そのお姉さんは、僕のことを、
知恵遅れだと、思ったようです。
憐(あわ)れむように、
声を、やさしく、ゆっくりとします。
「その、
手に握っているもの、しまおう?
大事なものよ?
出していると、
誰かに、持って行かれちゃうかもよ?」
でも、
そのお姉さん、僕のことを見てないんです。
僕の左斜め上を見ているんです。
僕は、
かえって、左斜め上が気になって、
落ち着けなくて、
余計に、
知恵遅れみたいに見えるのかもしれません。
とりあえず、
鍵を、しまいます。
僕が、素直に、
言うことをきいたのが、
うれしかったようです。
「しまってくれて、ありがとう。
あなた、何歳(いくつ)?」
「19歳です」
「19歳?
若く見えるわね?」
子供ぽく見えるってことでしょうか?
もっとも、
何度も言いますけど、
僕の左斜め上を見ているんです。
誰と、話しているのか、
わからなくなります。
「私のこと、
気持ち悪いって思っているんでしょ?」
「思ってないですけど・・・」
「ないですけど・・・何?」
「僕のこと、見ているんですか?」
「私、斜視(しゃし)なのよ。
斜視って、わかる?」
指で、目を指(さ)します。
「目が、違う方を向いているの。
でも、ちゃんと、あなたを見ているわよ。
隣(となり)に、座ってもいい?」
「どうぞ?」
僕は、ちょっと、横に、ずれます。
お姉さんは、ドカッと座ると、
肩で、大きな息をつきます。
「あぁ・・・びっくりしたぁ・・
だって、こんな所で出しているんだもの。
どうして、出していたの?
ここ、公園だから、
散歩させている犬だって、いるでしょ?
犬が、
ソーセージだと思って、
噛みついたら、どうするの?」
「ソーセージ?」
「私だって、
始め、ソーセージかと思ったもの。
手に持って、
食べてるのかな?って思ったのよ」
「鍵ですけど?」
「なんで、出していたの?」
「何の鍵かな?って」
「へぇ~、鍵だと思っているんだ?」
「夢の中で、もらったんです」
「へぇ~、そうなんだ」
お姉さんは、
僕を、知恵遅れだと思っているので、
何を言っても、
納得しているフリをするんです。
ー つづく ー
ソーセージに見える?![]()
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