PUPSのブログ ~子犬の社会化・育て方~ -100ページ目

人を咬む犬と暮らすこと。その6

「スイッチ」に対しての不安の解き方を、他に二つほど挙げておこうと思います。何かしらの参考になれば。

ただし、咬む犬には、一頭一頭それぞれの理由があります。チカにやってきたことは、チカだけに有効なことかもしれません。他の犬にやったら、よけいに悪化することも考えられます。サンプルのケースとして読んでください。


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スイッチ①『狭い場所でチカに近付く』

壁に囲まれた場所、行き止まりの場所でチカに近付くと、「追い詰められた!」とでも言うような勢いで咬み付いてきます。

例えば、お風呂場にチカを入れて後から私が入る、などの状況で。


これに関しては、「追い詰める」形にならないように留意しました。

お風呂にはまず私が入ってからチカを呼ぶ。壁際にいるチカにはこちらから近付くのではなく呼び込む。というように。

今でも、狭い場所で接近されると、咬むまではないけれど緊張するので、必ず呼び込んで首輪を掴むようにしています。


スイッチ②『足、耳、口の中に触る』

足を拭く、耳掃除、歯磨きなど、敏感な部位に触ることは全くできませんでした。触ろうという素振りだけで咬み付いてきます。


これは、ゴホウビを使いました。コングなどでオヤツを舐めさせながら、さりげなく手の甲を部位に触れさせるところから始めました。

少し慣れたら、部位に触る前に言葉をかけるようにしました。

「みみだよー」と言って耳を触る。「くちだよー」と言ってマズルを上からなでる。もちろんコングを舐めている間に。

コングを見ると、「あのゲーム(コング舐めながら体を触られる)だな」とチカがやることを分かってきたら、今度は部位に触ってからコングを舐めさせます。

「みみ触るよー」と言って耳に触れてからコング。「くちだよー」と言ってマズルを撫でてからコング。というように。

部位を触られることを警戒するのは、何をされるのか分からない不安のためだろうと思いました。なので、触る前にどこを触るのか、予め伝えてから触るようにしたのです。

繰り返すうち、「みみは?」と言うと自分から頭を傾けて耳をこちらに向けるようにまでなりました。ここを触られると美味しいコングがもらえることが分かったのです。

今は、器具(爪切り、ブラシ)を近づけるとやや緊張しますが、手で触ることはどの部位でも問題なくできます。


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その他にも何点もスイッチがありましたが、一つの不安を解消してあげるとそれをきっかけに他の2、3の不安も同時に解消されていったようでした。

今は、チカの「咬み犬スイッチ」が入ることはほとんどありません。

万が一スイッチが入りそうになっても、チカの気持ちを静めることが出来るし、チカ自身も、自分の不安な気持ちを静めることが出来るようになりました。

「咬み犬スイッチ」になっていた事に対してのチカの不安を、いっこいっこ解いていって、チカのそばにいても「怖い」と思わなくなったのは、彼を引き取ってから2年後でした。


以前だったら、咬み付いてくる犬に対して、「人を咬むのはいけないことだ!」と徹底的に犬に教え込む、という方法をとっていたと思います。結果、犬の緊張はさらに高まり、それをまた力で抑え込むという悪循環にはまっていたでしょう。

チカは、私に「犬と会話する」という、トレーニングの根っこを教えてくれました。

でっかくて、世話の焼ける犬だけど、この犬と縁があったことに感謝しています。


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人を咬む犬と暮らすこと。その5

チカの「咬み犬スイッチ」の中で一番困ったのは、



・チカが臭いをかいでいる時に私が近づく

・狭い場所でチカに近づく 



の2点でした。



「臭いを嗅いでいる時」、というのは、例えば、道に落ちていたお菓子の袋の臭いをチカが嗅いでいて、「何を嗅いでいるのかな?」とチカに目をやった瞬間。

オモチャで遊んでいて、チカがそれを咥えた時に私が近づいた瞬間。

つまり、チカが興味を向けているものに私が興味を向けた瞬間、そして、チカが何かをくわえている時に私が近づいた瞬間です。

こうした瞬間は、生活の中に多々あるし、チカが何か嗅いでいることに気付かずに近づいてしまって、危うく咬まれそうになることもあって、とにかく油断ができませんでした。


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現在はこうして遊べるが、当時はチカがくわえているものを触ることは絶対にできなかった。


