彼女、
影が好きなんです。
色んな影の写真を撮っています。
その中でも、
僕の影が最高らしいんです。
僕の影を、
惚れ惚れ(ほれぼれ)と
見つめます。
土手の芝生の上にできた
ただの影です。
「たぶん、
向きが違うんだと思う」
「その向きって、
太陽が、
どこにあるかじゃないんですか?
だったら、
僕じゃなくて、太陽でしょ?」
太陽の位置によって、
できる影の向きです。
「太陽じゃないと思う」
「僕には、
あっちに影を置こうとしても、
置けないけど?」
「たとえば、
あなたの影って、
この葉っぱの影に似てない?」
僕に、カメラを覗かせます。
地面に、
木の葉の影が映っています。
「葉っぱの影に
似ているって?
どういうこと?」
急に、
軽んじられたような
気分になります。
僕の影が最高って
言われて、
実は、
喜んでいたのかもしれないです。
「あなたの影の方が、
もっといいけど」
「葉っぱと較べて、ですよね?」
「スズメの写真も、
あったと思うけど・・・」
「スズメと、
較べるんですか?」
「あっ、アリの写真もあるの。
見る?」
「それって、
僕と関係しているんですか?」
「似ていると思うんだけど?」
「アリと?
だいいち、
アリなんて、
黒くて、小さいから、
影と区別がつくんですか?」
「ちょっと違うかな?」
「ちょっと、なんですか?」
「ほら、
私たちの影だって、
全然、
違うでしょ?」
土手の斜面にできた、
僕らの影を、指さします。
僕らの影が、
寄り添って並んでいます。
「アリの方が、
もっと違うと思うけど?」
「あなたって、
どっちを向いて生きているの?」
「どっちって?」
「私たちって、
この空間にしか、
向いてないでしょ?
あなた以外の私たちよ?」
僕、
ちょっと、
びっくりしたんです。
「空間だけ?」
彼女が、うなずきます。
「私たちって、
まるで、
過去、現在、未来って、
流れる川の中を
流れているようなの。
でも、
影って、向きが違うのよね。
とくに、
あなたの影って、違うのよ。
この空間の向きとは違うの」
どうしてだか、
僕には、
彼女が言おうとしていることが、
わかったんです。
ー つづく ー
影を、
好きな向きに置けたら、
面白そうですよね![]()
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