃっているのも、
そうは、
見えないってこと?」
「意味として、見えるんです」
「意味として?」
「何を言っているかは、
わかるんです。
でも、
物には見えません」
物が、
物には見えないなんてことが、
あるんでしょうか?
「私たちが、
背中あわせにくっついちゃっているのも、
意味に見えるの?」
「見えていると思います」
「どんな意味なの?」
「そうですねぇ・・・・
本来なら、
あなたは、僕の前にいて、
僕は、
あなたの前にいるじゃないですか?」
「背中あわせに、
会う人はいないものね」
「でも、
今、僕らが見ている世界には、
僕らは、いませんよね?」
「見えないからね」
「だったら、
僕らは、
僕らの心の中にいるってことですよね?」
「はぁ?
どういうこと?」
「僕らって、
普段、
自分って、見えていないですよね?
僕らがいるのは、
他人(ひと)が見ている世界です。
つまり、
自分がいるのは、
他人(ひと)が見ている世界の中なんです」
「そうなの?」
「僕が、今、見ている世界に、
あなたが、いないのは、
あなたの心の世界です。
だって、
あなたには、
あなたが見えていないはずですから」
「鏡を見ても?」
「鏡に映るのも、
他人(ひと)が見ているあなたです」
「そうなのかなぁ・・」
でも、
たしかに、
私って、直接には、
私を見たことがないんですよね。
「同じように、
あなたが、今、見ている世界に、
僕が、いないのは、
僕の心の世界です。
つまり、
僕らは、
今、お互いの心を共有しているんです。
ひとつの心になっているんです」
よく、わからないんですけど、
ひとつの心になっているって言われると、
なんか、
安心するんですよね。
ー つづく ー
あなたが見ている世界って、
あなたの心の世界です![]()
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