チカを観察すると、気になるものを見つけた時、まだ私がそれに興味を示すより前から、こちらを気にしながら体を硬くして緊張していました。まるで、気になるものを見つけると、必ず嫌なことが起こる、と思い込んでいるかのように。



チカが興味あるものを見つけたとき、例えば、道に落ちているお菓子の袋を拾った時、取り上げようとして「それをよこしなさい!」と指示を出したら、チカは圧力をかけられた恐怖と、自分の物を横取りされることへの反感で、余計にお菓子の袋に執着し、私への恐怖と対抗心をあおってしまいます。

チカは、恐らく以前に何度か、「取り上げられる」体験をしているのでしょう。それで、何かを見つけた瞬間に警戒、対抗する姿勢をつくっているのです。


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トレーニングは、まずチカの警戒心を解くところから始めました。

チカの頭の中の公式、

「何かをみつける→嫌なことが起こる(人に叱られる、取り上げられるなど)→警戒する、対抗する」を壊して、「警戒しなくても大丈夫」であることを伝えようと思いました。


チカにまず、おもちゃを幾つか与えます。

食べ物関連のものは執着が強くなるので、まずはおもちゃを使って練習しました。おもちゃが一つだけだと、やはり執着が強くなるので、幾つかのおもちゃを与えました。

チカはそのおもちゃを物色しながら、私の動きを気にしています。そしてチカの意識が警戒まで高まらないうちに、私は「バカ騒ぎ」をやってみました。「わー!かわいいねー!そのおもちゃかわいいね!良かったね!いいねー!」と、楽しそうな声で、飛んだり跳ねたり、小走りで動き回ってみたりしました。チカはキョトンとして私の「バカ騒ぎ」を見ています。なにやってるんだろう??って顔をして。


犬にとって、動きを止めてじっと見ているというのは、警戒させる態度です。それと真逆の態度をとって、「警戒する必要がないよ」を伝えようと思ったのです。

方法は間違っていなかったようで、チカの「キョトン顔」は私への警戒心を解いている証拠でした。まずはチカの中の「何かみつける→警戒する」の公式を壊せたのです。

これを何度も繰り返し、おもちゃをくわえていても私を警戒しなくなったのを見計らって、今度は「おもちゃをくわえている時に近づく」へステップアップしました。

「バカ騒ぎ」で警戒を解いた後、一歩近づいてすかさずチカに向かってオヤツを投げる。「バカ騒ぎ」、近づいてオヤツ、離れてバカ騒ぎ、これを繰り返します。

「私がおもちゃを取り上げる気がないこと」と「私が近づくと良いこと(オヤツ)がおこること」が分かったチカは、おもちゃをくわえている時に私が近づくことに警戒しなくなり、ついには私が近づくのを喜ぶようになりました。


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警戒が解けたら、次は指示でおもちゃを出す(渡す)ことを教えます。

これも、「出しなさい!」と指示するのではなく、「出すと良いことがある」事を教えました。

まずはおもちゃをくわえたチカにオヤツを見せて、口からおもちゃを離した瞬間に「イイコだ!」と褒めてオヤツを与えます。(チカが自分からおもちゃを離すまで、ただ待つ。手は出さない。)

ここでチカが出したおもちゃを慌てて取りあげるなんてことは絶対にしません。私はおもちゃが欲しい訳ではなく、ちょうだいと言ったらくれるようになって欲しいだけなのです。

「ちょうだい」といいながらオヤツを見せる。チカが口からおもちゃをだしたら「イイコ!」でオヤツを与える。これを何度も繰り返します。

初めはオヤツを食べたら慌てておもちゃをくわえ直していたチカも、私がおもちゃを取り上げる気がないことが分かると、「ちょうだい」という言葉ですぐに口を緩めておもちゃを離すようになりました。

次のステップで、「ちょうだい」でおもちゃを落とすだけではなく、私の手の上に落とすことを教えました。これで、「ちょうだい」と手を出したら、チカは口の中のものを私の手に乗せることが出来るようになりました。


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ここまでくれば、おもちゃを取られまいとする警戒心は無くなり、

「おもちゃをくわえている時に私が近づくこと」、「『ちょうだい』と言われたときにおもちゃを私に渡すこと」が、楽しくて得があることだと理解しています。


今は、おもちゃを使って遊ぶことも、おもちゃを指示で出させることも、なんの危険もなく出来ます。


なんだ、単純なことじゃないか。

「こうすれば、いいことあるよ。こうすれば楽しいよ。」を犬に伝えてあげればいいんだ。

理由もなく、ただ「やりなさい!」と命令するよりも、ずっとシンプルな方法です。

私はとっても気が楽になりました。犬は、私が考えていたよりずっと、自分で考えて学習ができる動物だったのです。







人を咬む犬と暮らすこと。その4

犬の立場から考える。

犬の言い分を聞く。



今までの訓練方法では、それは「必要がないこと」でした。犬の言い分を聞いていたら、こちらの言う事を聞かせられないじゃないか、と、今までの私は考えていました。どんなことよりも人の言う事を最優先に聞くように教え込むのが、犬をコントロールすることだ、と。




そして、チカの壁にぶつかったのです。

「言う事を聞きなさい」と頭ごなしに、一方的に要求してくる私の行動を、チカは受け入れませんでした。私の行動は、チカには「ケンカを仕掛けられている」としか見えなかったのかもしれません。私が何を言っているのかを考える余裕もなく、「怖いのは嫌だ」と、自己防衛の牙をむいているようでした


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犬の犬らしさを全て抑え込んで、有無を言わせず従わせる。

そんな方法しかないのだろうか?

そうしていかないと犬とは暮らせないのだろうか?

お客さんの犬をトレーニングしながら、漠然と感じた疑問は、チカを迎えたことで自分の問題となって、目の前に現れました。今度は、疑問の核がしっかり見えました。



チカは、私が何を言っているのか分からない。

私は、チカがなぜ咬むのか分からない。

私たちはお互いを理解していないのです。交わってないのです。

一方的にこちらの要求だけを押し付けて、チカがどう考えているのかを知ろうとしませんでした。つまり、コミュニケーションを拒んでいたのです。一緒に暮らすと決意しながら、一緒に暮らす意味を理解していなかったのは、私だったのです。


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それから、私はトレーニングをいったん中止しました。トレーニングの前にまず、チカという犬を知ろうと思いました。咬まないように教える前に、なんで咬むのかをまず知りたいと思いました。「咬む=悪いことだから止めさせる」というのは私の一方的な考え方です。「咬む理由」をチカに聞こうと思ったのです。



腕を咬まれたとき、チカの態度から、そこに「不安」や「恐怖」があるように感じました。チカを観察していると、表情が硬くなったり、唸り声を出したり、咬みにつながる行動が出るときは、チカが不安を感じている時だと思いました。


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チカの「不安」を取り除こう。

家の中で安心して眠れる巣穴(ケンネル)をまずチカに与えました。その中にいる時には、覗き込んだり、外から声をかけることをしないようにしました。ここは自分だけの場所、そうチカが認識して落ち着けるために。

部屋に出す時にはリードをつけて、初めのうちは私のそばに常に居させるようにしました。そして、チカが不安になった時(チャイムが鳴った、外で何か音がするなど)は、リードで誘導してハウスへ入れました。ここなら安全だから、ここにいなさい、というように。


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